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第2話「逃げ場所なんてどこにも無い。/No Escape」


 ゴールデンウィーク前日。


 一人カラオケでヘドバンし、好きなラウド系ロックバンドの曲を歌っているところをクラス内カースト上位のギャル、春野琴音(ハルノコトネ)に見つかってしまった。


 それから彼女は「ウチとバンド組もっ☆」とめちゃカワな笑顔を浮かべて誘ってきた訳なのだが……


 結論から言います。逃げました。



 逃げてしまいました。



「だって怖かったんだもお"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"ん!!!!」


 

 GW明け、学校の屋上。


 時計の針がちゃうど7を指したタイミングで、私は拡声器型のマイクに向かって、思いの丈を叫び散らした。




 :



 

 GW前日のカラオケボックスで、突如として現れた光属性のギャルにバンド勧誘された私は、何と返せばいいのかわからず、


「あっ、へっ、えへへ、か、考えておきましゅ……」


 と。思い出しただけでも6フィート下に埋まりたいレベルの噛み方をし、退出時間10分前+門限を理由に部屋を出た。


 カラオケは基本前払いで、飲み物もドリンク二杯分しか頼んでいなかったので、私はレジでさっさとドリンク代のお金を払ってその場から立ち去った。


 それからおよそ三日間。私は施設の部屋に篭りきって身悶えた。

 まぁ基本的に一日の流れは決められているので、時間通りの毎日を過ごしてたんですけどね。


 それ以外の時間帯は、ほぼ全てが「あの時こうしていれば!」とか「もう少し話に乗っていれば!」とか。

 そんなどうしようも無い脳内一人会議ばかりをして、貴重なGWの時間を消費していった。



 そして来たる登校日。


 誰よりも早く学校に到着した私は、「いつでも叫べるように」と持ち歩いている拡声器型のマイクでフラストレーションを吐き出し、心の安定を図ろうとしたのだが……。


「あっ、おはよあやちっ! ってか学校来るの早くない? まだ7時ちょい過ぎだよ?」


 屋上から教室に戻ってきたタイミングで、光属性のギャル 春野琴音が教室に顕現していた……って、何でもういるの!?

 ギャルって大体一限目のチャイムが鳴ったタイミングで教室に入ってくるもんじゃないの……!?(※偏見)


「あっ、えっぅ、あっ、あっ……!?」

「ん? どうしたのあやち、ボーッとして。……ってああそうだっ! GW前に聞いた件について考えてくれた!?」


 壊れたロボットが如くガクガクしていると、距離感バグり系ギャルの春野さんが私に急接近し、顔を覗き込みながら「逃げた日の事」について言及してきた。

 

 何故ギャルという生き物はこんなにも良い香りがするのだろうか──。


 そんなどうでも良い疑問を頭で満たして現実逃避を図ろうとするが、あの時逃げ出した罪悪感や、何と答えたらいいかわからない焦燥感でいっぱいになり……。


「って、急に言われても困るって話だよね〜。だからさ、放課後少しだけウチの──」

「すっ、すみません春野さんっ! ちょっとワタクシお花を摘み取りに行ってきますわッ!!」


 またしても私は、GW前の日と同じ過ちを繰り返してしまった。


 それから私は朝のホームルームが始まるまでの時間、校舎を3周ほどかけて時間を潰しながら回り、授業後の休憩は声をかけられないようにするためトイレへと逃げ込み……。


 とにかく、春野さんから再び言及される事から恐れるようにして逃げ続けた。


 そうこうしてる内に放課後になり、春野さんは最後まで私に声をかけようとしてくれたけど。


「あやちっ! ちょっと待って──」

「ごめんなさい今日ちょっと用事があるんで早く帰りますお疲れ様でしたご機嫌よう!!」


 私はそれすらも無視して、私にずっと声をかけようとしてくれていた春野さんから逃げ出した。


「ねぇ琴音、朝からなんで先導さんのこと追いかけてんの?」

「……っていうかさ、アイツ態度悪くない? せっかく琴音が声かけてやってんのにさ」


 教室を出た後、春野さんがよく一緒にいるギャル友らしき方々の声が聞こえてきて、私はますますその場にいられなくなった。


 正直、ギャル友さん達の言う通りだ。

 春野さんは何度も私なんかに声をかけ続けてくれたのに、私はそれを無視して逃げて……。


 バンドに誘われたのが嫌なら、ハッキリと「無理です」と言えば良かったのに。


 それが出来ないからって彼女のことを無視し続けるのは、彼女たちの言う通り「態度が悪い」と思うし、何より失礼にも程がある。


 話しかけてくれた事も、私の歌やシャウトに感動したって言ってくれた事も、入るのは無理だけどバンドに誘ってくれた事も。


 全部嬉しくて仕方がなかったクセに。


 自分から歩み寄る勇気が無くて、私はそれを台無しにした。


「……何やってんだろ、私」


 気がつけば、学校の裏側にある、私がよく行く河川敷にまで来ていた。


 周囲には犬の散歩をしている人や、学校帰りに遊びながら帰っていく小学生達の姿があり、一人だけポツンと座っているのは私だけだった。


 あの時の「友達作る」発言はいったい何処に落としてきたんだろう。あんなにも欲していたクセして、いざ声をかけられたら逃げるとか……バカか私は。


 気を紛らわそうとポケットから取り出したワイヤレスイヤホンを耳につけて曲をランダムで流す。

 すると流れてきたのはcoldrainの「No Escape」という曲だった。


 確かこの曲、バイオハザード系ゾンビゲームのタイアップになった曲だ。

 いや〜いい曲だな最高だね〜! ……なんて、誤魔化し気分で聴けるものでは到底無かった。


 というのもこの曲の歌詞が、今の私にあまりにも刺さりすぎるのだ。

 


