表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/20

第3話「これが私の生きる道。/To Be Alive」①


 ギターケースを掲げて告げる春野さんに、私は何と答えたらいいか分からず足踏みをしてしまう。

 

 元々会って謝ろうとしていた訳だし、ここで逃げる訳にはいかない。

 けど、「ウチがギター弾くからそれ聴いて考えてね☆」なんてこと言われたらますます断れないし……!


「ぎっ、ギターを聴かせたいって言うけど、どこで? 多分ですけど、それエレキギターですよね……?」

「──流石だね、あやち。見ただけでわかるなんて。これはやっぱバンド組むしかないよあやち!」


 ずいっと顔を近づけて「バンド組むよね?」という圧の籠った視線を向けてくる。

 流石にあれだけラウドやメタルの話してるのにアコースティックギターとは思わないよ……!


「い、いやいやいやちょっと待ってくださいっ! エレキギターなら尚更無理ですよ!」

「……え? あやちってもしかしてファッションラウド……?」

「何ですかその謎用語!? ち、違います! エレキギターならアンプとかシールドとか必要になりますよね!?」


 私の身長が無駄に高い為、春野さんはどうしても此方を上目遣いで見ることになる。

 めちゃくちゃ可愛いし何かよくわからないけど良い匂いがして頭が沸騰しそうになるが、私は彼女がここで「ギターを弾けない理由」を的確に指摘した。


「エレキでしっかり音を出すんなら、音を出力させるアンプと、弦の振動を電気信号へと変換させるシールドケーブルが必要になります! でも、ここには無いですよね!? なら無理なのでは!?!?」

「ギター弾けない理由をここまで積極的に熱弁する人あやちが初めてだよ……」


 私のあまりの熱量に引き気味の春野さんだが、事実として機材が無いとエレキギターをいくら上手く弾けても音が小さすぎて周囲の雑音に掻き消されてしまうのだ。


 なのでアンプが置いてある場所に行ってセッティングする必要があるんだけど……。


「ごめん、ここから一番近いスタジオって、何処にあるっけ?」

「たぶん、小倉駅近くの【あるあるtown】の中にあるスタジオぐらいかと……」


 あるあるtownとは、アニメや漫画、ラノベにゲームなどのポップカルチャーが集うオタクの為の商業施設だ。

 私はそこのカラオケボックスによく行っているので、スタジオがあるのは知っていた。


 だが、私たちのいる地点からスタジオが併設する「あるあるtown」まで行くには、電車でだいたい30分は揺られる必要がある。

 流石に遠すぎるので今から行くのは無理だ。というか私に関しては門限があるし。


「それを踏まえて考えると、やっぱり今から行くのは無理があるかと……」

「……わかった」

「わ、わかってくれましたか!?」

「今からウチがギターを弾いてるふうに見せるから、あやちはそこで聴いてて!」

「うわ何にもわかってないッ!!」


 ダメだ、このギャル一度決めたら絶対に引かないタイプだ! 別の何かは弾こうとしているけど!


「弾いてる『ふう』って、だからアンプに繋げないと音出ないんですって! 何を聴けって言うんですか!?」

「そんなの、ラウドロック好きならわかるでしょ!? ──『魂』で聴くんだよ」

「ラウドロック好きである事とまったく結びつかないんですけど!?」

 

 春野さんは私の指摘を完全に無視して、ケースからギターを取り出して本当に弾こうとし始める。

 なんかケース見た感じ、そこそこ高そうな雰囲気を感じるのは私だけでしょうか!? これ【FGN】のロゴが入ってるけど、多分「FUJIGEN」のギターだよね!?


 安くても5万とか10万とかするイメージだけど、それを河川敷に出して落として壊れでもしたら大変だ……!


「ああああわ、わかりました! 聴きます! 聴いてから決めますから! いったん落ち着きましょう!? 明日! 明日なら時間も余裕ありますから──」

「それでは聴いてください……。【coldrain】で、【GONE】。アコースティックversion……」

「なにアンプ無しでもやれそうな曲チョイスしてるんですか!? あと『バージョン』のとこだけちょっと発音良さげに言うのうざいからやめてください!!」


 この人突っ走り出したら止まらなくなるタイプなの?私より小さいのに力めっちゃ強いし……!


