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第16話「この居場所を守るために。/Sanctuary」①


 それから数時間後。帰りのホームルームを終えた私と春野さんは、真先輩のいる教室へと向かい……

 開いた瞬間、私は床に頭を擦り付けながら謝罪の言葉を叫び散らした。

 

「大変申し訳ございませんでしたあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!」

「あやち、声声」


 椅子に座り、ベースのチューニングをしている真先輩に、私は全力の土下座をした。理由はもちろん、真先輩の意見を聞くこと無く、マリナを相手に勝手な約束を取り付けてしまったからだ。

 

「……春野が馬鹿にされたのが悔しくて、下手だという発言を撤回させる為にライブ勝負……か。キミは意外にも熱血系なんだな」


 ベンベンボンボン、と一音ずつ音を鳴らしてチューニングを合わせる真先輩は、土下座する私に目もくれなかった。

 真先輩には先んじて春野さんが事情を説明してくれていた。雰囲気からして冷静なように見えるけど……チラリと彼女の顔色を伺うと、うっすらと私に対しての怒りが垣間見えた。ですよね〜!!


 

 昼休み中に起きた、マリナとか言う性格最悪なクソ女との遭遇(エンカウント)

 私はそこで、春野さんが馬鹿にされた事が悔しくて、マリナに「ライブ勝負で勝ったら春野さんに言ったことを訂正しろ!」と言った。……言ってしまったのだ。


「いくら春野が馬鹿にされたのがムカついたからとは言え……流石に考え無しが過ぎるな。言っておくが、麻里奈たちのバンドは、高校生バンドの中でもかなり上手い方だぞ。付け焼き刃で身につけた技術で、どうにか出来る相手じゃない」


 冷たくも、現実的な指摘をする真先輩に、私は顔を上げる事ができなかった。


「……そんなに上手いんですか、麻里奈先輩たち」

「ああ。入学式の次の日、5と6限目の時間帯に『部活勧誘PR』と題した催しがあっただろう? この時、音楽系の部活の中でも特に人気な軽音部とダンス部のどちらかが、オープニングとエンディングを担当する事になってるんだが……」


「麻里奈達は、その時のエンディング──大トリを任されていた。()()()()()()()()()()


 ……そう。私はその時、頭に血が上りすぎて全く考えていなかったのだ。マリナ達の組んでいるバンドの演奏力と、その人気を。


「セイコーが音楽系の部活に力を入れているのは知っているか?」

「いや、今初めて知りました。……あっでも、結構音楽系のイベントというか、何かと軽音部やダンス部とかが演奏したり踊ったりしてたような気が……」


 購買に余っていた菓子パンをモグモグと食べながら返事をする春野さん。

 昼休み中に起きた事件だった為、まともに昼食を食べる事が出来なかった私たちは、真先輩が使用している空き教室でちょっと遅めの昼食を食べていた。

 と言ってももう16時30分なんですけど。

 

「そうだ。故に各部活の生徒達は、そのイベントに出ようと練習を重ねている。ハッキリ言って、ここの学校は他校と比べてもレベルが高い。その理由を……先導。キミが答えてみろ」


 チューニングを終えたのか、椅子のすぐ横にあるアンプにシールドケーブルを接続し、ベースと繋いで音出しを始める。


「え……? そりゃ、イベントに出る為で……」

「それだけの理由でみんな頑張ったりしないさ。さっきも言ったが、セイコーは音楽系の部活──特に軽音部とダンス部に力を入れている。過去にこの学校のイベントに足を運んでいたレーベルの人間が引き抜いてから特にね」


 ボンッ、と。

 真先輩が爪弾いた音は、まるで小型の爆弾が破裂したような音だった。


「あ〜、確か【ラスバイ】のボーカルの人って、セイコー出身でしたよね?」


 パンを食べ終えた春野さんが、手をハンカチで拭きながら言った。

 ラスバイって、今海外でもめちゃくちゃ人気ロックバンド、【Last(ラスト)violence(バイオレンス)】!?


「……そうだ。()()が演奏していた時、たまたまレーベルの人が観に来ていたんだよ。学祭なんかは一般の人でも参加可能だからな」

「へ〜! ってことは、そこでレーベルから声がかかってデビューしたんだ! ヤバっ! どんだけ上手かったんだろ〜!」


 すっかり元気になった春野さんが楽しそうに騒いでる反面、真先輩の表情は重かった。

 や、やっぱり私が勝手なことしたから……ですよね?


「……まぁ、そういう事だ。こうした件から、セイコーは音楽系のイベントを積極的に行うようになったんだ。数年前にも、ダンス部から一組メジャーデビューしているしな。──さて、」


 真先輩はそこで言葉を区切ると、土下座をする私の顎に触れて顔を自分の方へと向かせた。

 いや〜やっぱり真先輩イケメンですね〜アハハハハ……などと笑える状況では無く。


「ここまで聞いて、自分がどんな相手に喧嘩を売ったのか、よ〜く理解してくれたかい?」

「ハイ。ホントウニスミマセンデシタ……!!」


 涙を堪えながら言ったせいで、めちゃくちゃ片言になってしまった。

 マリナ達の組むバンドは、部活勧誘PRで行われた演奏で三年生を差し置いてトリを飾っている。普通に考えれば、三年のバンドが演奏をするのが一般的だと思う。けれど彼女たちは、それを実力で覆している。


 それに加えて、真先輩が話してくれたレーベルの話。

 これは昼休みが終わった後、美羽さんが教えてくれた事なんだけど、どうやらマリナは既にインディーズレーベルの人達に目をつけられていて、数ヶ月後のライブイベントのO.A.(オープニングアクト)を担当するとの事だった。

 ここ最近勢いのあるインディーズバンド達が多数出演するイベントらしくて、


『そこでしっかりと結果を残せば、インディーズレーベルでデビューしちゃうかもって話だよ!』


 ……と、キラキラ目を輝かせながら語ってくれた。

 ロック系をよく聴くとは聞いていたけど、まさかここまで詳しいとは思わなかった……。

 長々と心情を吐露しているけど、要するに私は、とんでも無い人に喧嘩を売ってしまったのだ。


「先導。ここでハッキリと言っておくが、この勝負は負ける」

「……」


 そっと手を離し、椅子に座り直す真先輩は、再びベースを手にとって演奏し始める。何事も無かったように演奏し始める先輩は、まるで「これ以上話すのは無駄だ」と言っているような気がして……

 私は思わず、「負けません」と口にしていた。


※5000文字を超えた為、分割して投稿します。

次回更新は明日13日です。よろしくお願いします。

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