第19話「燃やせ、闘争の火。/WATCH ME BURN」①
「華蓮先生、私たちのバンドのドラムを担当してくれませんかッ!?」
「いや無理でしょ……」
──バンドで初の音合わせを終え、反省会を済ませた私たちは、そのまま解散。
施設に帰った私は「おかえり〜」と出迎えてくれた華蓮先生を前に、事情も話さずいきなり土下座。
勢いのままに懇願するけど、返ってきたのはきっぱりとした拒絶だった。
当然の結果過ぎて、何も言えない……。
『── 背に腹は変えられない。ってことで、ハナちゃんセンセーに頼んでみよっ!』
解散前、春野さんが提案したのは、華蓮先生にドラムの代理をお願いする──というものだった。
確かに、ほかに手は無い。だから彼女の提案はある意味で正しいと思うし、間違ってるとも思う。
だって、華蓮先生は児童養護施設の施設長だ。
本人は「そんなに忙しくないよ〜」なんて言うけど、実際は夜遅くまでパソコンと睨めっこをしている。
毎月の行政報告書の作成、補助金の申請、施設内設備の点検、子どもたちの受け入れ調整……。
まだ私が小学生だった頃、職員さんから聞いた話を思い出すだけでも、やることは山ほどある。
実際は、もっと忙しい筈だ。
それを考えると、「バンドのサポートメンバーになって欲しい」なんて、頼めるはずがない。
春野さんが明日「改めてお願いしに行く!」と意気込んでいたから、先に話を通しておこうと思ったけど……。
(春野さんには申し訳ないけど、何とか別の人がいないか探してみよう……)
そう考えながら顔を上げると、すぐ目の前に華蓮先生がしゃがみ込んでいた。
いつの間にそんな至近距離に……?
「……無理とは言ったけど。何やら訳アリっぽいじゃんか。どれ、あたしに話してごらん? 話次第では、協力してやらんこともないよ」
「ほ、本当……?」
「もちろん」
そう言って微笑んでくれる華蓮先生に、私は思わず飛びついていた。
:
「……なるほど、バンドでライブ対決か……。なんか懐かしいな、そういうの」
時刻は既に9時を回っていた。
お風呂と夕食を手早く済ませた私は、中高生ユニットにあるリビングルームで事情を説明していた。
真先輩がバンドメンバーになってくれたこと。
それに腹を立てた2年の先輩に絡まれ、春野さんがバカにされたこと。
私がそれにムカついて、
「ライブで勝負しろ!」
「私たちが勝ったらその発言取り消せよ!」
「真先輩は渡さないからな!」
「FXXK!!」
……と言った事を正直に話した。
まぁ、流石に後半は嘘だけど……。
「……友達がバカにされてイラッとくるのはわかるけどさ〜。それはそれとして、流石に考え無しが過ぎるよ、綾女」
「うぅ、だよね……」
コーヒーカップの縁をなぞりながら、華蓮先生は優しく、それでいて的確に私の落ち度を指摘する。
「バンドである以上はさ、個人の想いで勝手に決められないんだよ。言ってしまえばバンドって小さな組織なんだ。組織である以上、個人の意見は尊重すれど、そればかりが優先される訳じゃない。感情に流されて物事を決めるなんてのは、あっちゃ駄目なんだよ。だからちゃんと話し合わないと、あたし達みたいに──」
……そこで、ふと口をつぐむ華蓮先生。
どうしたんだろうと顔をのぞき込むと、彼女はカップの中のコーヒーをじっと見つめていた。
まるで、何かを思い出すように。
(……あたし達みたいに?)
……華蓮先生も、過去に何かあったのかな?
「……まぁでも。馬鹿にされた友達の為に怒れるっていうのはすごい事だ。偉いぞ〜綾女〜。さすがあたしの娘だ!」
「ちょっ、華蓮先生……! 恥ずかしいって!」
疑問は残るけど、いつもの優しい笑顔で頭を撫でられたら、そんな気持ちもどこかへ消えてしまう。
元々、バンドマンをやっていた華蓮先生だ。
施設長だった父親の仕事を継ぐことになった──というだけじゃなく、きっといろんなことがあったんだろう。楽しいことも、悲しいこともたくさん。
それを思うと、私の行動はやっぱり間違っていたと思う。
私ひとりで決めている訳じゃない。
私ひとりの想いを押し通す場所じゃない。
何かを決めるときは、ちゃんとみんなで話し合うべきなんだ。
「……華蓮先生。多分私は、相当むちゃくちゃなお願いをしてると思う……だけど! それでも私は、華蓮先生に力を貸してほしい!」
「だからお願い! バンドでドラムを叩いてください!!」
そう言って、もう一度深く頭を下げる。
すると華蓮先生は「オッケー」と軽いノリで返してきた。
…………あまりにも軽過ぎないかな!?
いや嬉しいけどさ!!
「いや〜、正直に言うと、あたしも久しぶりにバンドで演奏したかったんだよね〜。ほら、このあいだセッションしたじゃん? あれのせい……というか影響で、バンド熱が上がってきた〜みたいな?」
「協力する目的が完全に自分本位……!!」
──結局、華蓮先生は最初から引き受けるつもりだったらしい。
これはあとから聞いた話だけど、春野さんがすでに話を通していたらしく……。
「多分、あやちから話があると思います!」
と、先んじて説明してくれていたそうだ。
さすが春野さん、私のことをよくわかってる!
でも、そういうことなら事前に説明して……!!
※中途半端でごめんなさい。
今週中に②を投稿しますので、何卒よろしくお願いします……!!m(_ _)m