 逃げ道などない

 自分の求めるものからは逃げられない

 何日も走り続けてわかったんだ

 無意味な言い訳を言っていてはどこにも辿り着けない


 限界まで逃げてきて気づいたんだ

 この先は自分を開放しなければ進めない


 

 coldrainの歌詞は、全てが英語で紡がれている。


 CDについてる歌詞カードには、日本語に和訳された歌詞が付属しているから、私は英語の歌詞と日本語の歌詞、それぞれを見比べながら必死に覚えていた。


 この曲の疾走感が、底の知れない不安に駆り立てる人の心情を現すように奏でられてゆく。


 私はこれまで何を望んできた? 

 友達が欲しいんじゃなかったのか?

 なのにそれを、自分から捨てるつもりなのか?


 二番目のサビを終え、半音下げのチューニングから胸を掻き毟るようなアルペジオが弦を揺らす。


 その音の一つ一つが心臓の奥に染み渡っていくようで、まるでギターの音そのものが「このままでいいのか?」と尋ねているようだった。


 そして、アルペジオに続いて歩幅を上げていくように、スネアとバスドラの音が追従し追いかけてくる。


 クラッシュシンバルの音が鼓膜と脳を震わせた直後、私の中にあった鬱屈とした感情は何処かへ駆け出して消えてゆくのを感じ、再びサビに入ったところで立ち上がる。


 ──謝りに行こう。


 時間的に、今から学校に行っても春野さんはいない。

 だから明日。明日春野さんに会ったらちゃんと謝ろう。


 逃げてしまってごめんなさいと。

 バンドは組めないけど、多分好きなバンドや音楽は同じだから、友達になってくれませんかと。

 

 河川敷にぽつんと立ち尽くす私は、水面をキラキラと照らす夕陽を前に決心する。


 本当は、今すぐにでも会って謝りたいんだけどね……なんて曲を流しながら思っていると、背後から「あやちっ!!」と、私のあだ名を呼ぶ声が聞こえて慌てて振り向いた。


「えっ……春野さん!?」

「はぁ、はぁ……。やっ、やっと見つけた……。ちょっとあやち、走るの早過ぎない……?」


 よろよろと、何やら大きな荷物を抱えている彼女が覚束ない足で河川敷を降りてくるが、案の定転けそうになってたので慌てて抱き止める。

 嗚呼、何て良いかほり──って言ってる場合じゃない。


「ど、どうしてここがわかったんですか……?」

「何でって、あやちはよくここにいるよって、キヨちゃんセンセーから聞いたの」


 「キヨちゃんセンセー」というワードに、私は誰がこの居場所を教えたのかを瞬時に理解する。


 音楽教師の清乃(キヨノ)先生。みんなからは「キヨちゃんセンセー」って呼ばれるくらいには親しみを感じさせる、誰にでも優しい歌のお姉さん的教師だ。


 私とは音楽の趣味が近いという事もあって、友達がいない私はよく音楽室に行って清乃先生と話したりしていた。

 だからこそ私は、清乃先生がなぜ春野さんに「私がよく行く場所」を教えたのかを理解する。清乃先生は優しいが、別に()()()()()()()()という事に……!


「探してるって言ったら、何か色々と察した顔して教えてくれたよ? あと言伝頼まれたから言っとくね──」


「逃げてばかりじゃ一生手に入らないよ」


 そのセリフを言ったのは春野さんだけど、私はいつも優しくニコニコしながら、時折心理を突くような鋭い言葉を投げてくる清乃先生が重なって見えた。


 清乃先生の幻影が春野さんから消えていくと、かわりに私は春野さんが何やら大きな荷物を両手に持っている事に気付いた。


 私の視線に気付いた彼女は、鼻を鳴らして笑い「ウチのギター☆」と、【FGN】のロゴが刻まれたギターケースを、ギャルピースと共に見せつけてくる。


 ……うん、何でギター???


「言おうとしてたのにあやちが逃げるからさ〜」

「す、すみません……。でも、何でギターを……?」

「いや、純粋に説得力無いかなって思ってさ。バンド組もうとか言っといて、じゃあアンタは何すんの〜? ってなるじゃん?」


 いや、「なるじゃん?」と言われましても……。

 私逃げてたし、何よりバンド組む気無いし……。

 なんて言い訳を考えていると、彼女はギターケースを肩に担ぎながら歌うように声を紡いだ。


「元々魅せるつもりだったから。ウチのギターと()()()()()。バンド組む組まないっていう話さ、一度でいいから、ウチが弾くギターを聴いた後で考えてくれないかな?」


 真っ直ぐに私の目を見つめる彼女の視線に、私の意識は吸い込まれる。


 今までニコニコと笑っていた彼女の顔しか知らなかった私は、全力で何かに向き合おうとしている彼女の本気の顔を見た事が無かった。


 ……いいや、違う。見た事が無いんじゃなくて、多分彼女はずっと()()だった。逃げていたのは私の方だ。


 ガタガタと、少し離れたところから聞こえる電車の走る音が耳朶を打つ。


 その音が「No Escape」の音と詞を脳内で蘇生させ、これまで自分に重ねてきた意味が彼女に重なり合った。


サブタイトル

coldrain 「No Escape」

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