第20話「燃やせ、闘争の火。/WATCH ME BURN」②
翌日の放課後。
華蓮先生と話をつけていた春野さんが、「スタジオ貸してくれるってさ!」と目を輝かせながら報告してきた。
今後セッションをする際、わざわざ外部のスタジオを借りずとも、「うちにあるスタジオを使えばいいよ」と許可をもらったみたい。
他のスタジオを借りるとなると当然お金がかかるし、それに私は門限があるから、長時間のセッションは難しい。
そう考えると、華蓮先生の提案はとてもありがたかった。
さらに春野さんは、スタジオを使わせてもらうお礼にと、子供たちや職員さんたちへ菓子折りまで持参していた。
なんて出来た子なんだ……。
私なんて、そんな発想まったく浮かばなかったというのに……!
「何がいいかわかんなかったから、小倉わらびにしたけど……あんこ苦手なコいたらごめんね?」
その上、何という気遣い……!
あっ、駄目だ。人としてあまりにも出来すぎていて、私の中のしょうもない自尊心が悲鳴をあげている……!
「……琴音。そいつどうしたの?」
「またバグっちゃったの? やっぱ先導さんって面白いよね〜!」
「も〜駄目だよ美羽〜。先導さんだって、自分のおかしさに苦しんでるんだから〜」
「いや、何気にあんたが一番酷いこと言ってるから……」
放課後の教室で机に突っ伏していたら、春野さんのギャル友さんたちが近づいてきた。
麗奈さんは相変わらず私に辛辣だけど、ここ最近、少しマイルドになってきた気がする。
まぁ、いくら猛毒が微毒になったとしても、毒は毒なんですけどね……。
美羽さんと夏帆さんはいつも通り。
というか、この前の一件以来、二人の私に対する態度が変わった気がする。
何というか、壁が一つ取っ払われた……みたいな?
うまく言えないけど、普通に話せるくらいにはなった。とはいえ、ギャルのコミュ力に縋っているだけではあるんだけど。
それでも私にとっては大きな一歩だ。今後もこういう関係を築いていきたい……。
──そんなことを考えていると、不意に教室の扉の方から、棘のある声が飛んできた。
「春野琴音と、先導綾女いる?」
慌てて振り向く。
「……麻里奈」
「『先輩』な。何呼び捨てにしてんの? クソ一年のクセに」
そこにいたのは、鋭い目つきをこちらに向ける麻里奈だった。
彼女を見た瞬間、私はとっさに春野さんの前に立つ。
わざわざ教室に足を運んでくるなんて……また何か難癖をつけに来たんだろうか?
「警戒しすぎでしょ……まぁいいわ。ほら、アンタが売ってきた喧嘩、日程はこっちで決めておいてあげたから」
ズカズカと近づいてきた麻里奈は、一枚の用紙を私の胸に叩きつけた。
今ここで思いっきり顔引っ叩いても、多分誰も文句言わないよね???
「あやち、顔顔! めっちゃ鬼の形相になってるから!」
春野さんの指摘で、深呼吸。
そうだ、落ち着け。暴力に走るなんて最低だ。
落ち着きを取り戻し、胸に叩きつけられた用紙を手に取る。
春野さんにも見えるようにしながら内容を確認する。
「……日程は6月6日の金曜日、時間は16時から。場所は体育館って……」
その瞬間、言葉を失う。
6月6日って……今から2週間とちょっとしかないじゃん……!
私たち、これからようやくちゃんと音合わせしようって段階なのに……!
用紙から目を離し、麻里奈を睨む。
「なに? なんか文句あんの?」
「そりゃありますよ! 期間が短すぎませんか、これ!?」
「短いって、そりゃそうでしょ。7月は【SEIKO SUMMER FES】があるから無理だし、週末には体育祭がある。私たちの都合で体育館を使うんだから、先生たちが提示した日程に合わせるのが普通じゃない?」
ド正論パンチをくらい、私は言葉を失う。
失礼だけど、まさかここまで考えているとは思わなかった。
いや、むしろ考えが足りていなかったのは私の方か……。
「……わかりました。日程と、ライブの場所取りまで、ありがとうございます、センパイ」
「ふん。まっ、せいぜい頑張れば? どうせ無駄だと思うけど」
「バーカ」
「はァッ!?」
「あっ、あやち!?」
……ハッ、しまった!
馬鹿にされた腹いせで、思ったことをそのままストレートに吐き出してしまった!
慌てて口を手で覆うが、言葉はもう元には戻らない。
案の定、麻里奈はブチ切れた様子で私を睨みつけ、胸ぐらを掴みにかかる。
一触即発の空気に、教室がざわめく。
だが、そんな緊張を和らげるように、春野さんが私たちの間に入った。
「──麻里奈先輩っ♪ ウチらのために色々と動いてくれて、ありがとうございますっ! それにしても、よく先生たちも体育館を使わせてくれましたね! どうやって説明したんですか?」
にこやかな笑顔で質問する春野さん。
ここでキレて問題を起こすのはまずい──そう判断したのか、麻里奈は舌打ちしつつも答えた。
「……数ヶ月後のライブイベント。そこのO.A.の座をかけて対決するって説明したわ。あたしたちは出演が決まってるけど、学校側は知らないから……」
「そうなんですね! でも、どうやって勝敗を決めるんですか?」
「用紙に書いてる通りよ。来てくれた生徒たちに、どっちのバンドの演奏が良かったかを投票してもらうの。票数が多かった方が勝ち。まっ、あたしたちの勝ちは揺るがないけど」
「なるほどっ! ウチらも負けないように頑張りますっ! ね、あやち!」
春野さんはそう言いながら「ぞいっ」の構えをとる。
まさか、ブチ切れ寸前の麻里奈にあえて説明させることで、冷静にさせようとしたの……?
「……チッ。やりづらいわね、アンタ。それなら、まだ真正面から喧嘩売ってくるコイツの方がマシだわ」
麻里奈はため息をつき、その場を去っていく。
去り際に「せいぜい無駄な足掻きでもしてなさい」と捨て台詞を残して。
は、腹立つ〜……!!
「だからあやち、落ち着いてってば! 一々先輩の言うことに腹を立てても仕方ないよ。それに、あやちが言ったんじゃん? 『ライブで証明しよう』って!」
ハッとする。
そうだ、ここで麻里奈にキレたって仕方がない。
ライブまであと2週間。
この期間で、どれだけ練習できるかが勝負なんだ。
「……そうですね。ありがとうございます、春野さん」
「うんっ! それじゃ、練習しに行こっか!」
私と春野さんは麗奈さんたちに別れを告げ、真先輩を連れて、私の通う四華学園へ向かった。
※サブタイトル
Crystal Lake「WATCH ME BURN」
P.S.
今後の更新スケジュールなんですが、
◉次エピソードで曲決め&練習パート
◉その次のエピソードでライブパート
となります。
執筆に難航している為、次回更新は3月15日以降となります……すみません。