 そんなやり取り(?)を河川敷で繰り広げていると、道路側から「お〜い」と此方を呼ぶ声が聞こえてくる。


 も、もしかして河川敷で女子高生同士が揉めてると思われて声をかけられたのかな……?

 

「綾女? なにしてるのそんなところで。ってあれ? その子だれ? 綾女の友達?」

「……へっ?」


 視線を向けると、私の暮らす児童養護施設の施設長 四 華蓮(アズマカレン)先生が、ファミリー向けの車の窓から顔を覗かせて手を振っていた。




 :




「なるほど、それで綾女と言い争ってたワケか」

「そうなんです。あやちったら全然ウチの(ギター)聴いてくれなくて……」


 送ってあげるよ〜と、私と春野さんを車に乗せた華蓮先生はすぐに春野さんと打ち解けていた。

 なんか「話」のルビがおかしい気がしたんだけど気のせいかな? いま絶対に「ギター」って言ったよね???


「そっか、ごめんな〜うちの子が。この子ド陰キャだからキミみたいに可愛いギャルを前にしたら腰引けちゃうんだよ。ほら綾女、ギター()くらい聴いてあげな」


 うん、私の聴き間違えじゃない。絶対にギターって言ってるわこのギャル。

 

「いや、聴いてあげなって……。聴こうにもアンプも無いのにどうやって……」

「アンプ? それならあるよ、あたし達の帰る施設に」

「えっ!? マジですか!?」


 後ろの席から身を乗り出す勢いで尋ねる春野さんに対し、華蓮先生は「マジマジ〜」と本当(マジ)なのかどうかわからない返答をした。

 

「ほら、本館から少し離れた先に物置になってる部屋あんでしょ? あそこ一応スタジオとして使えるようになってんの」


 人差し指をフリフリしながら説明する。

 物置として使われてるのは覚えていたけど、あそこスタジオだったんだ……。


「なんで施設にスタジオなんか……」

「まぁ、スタジオっていうか音楽室って事にしてたんだけどね。殆ど使ってないから気になるよね〜」


 尋ねると、華蓮先生は運転しながら答えてくれた。


「あたしが 四華学園(ヨツハナ)の施設長になる前、親父が音楽好きでさ。子供たちに音にたくさん触れて欲しいからって無理やり作らせたんだよ。……まぁ、親父が死んでからはあたし以外誰も使ってないけど」


 「笑えるよね」と口にしながら肩を震わせて笑う華蓮先生。

 その度に束ねてあるポニーテールがゆらりと揺れ、うなじから覗く黒いタトゥーが目に入る。



 華蓮先生は、見た目年齢では20代前半にしか見えないけど、今年で40歳になる()バンドマンで、()施設長だ。


 元々は華蓮先生のお父さんが施設長をやってたんだけど、ちょうど私が拾われる数日前に事故で亡くした。


 それから色々あって、元々組んでたバンドをやめてお父さんの仕事を継いだ先生は、仕事の合間をぬってスタジオに入り浸り、楽器を演奏してストレスを発散していたらしい。


 らしい、というのは今聞いたからだ。

 たまに他の職員さんから「アズマさん見なかった!?」と聞かれてたのは抜け出して弾きに行ってたからなのか。

 話が話なので「サボるな」とは言えなかった。


「まっ、そういう事だから使っていってよ。ある程度の楽器は揃ってあるし、何ならあたし叩けるからセッションでも何でも来いだよ?」

「……え? あやちンとこの先生、神?」


 割と本気のトーンで尋ねられ、私は無言で首を振るしか無かった。

 神では無いけど、私にとっての大事な人であるのは確かだ。この人が私を拾ってくれた、いわば命の恩人でもあり「ハハオヤ」なのだから。


「それに。あたしとしては久しぶりにあやちの歌聴きたいけどな〜?」


 赤信号で止まった瞬間、華蓮先生がニヤニヤしながら振り向いてきた。お願い、前向いて。運転に集中して。

 ……とは言え。ニヤニヤしてるけど冗談は言ってない事はわかるので、私は仕方なく頷くしかない。


「……一回だけですからね」

「うん。その一回でいいよ。その一回で、ぜったいにあやちのことを振り向かせてみせるから」


 そんなセリフを恥ずかしげも無く言ってのける春野さんの言葉に、顔が少しだけ熱くなる。


 もう、こうなったら全力で歌ってやる。

 いま私が抱えてる不平不満、ストレスの全てをマイクにぶつけて叫んでやる……!




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