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35 不死者は普通に死ぬ


 しばし、放心していたへスティナは、怯えながら「無限斬撃」の魔剣の切っ先を私に向ける。

 「それは、私には効かないわよ。見ていたでしょう」

 へスティナは後ずさる。

 「逃げられると思うの? この国の不死者に対する扱いは知っているでしょう」


 私は不死の研究をしている。不死者と、不死の研究、何が違うのか。

 不死の研究は、人間を不老長寿にする研究であり、不死者とは人ではない、不死身の怪物のことである。

 吸血鬼やグール、ゾンビなど、不死者とは、別に死ぬ怪物たちのことである。


 彼らは別に、死なない、ということはない。

 再生能力などを持っており、ヒューマンなどより頑丈で、死ににくいだけで、殺せる方法を使えば、普通に殺せる。心臓に杭をさすとか。

 魔物と違って意思疎通はできるが、決して分かり合えない。不倶戴天の仇。事実、歴史上何度も、不死者たちは人の天敵として、その脅威を見せつけてきた。この国での不死者の共通認識である。


 ちなみに、不死鳥(フェニックス)は野生動物にあたる。


 へスティナの足が止まる。どうしようもない状態に、彼女のか細い体は爆発しそうなほど内圧を高めている。

 「なりたくてなったんじゃない!」

 「では、どうして」


 カートスミス家の先祖は、王から下げ渡された魔剣を、元の性能に戻すべく、その意思を子に託した。子はさらにその子に。そうして、子々孫々魔剣を治すために、研鑽を重ねてきた。

 しかし、代が重なり、時が重なるごとに当初の志は薄れ、家訓は忘れ去られ、魔剣は家宝として飾られているだけになった。

 さらに、その家宝が没収され、当時の当主は酒浸りになり、肝の病で亡くなった。

 それを目の当たりにしていた次期当主は、志を新たにやり直すべきと決心した。


 魔工師として、技能を高め、経験を積む。それを自分の子にも教え伝えていた。

 しかし、その当主も若くして、妻と共に事故で命を散らした。

 一人残された幼い娘の元にやってきたのは、叔父。

 思想にかぶれ、ろくに家に寄り付かなかった叔父が次期当主になった。

 高い理想を口にするが、口だけで実践しようとしない。そう父が言っていた叔父がカートスミス家の家長となった。

 そのろくに技術を有していない叔父、ダグラスは、家の仕事をへスティナにやらせ、報酬だけは自分が受け取った。


 「ふ~ん。それじゃあ、アナタがカートスミス家の魔工師の技術を受け継いでいる、というわけね」

 「ええ、この剣は、私がメンテナンスして、使えるようにしました」

 「なるほど、なるほど」

 じゃあ、あっちはもともといらなかった、というわけね。

 風に乗って、灰が散っていく。


 ご機嫌になった様子のマイアに、理由が分からず戸惑うへスティナ。促され、不死になった時の話に移る。


 ダグラスに搾取され、常に飢えた腹を抱えて生きること数年。ある日、ダグラスの活動仲間の男がカートスミス家に現れた。男とダグラスは部屋に引きこもり、話し込んでいた。

 部屋から出てきた、ダグラスはへスティナを指さし、男に告げた。

 「じゃあ、まずはこいつにやってみせろよ」


 自分がするのが、怖いので、まずはへスティナを実験台にしたのだ。

 男は言う通り、へスティナの不死者に改造した。

 へスティナをが無事不死者になったことを確認したダグラスは、次に自分も不死者にしてもらった。


 「その、アナタたちを不死者にしたという男の顔、覚えてる?」

 「え、あ、はい。顔を見れば分かりますけど」


 ますます、都合がいい。では、


 「助けてあげましょうか」

 「え? ……はい?え、いや、でも…… 」

 戸惑う、へスティナ。だが、厳しい表情で切っ先をこちらに向けてくる。頼りにならない家宝の魔剣が、最後の拠り所になっているのか。

 「あなたに何ができるって言うんですか」


 私はスキル「蜻蛉(カゲロウ)を抱く猫」を発動しながら魔法を使う。

 少量(・・)の魔力しか持たない魔法は、赤い結晶になる。

 さらに、二度、魔法を使う。結晶は上から重なって作られ、三層になった。

 これで三種類の魔法の効果が使えるマジックアイテムが完成する。

 さらに、この結晶には、さらに魔法が付与できる。

 そして、スキルが魔法として、付与できることが判明している。

 スキルほど自由自在に使えるわけでなく、「定点座標」ならワープする場所を使う時に決めらず、最初に3メートル右にワープするといった効果を決めて、その効果だけが付与できる。

