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第7話「新しい日々。/This life」


 私、先導綾女! 

 身長175cm、体重56kg、長い黒髪で顔を覆い隠して、さらにメガネで目元すらも隠している、何処からどう見てもド隠キャな女の子っ☆


 ひょんな事からクラス内カーストぶっちぎり上位の光属性ギャル、春野琴音ちゃんからバンドに誘われちゃってもぉ〜たいへんっ!


 誰からも認知されず、人知れず孤独に終わっていくものだと思っていた私の学校生活! いったいどうなっちゃうの〜!?


 

 …………と。少女漫画でありがちな導入を頭の中で繰り広げてみた。とてつもなく虚しくなった。

 

「華蓮先生。今日ちょっと体調悪くて休──」

「食パン3枚も食ってて何言ってんの。っていうかそれ4枚目。食べ過ぎだよ」


 もしゃもしゃと、朝食の食パンを口に詰め込みながら休もうとする私を律する華蓮先生。

 確かに食パン4枚食べながら言うセリフでは無かった。これは失敗だ。何か別の言い訳を考えないと……。


「……ちょっとお腹痛くてぇ……」

「もうグダグダうっさい、ほら! さっさと行く! 電車遅れるよ!」


 5枚目の食パンに手をつけようとした所を止められ、私は華蓮先生に首根っこを掴まれながら玄関口まで運ばれていく。


 頭の中で「ドナドナド〜ナ〜」といううろ覚えの動揺を流しながら、あまりにも重すぎる足を引き摺って電車に乗り込んだ。


 どうかこのまま、夢の国でも連れてってくれないだろうか。

 そんな事を思いつつ揺られること約1時間。

 学校近くの駅にたどり着いた私は大人しく電車を降りて学校へと向かった。



 :



 我が清桜高校、通称「セイコー」には、いわゆる「隠キャ」と呼ばれる系統の人種は少ない。

 


 セイコーは自由な校風がウリで、「色々な活動に参加し、協調性や主体性を高めて欲しい」といった理由から、部活動の種類やその他イベント等が非常に多かったりする。


 小倉内にある高校の中ではトップクラスで、他県からわざわざこの高校に入学したくて受験する人もいるくらいだ。


 偏差値は62と割と高く、入学するにはそこそこ頑張る必要がある。


 なので私も受験に際してはかなり頑張った。

 その時に培った知識は合否が判明した瞬間に消えちゃったけど、合格してしまえば、あとはどうとでもなる!


 そう、友達関係だってね!



「そんなふうに思ってた時期が私にもありました……」



 ホームルーム前の、騒がしい教室の中。

 一人ポツンと机に突っ伏して寝たふりをする私は、両腕で作り上げた頑強な壁の中で、心情を吐露する。

 

 もう知ってると思うけど、私先導(センドウ)綾女(アヤメ)には友達がいない。

 「僕は友達が少ない」どころか「私には友達がいない」である。自分で言ってて悲しくなってきた……。


 華々しく高校デビューを飾ろうと、自己PRの際に特技のシャウトをかまそうとしたんだけど、寸前のところで踏みとどまり、名前を言うだけに終わった。


 今にして思えば神の采配と言えるけど、なんの面白味の無いPR過ぎて、今じゃ私は教室の空気と化してゆき、この有様である。

 

 だがっ! そんな私にも転機が訪れた!

 たまたまカラオケで歌っていると、光属性のギャル、春野琴音さんが私の歌を気に入り、バンドに誘ってくれたのだ!


 バンドをやる気は無かったんだけど、少し前にセッションをして、それがとても楽しくて……。だから私は、彼女と一緒にバンドをやる事に決めた。


 正直、今でもバンドなんて無理って思ってる。

 だけど、心の何処かに憧れはあったので、とりあえずやってみる事にした。

 

 それに、せっかく春野さんが誘ってくれたんだ。彼女とちゃんと友達になる為にも、私もバンド活動頑張るぞ〜っ! 


「あっ、あやちおはよ〜!」

「えっ!? あっ、は、春野さんっ!」


 なんて意気込んでいると、背後から春野さんの声が聞こえてきた。

 慌てて顔をあげると、太陽をも思わせるキラキラとした光を放つ(ように見える)春野さんの笑顔が、眼前で煌びやかに花開いていた。

 気を抜いたら鼻血が出ていたかもしれないくらいに可愛くて、私は「ふへへ……」と気持ち悪い笑みで返す事しか出来なかった。


「お、おおおはようございます、春野さん。へ、ふへへ……きょ、今日も可愛いですねぇ……」


 じゅるりと、口から溢れたよだれを拭いながらそんな事を言ったせいで、周囲から向けられる視線が段々と鋭利なものになっていく。

 あ、いや違くて。別に美少女を前にしたから舌舐めずりしたとかそういう訳じゃないんですこれは……!

 

「あはは、なにその言い方ウケるんだけどww」

「えっ、あっ、恐縮ですぅ……」


 快活に笑う彼女を前に、私はへこへこと頭を下げる。

 これ、他の人から見たらどう見えてるんだろ……ギャル相手に媚びへつらう薄汚いド陰キャ女とか思われてるんだろうか……事実ですけど。


 そんなくだらない妄言を頭の中に並べていると、いつも春野さんとつるんでるギャル友の三人が近付いてきた。


「おはよ琴音。なにしてんの?」

「あれっ、その子いつも一人で音楽聴いてる一匹オオカミちゃんじゃん!」

「ことねちゃん、いつから仲良くなったの〜?」


 クール系黒髪ギャルに地雷感マシマシの快活系ギャル、そしてダボっとガーディアンを着こなす萌え袖ゆるふわ系ギャルを前に、私の脳みそはフリーズする。

 なにこれ、ギャルのバーゲンセール?

