past1 晴翔とノアの出会い【sideノア】
あれはMiddle School初日の日。
今日から授業を受ける校舎が変わる。
体育館もそれまで使っていた所より、より本格的に広くなる。
俺は早くその体育館に入りたくて、朝一番にそこに向かった。
今日から堂々とそこを使えるのが嬉しかった。
体育館に着くと、もう誰かいるのか中からドリブルの音がしていた。
意外だな。
こんな朝早くから、俺以外にバスケする奴がいるんだ。
バレないように、体育館の中にそっと入って入り口のドアに隠れて見ると、黒髪の子が1人でバスケをしていた。
(あっ、えっ、アキラ!???)
俺は、一瞬だけ、そいつをアキラだと思った。
それくらい、ぱっと見た時似てたんだ。
よく見ると全然違う。
だけど………………。
――――似てる。
何だろう。
シュートフォームとか、ドリブルの切り返しとか、リズムの取り方にアキラの影が重なる。
こんな奴、いたんだ。
声をかけようか、もう少し覗いておこうか迷ってると、俺の所にボールが転がってきた。
そいつが、俺の目の前まで走ってボールを取りに来た。
俺達は、目を合わせたまま、動かずにお互いをじっと見ていた。
他の奴がもし見ていたら、きっと変な光景だったと思う。
でも、俺はそいつから目を離せなかった。
先に口を開いたのはそいつだった。
「あのっ、ごめん!」
ゴメン?
ごめんは余裕でわかるぞ。sorryだ。何で?
「何か、体育館を見たくて、来たら空いてて中を見たらボールがあったから、広いしついやりたくなって…………」
ヤバい。何言ってるか全くわからないぞ。
アキラと話したくて、すこーしずつ勉強してきたけど、お前早口過ぎる。
でも、何かを一生懸命に言ってるのはわかる。
俺、まだ思った通りに日本語を話せないんだ。
言いたいことはあっても、言葉が出てこない。
だから、ゆっくり英語で返した。
『バスケ上手いんだな。俺も、バスケするんだ』
今度は向こうがキョトンとしてる。やっぱり通じなかった!
そうだよな。
英語ができたら最初から英語で話してるもんな!
お互いの言葉がわからない。
仕方ない、テンプレでいくしかない。
「俺、ノアって言うんだ。お前は?」
たどたどしく慣れない日本語を話すと、そいつが、もうめちゃくちゃ嬉しそうに笑った。
その笑顔に目を奪われてしまった。
黙ってると、切れ長の目が少し人を寄せ付けない感じがしたけど。
そうやって笑うんだ。
そしたら、今度はそいつが、たどたどしく英語を使ってきた。
『俺、はると。俺の名前ははると!』
きっと、その英語だけは話せるように覚えてきたんだろうな。
何か、見た目と中身にギャップがある奴だな。
『ノア?』
そいつが俺の名前を呼んだ時、心の奥に大事にしまって置いた箱が開いたのかと思った。
あの耳をくすぐる、心地のいい声。
俺を見てにこっと笑ってくれた、あのキラキラした笑顔。
同じ黒髪で、バスケが似てたからだろうか。
記憶が刺激されて、無性にアキラに会いたくなってしまった。
『ノア?』
少し元気のなくなった俺を、ハルトは気遣うように見ていた。
人を惹きつける奴だな。
見た目は全く違うのに、やっぱりどこかアキラを思い出す。
何でだろう。
さっきの笑顔を、もう1回見てみたいな。
試してみようかな。
何か、こいつ、すっごい素直な奴な気がするから、好意的に話しかけると、そのまま返ってきそうだ。
俺は、笑顔でハルトに返事をした。
「ハルト、英語上手だな。俺今日からgrade6なんだ。ハルトは?」
よし、結構日本語話せたんじゃないか?
俺の目の前のハルトは、また嬉しそうに俺を見て笑った。
やっぱりだ。いい笑顔をするんだな。
黙ってる時と、そうやって笑う時と随分雰囲気が変わる。
俺と、似てるのかもしれない。
『俺も! grade6だよ。同じで嬉しい。よろしくな』
俺が日本語を頑張って使ったからか、今度はそいつが一生懸命考えながら英語で答えた。
うん。俺、お前のこと好きだな。
きっとバスケを見た時には、ハルトに惹かれてたんだな。
まるで、アキラと初めて会った時みたいだ。
「ハルト、よろしくな」
俺と、ハルトの出会い。
慣れない土地で不安もあるはずなのに、ハルトの目はとてもキラキラしていた。