act0① 胸に吹く風【side圭介】
晴翔とあきらの出会いの話
(あのガキ、また見に来てるな)
いつからかわからないくらい、毎週コートを覗いてるガキがいる。
毎週毎週、ずっと立って見ている。
その目は、あきらを追ってるよな。
あの年齢にしちゃ、すごい集中力だな。
そいつの目を見てると、不思議と心に風が吹く感じがするんだよな。
悪くない。
――――いい目だ。
そう思ってそのガキを遠目から見ていた。
休憩を入れると、すぐに俺の所にあきらが駆け寄ってきた。
あきらが、走って来た!
可愛い、可愛いな、おい。まるで子犬みたいだぞ。
きゅるんとした目で俺を見上げてきた。
くそ、外でそんな顔で見るな、顔が緩む!
俺の威厳が落ちる。
必死で真面目な顔を作っていると、少し離れた所で哲平達がニヤニヤした顔で見てきやがる。
後で覚えとけよ。しこたま走らせてやる。
「父さん、お願いがあるの」
あきらの、お願い!!???
おおお、お願い? 何だ、珍しいな。
お願いはあれだ。すぐにOKしちゃ駄目だよな。
少し考えるふりをしないと、我が儘に育つよな。
俺は動揺を隠して、あきらに聞いた。
「お願いってなんだ?」
あきらは言いにくそうにしていて、少し頬を染めて、恥ずかしそうに言った。
「あそこで見てる子、中に呼んでもいい?」
「……………………………」
何で頬を染めた。
何で頬を染める?
頬、染める必要ないだろ。
え、まさか、アイツが気になるのか?
恋!?
いやいやいやいや、まだそういうの早いだろ。
「あの子、とても綺麗でしょ?」
「綺麗?」
「うん。真っ白で、キラキラしてる」
あきらには、そう見えるのか。
まぁ、俺の心に風が吹く感じがするのと同じか?
「きっと、バスケに興味があるんだよ。あのね………」
「うん?」
「私も。あの子と、バスケやりたい」
おい。
俺の脳に雷が落ちたぞ。
大事な娘が嫁に行く想像までしてしまった。
いやいやいや。それは置いといて。
あきらが、一緒にバスケをやりたい?
哲平達も驚いてるぞ。
「あの子の眼差しに懸けてみたい。一緒にできると思うの」
俺もあのガキは気になってたけど、何かすごい複雑だな。
だけど。あきらが、あいつに懸けたい気持ちもわかる。
あきらの直感を、大事にしてやりたい。
…………まぁ、いいだろ。
「哲平達とは一緒にできないぞ。中で見学するだけ。あいつがバスケをしたいなら、その後にあきらが相手をしてやれ」
「うん!!!!」
あきらは満面の笑みで返事をしたら、そいつの所に速攻で走って行った。
おいおい、律、強烈なライバルが出来たかもしれないぞ。
あきらが外までそいつを迎えに行って、連れて中に戻ってきた時、俺達はそいつの顔に釘付けになった。
何て嬉しそうな顔してんだ。
中を見回して、心から嬉しそうにしてる。
キョロキョロと周りを見る姿が子供らしくて可愛いな。
そいつがコートの前に来た時、ピタっと止まってリングを見た。
そのリングを眺める眼差しが、周りにいる俺達の目を奪った。
純粋にバスケが好きだと、真っ直ぐな気持ちの表れ。
その眼差しに、何かを期待したくなる。
しばらくリングを見た後、コートに向かってペコっとお辞儀をした。
周りにいる俺達にも、ペコっと頭を下げた。
何だよ、ずっと人を惹きつける奴だな。
隣のあきらもにこにこしてる。
オーラが、似てるな。
……………まさかな。
そいつを連れてあきらが俺の所に戻ってきた。
「あの、ありがとう、ございます」
はは、ガチガチだな。
まぁ、そうでないと困る。
「バスケが気になるなら、次から中で見ていいぞ。名前は?」
「はっ、はると」
俺が話してるのに、あきらが会話に入ってきた。
「ハルト?」
「うっ、うん。きっ、君は?」
「あきら」
「アキラ?」
「うん。よろしくね」
「俺こそ…………。声をかけてくれてありがとう」
二人とも、はにかみながら嬉しそうに笑った。
これが。この二人の出会い。
初めて言葉を交わした時。
――――ここから、物語が始まった。
圭介41歳、哲平21歳の頃
あきら「ごめん」
はると「う、うん…」
が厳密には初めての会話なんですけども。
この時はお互い認識できていないので。。。