(10)理想的な勇者の姿
「俺・・・?」
伺うように少し首を傾げるディーナンに頷いてみせる。
私を見つめる闇の様な瞳。
『祝福』ほどではないが滅多にいない黒い目は、他のどの色の目よりも魔力を視るのに長けていて、その上黒目の人は全ての種類の魔法に適性があると言われている。
「俺は、そうだな・・・ただの放蕩息子だと思ってくれればいいよ」
「は?何よそれ」
「だって俺、冒険者でもないし、剣も魔法もそこそこだから」
芝居がかった仕草で肩をすくめるディーナン。
「黒目は遺伝だから出自を明かせねぇんだよ」とコーダンがフォローしてくれなかったら、ラーニカがまた喧嘩をしかけるところだった。
「で?」
コーダンの方を向くと、試すような視線と目が合う。
先ほどは何も言わなかった彼だが、やはり私の『祝福』については興味があるらしい。
『祝福』は遺伝ではない。けれど私も、出自を明かすのは躊躇われた。
「名前はリーアン。年は14。生まれは南東の田舎町。剣はそこそこ使えるけど、風魔法が得意だから魔法剣士になるのかな?」
「風魔法・・・?」
ディーナンの口から洩れた呟きを、私はあえて無視して続けた。
「冒険の目的は、魔王を倒して勇者の称号を得る事。少し急ぎの旅ではあるけど、慈善活動はしていこうと思ってる」
一瞬だけディーナンの方を見ると、疑わし気に目を細めていた。
やっぱり『祝福』が見えるくらいだから、私の魔力の色も見えているんだろうな。
「で、僕が持っている『祝福』だけど」
部屋を見回すと、当然だけど3対の視線が集まっていた。まるでトリックの種明かしをするみたいな雰囲気だ。
「『身体強化』と『魔力強化』の2つを持ってる」
「2つ?」
あまりにも驚いたのか、コーダンが座っていたイスがガタッと音を立てる。
「え、『祝福』って2つ持てるんだっけ・・・?」
ほとんど同時に、ラーニカは何かを思い出そうとするように目を伏せた。
ただでさえおとぎ話レベルの『祝福』を2つ持ってるなんて、嘘だと思う方が普通だろう。だから、もう少し仲良くなってから話そうと思っていたのに。
「他の人は知らないけど、僕はそうらしい。教会の人も『信じられない』って言ってたけど」
誰もが嘘だと思うような、だけど本当の話。
全ての魔法を管理している協会、しかも中央協会の神官にまで確認したんだから間違いようがない。
だから、私も教会から「リーミア」なんて少し古い名前をもらったのだ。
「明日試してもいいか?」
「うん」
「あ!あたしも!」
「じゃあ冒険者ギルドで依頼でも受けてきてよ」
疑わしきは試して確かめる。手っ取り早くて実に冒険者らしい方法だ。
と、言うことで明日の予定も決まり、晩ご飯を食べてベッドに入る。
仲間への秘密がひとつ減って、この日は少しだけスッキリした気持ちで眠りについた。
翌朝、さっそく冒険者ギルドに向かうコーダンとラーニカを見送り、私は街の広場に来ていた。
冒険者ではない私は偽装依頼がバレないためにもギルドへは近づかない方がいい。
ちなみに、1人だ。ディーナンは朝から姿が見えなかった。けど、黒目持ちなら私の魔力くらいすぐに探せるだろうと放って置くことにした。
広場の中央。池と花壇に囲まれて、石像が立っている。
勇者ローレン一行だ。
勇者と魔法使いと神官と戦士と学者の5人パーティ。実際に会った事のある人達が、記憶のものよりも随分と若い姿で石像になっている。
凄く絵になる、理想的な勇者の姿だった。
「勇者ローレンは『身体強化』の『祝福』持ちだって噂を聞いたことあるけど?」
突然隣に現れたディーナンに、驚いたのは一瞬だけ。
この人はこうやって神出鬼没なのがトレードマークなのかもしれない。
「そうらしいね」
噂というか、事実だ。勇者ローレンは『身体強化』の、魔法使いニーニアは『魔力強化』の『祝福』を持っていて、遺伝しないはずのその両方の『祝福』を、私は持っている。
本来であれば、喜ばしい出来事だ。
性別なんて問わずに勇者ローレンの後継として表に出てもいいはずの、類まれなる素質だ。
私の瞳が、生まれた時から風の色であったのなら。