 

「えっ、あっ、ああああの、ええっと……」


 別に私に聞かれた訳じゃないんだけど、春野さんが私みたいな日陰者と話しているところを見られてしまった以上、ギャル達に何かしら弁明する必要があるのでは無いか。


 そう思い、何とか言い訳を考えるが……ダメだ。

 目の前に「陽」を象徴するギャルを前に、まともな言い訳が思いつかない。

 ああでも、早く何か言わないと春野さんが勘違いされてしまう……!


「あ〜……そうだね〜。まぁアレだよアレ……そうっ! キモチイイコトした仲、みたいな?」

「ちょっと春野さんッ!!?」


 などと思い悩んでいる間に、春野さんがとんでもなく勘違いさせてしまう発言をし、ギャル達の表情が凍った。

 こ、これはマズい……! 確実に話が良くない方向に進んでしまう! 


「きっ、キモチイイコトって……! 琴音、あんたその女とナニしたの!?」

「え? 何って……セッション?」

「セック[ピー]!?」

「いや言ってないですよ!? セッションですセッション!! ほら、ギターとかドラムとか、一緒に合わせて演奏するヤツ!!」


 このままだと、私と春野さんにあらぬ疑いがかけられてしまうので慌てて弁明する。もう遅いかもしれないけど!


「へぇ〜、そういうのを『セッション』って言うんだぁ〜。先導さん詳しいんだね〜」

「へっ!? あっ、きょっ、恐縮ですぅ……!」

「……ってか、なんでアンタが説明してんの? 琴音とどういう関係なの?」


 クール系黒髪ギャルから睨みつけられ、「ぐぇっ」と踏み潰されたカエルみたいな声が漏れる。


「あ〜、確か琴音ギター弾いてたよね? なになに? ついにバンド始めちゃうの?」

「そ〜だよ! 中学ん時からずっとやりたかったんだけど、バンドメンバーいなくてさ。でも、あやちと出会って、ようやく形になりそうなの!」

「……そうなんだ」


 春野さんは楽しそうに語りながら、私の腕に抱きついてくる。

 まさかギャルに抱きつかれる日が来ようとは……と一人でに感動していると、クール系黒髪ギャルから睨まれてしまう。ギャルの眼光こわ〜……。

 

「へぇ〜。ってことは先導さんとバンド組むんだ〜。わたしバンド詳しくないからわかんないけど、頑張ってね〜、応援してるよ〜」

「ありがと、夏帆(カホ)っ!」

「私は結構ロック系好きだし、ライブするってなったら教えてよ! ぜったい行くからさ!」

「うんっ、美羽(ミウ)もありがとね!」


 蛇に睨まれたカエルに成り果てていると、春野さんはゆるふわ系ギャルと地雷系ギャルと親睦を深めていた。

 春野さん、そちらで盛り上がるより先に此方のギャルをどうにかしてくれませんか……?


「……アンタもバンドやるんでしょ。なにすんの?」

「えっ、あっ、あのっ、一応ボーカルを……」

「はぁ? アンタが歌うの!? なにそれ、いつも何言ってんのかわかんないのに、ちゃんと歌えるワケ? ってか、()()()琴音がボーカルでいいんじゃないの?」


 ずいっと顔を寄せられ、言葉責めされる。

 何このギャル。目力だけじゃなくて毒性も強いんですけど……!


「ちょっと麗奈(レイナ)、ウチのボーカルいじめないでよ!」

「……別に。虐めてないし」


 春野さんに止められ、麗奈(レイナ)と呼ばれたクール系ギャルは、最後に私を一睨みしてから自分の席に戻っていった。

 ……私、どこかで彼女に嫌われるような事をしたのだろうか。


「あ〜、ごめんね先導さん。麗奈(レイナ)って隠キャ嫌いだからさ。たぶん素が出ちゃったんだと思う」


 薄い記憶の湖を漁っていると、地雷系ギャル(見た目だけ)の美羽(ミウ)さんに唐突に毒突かれた。いよいよ本格的に体調悪くなってきたから帰ろうかな☆


「でも、私はロックバンドとか良く聞くから! 隠キャとかそういうの関係なく、カッコ良かったら絶対に好きになるから! だから先導さんの歌声、今度ナマで聴かせてよ!」

「あ〜、私も聴きた〜い」

「あ、ああはい、その時は是非……」


 曖昧に返事をしながら、その場をやり過ごす私。

 自分の席へと戻っていくギャルを見送りながら、エッジの効いたため息を吐き出した。


「……春野さん。流石に『キモチイイコト』発言はキモを冷やしましたよ……」

「あ〜……ごめん。ちょっと焦っててさ。でも、キモチ良かったのはガチだよ?」


 顔を覗き込みながらそんな事を言ってくる。

 これ、もしかして隠キャをからかう為にわざと言ってない???


「……それで、春野さんは自分の席に戻らないんですか?」

「うん。とりあえず先に言っとこうと思って。ウチらバンドを組んだのはいいけどメンバー足りないじゃん? だから今日の放課後、バンドメンバー探しに行くから。あやちも着いてきてね!」


 春野さんはそれだけ言い残すと、さっさと自分の席に戻っていった。


 そっか。確かにボーカルとギターだけじゃバンドは組めないし、メンバーを集める必要があるよね。

 でも、メンバー探しかぁ……。一応この学校には軽音部があるし、そういう所から探して行くのかな?


 そんなふうに思っていたんだけど、春野さんは私の予想を遥かに上回る人物の元へと足を運んでいった。

 

サブタイトル

Pay money To my Pain「This life」

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