act0② 胸に吹く風 2
家に帰って、母さんと父さんがいるリビングには行かずに、自分の部屋に行った。
ベッドに寝転がって、今日のことを思い出していた。
まだ胸がドキドキしてる。
あの子が話しかけてくれた。
笑顔で俺の所に来てくれた。
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい。
こんな日がくるなんて思ってなかった。
あの子、バスケしてる時と印象違ったな。
笑った顔が可愛かったな。
って、男相手に何言ってんだ、俺は!!
でも近くで見たら、本当にめちゃくちゃ綺麗な顔をしてた。
クラスの女子より、遥かに可愛かったぞ。
って、だから、男なんだって!
いつも外からだと、少し低い所から見てた。
中で見ると、同じ目線で迫力が全然違った。
「かっこよかったな…………」
あの子のお父さんの目は怖かったけど、次から中で見ていいって言ってくれた。
次から、堂々と見学できるんだ。
新しい何かが始まる。
嬉しくて、身体中から力がみなぎってくる。
早く来週にならないかな。
…………あれ?
そう言えば、バスケする時ってどんな格好したらいいんだ?
外のコートで、みんなどんな靴を履いてた?
俺、やるならちゃんとやりたい。
バスケできるようなズボンあったっけ?
父さんに、相談した方がいいか。
うん、そうしよう!
決まれば早い。
ガバッと起きて、すぐにリビングに行った。
「父さん、相談があるんだ!」
リビングに入るなり、勢いよくそう言った。
その俺を見る母さんと父さんの目が、少しニヤっとしていたことに俺は気づかなかったんだ。
きっと落ち着いてよく見れば、父さんの口の端がピクピクしてたことに気づいたのに。
◇
そう。俺は、全く気づいてなかった。
毎週土曜日の同じ時間に家を出て行く俺を、父さんと母さんが気にしてくれていたことを。
父さんと母さんが、こっそり俺の後をつけていたことも全く気づいていなかった。
コートをずっと見続ける俺を、道路を渡った所にあるカフェから堂々と見ていたこと。
あきらが俺に話しかけてくれたところから、俺が中に入らせてもらう所も全部見られていたこと。
中に入って見学してる俺の、あまりに嬉しそうな顔を見て、涙ぐんでしまったこと。
何年も何年も経ってから、この話を聞かされた時は、俗に言う顔から火が出る程恥ずかしかった。
だから、俺が相談しにリビングに行った時は、予想通りの行動に笑いそうになっていたらしい。
さらに。聞かされた話はそれだけじゃなかった。
その次の週。
あきらにバスケを教えてもらって、俺が帰った後。
父さんと母さんが、圭介さんに挨拶に行っていたこと。
父さんが、圭介さんにバスケのことを相談していたことも。
俺の知らない所で、父さんと母さんが支えてくれていたことを知った。
親ってすごいな。
裏で動いてくれてただなんて、全く気づいてなかった。
ずっと応援してくれていたことを聞いて、胸が熱くなったのは言うまでもない。
あの日、違う道を選んで歩いていたなら、きっとあきらと出会わなかった。
ボールがフェンスに当たらなければ、俺はそのままそこを通り過ぎていたかもしれない。
そして。
明星に編入しなければ、あきらと再会しなかったかもしれない。
選んだ先に、あきらと出会って繋がった。
あきらが俺に、たくさんのことを教えてくれた。
でも、忘れちゃいけないのが、たくさんの人が俺達を見守ってくれていたこと。
偶然が重なったからだけじゃなくて、陰から支え続けてくれた人達がいるから成り立ったことも、今ならわかる。
それを考えて胸が熱くなった時。
――――俺は、星空を見上げたくなるんだ。