 「この結晶で、変身魔法と、消音魔法と、消臭魔法が使えるわ。さらに、短距離瞬間移動の魔法と認識阻害の魔法も使るけど、こっちは魔力消費が多きいので、あまり回数は使えないわよ」

 へスティナは、言葉の意味を飲み込めず、呆然としている。

 本当は、逃がすだけなら、もっと簡単な方法もあるのだけど、それは今は口に出さないでおく。


 「な、何を……私に何をさせたいのですか」

 ようやく、事態が飲み込めたのか、へスティナが手助けの見返りについて口にする。

 何の見返りもなく、協力するなどありえないと思っているようだ。


 それは、そう。


 「カートスミス家の技術と知識、それにアナタたちを不死者にした男を探してもらいたいの」

 「な、何のために」

 「調べるのよ」

 その言葉で、先ほどまで行われていた、耐久テストを思い出し、言葉に詰まるへスティナ。

 「不死者の能力、その不死性。すべてを調べて、白日の下にさらすの。そのために、不死者の仲間として、潜入して、そこから不死者同士のネットワークなんか見つかれば、もっと良いのだけど」

 「そんな守られる保証もない約束なんて、その結晶だけ受けとって逃げる。それに気づいてないないはずがないし。不死者と繋がりなんかあったらマズイって、さっき自分で……だから、ぜ、全部嘘に決まってる! それに、その結晶だって罠に決まってる。魔法を使うとかすると爆発するんだ!」


 そういうものアリね。使える機会があったら、使ってみましょう。


 それはさておき、ちらりと見えた希望に、へスティナは却って臆病になっている。希望が裏切られ、より深い絶望に落ちるのを恐れているわけね。

 こういう時は、より大きな希望を見せつけてあげるのが、私の流儀だ。

 「いろいろ口を封じる方法はあるわよ。制約(ゲッシュ)を使って人に教えられなくするとかね」

 「制約(ゲッシュ)には精霊との契約が……」

 「はい、制約の精霊」

 スキル「精霊に愛されし者」の力で、制約の精霊を呼び出す。

 「あなたは、魔女、なの」

 「この国から外に目を向けなさい。そうすれば、このぐらいの魔法、大したことではないと思えるわ。アナタももっと魔工師として学びたいと思わない? それとも、家の人に言われたからやっていただけなのかしら?」

 「いえ。でも、この体じゃあ……」

 「不死の研究を進めれば、元の体に戻れるかもよ」

 これにはへスティナも食いついた。あくまで、かもしれない、だけど。まずは彼女の体を調べて、どんな不死者になっているのかを調査するところから始めなくては。

 「ダルシーがここにいれば、調べられたんだけど……、うん、面倒だし、今から調べに行きましょう」

 「えっ?」



 スキル「レイラインロード」で天至の塔まで飛ぶ。

 留守中、どんなだらけぶりをしているかと思ったダルシーは、結構きちんと掃除など、家事をしていた。

 「このギャップがいいんですよね~。これで帰ってきたお嬢様の内申点がググっとアップ」

 「帰ったわよ」

 カリリル相手に一人語りかけていたダルシーは、飛びあがるほど驚いていた。


 へスティナから血をもらう。血以外でも調べられるが、いろいろと試した結果、血で調べるのが一番効率がいいことが判明した。ダルシーの魔力消費が少なくて済むのだ。


 「これは……」

 情報把握をした結果、へスティナは「死解」と呼ばれる不死者になっていることが分かった。

 「死解」は魔法による不死者だ。

 魔法で生命活動を停止した上、魂を固定。魂と肉体を同期させ、肉体は砕けても、固定されている魂の状態に戻ろうとする。それが傍から見ると再生しているように見えるのだ。


 「これなら、今から、解いてあげましょうか」

 「死解」は「解除魔法」で解けるのだ。


 解除とは、他の魔法の効果を解く魔法である。古代魔導王国時点から存在している魔法で、その時点で完成していたため、今でもまったく変わっていない魔法である。

 そして、簡単な魔法である。


 シンプルで、無駄がなく、完成された魔法。

 魔法による変化は、超常的なものであり、自然と元に戻ろうとする力が働く。それを利用する故に、簡単であり、うんぬん。

 この魔法で解除できる魔法は、使い手の魔力量によって決まる。魔力量さえ足りれば、どんな魔法でも解除できる。

 解除されたくなければ、十人がかりで三日三晩魔力を込めれば、一人分の魔力しか使えない「解除」で解除するのは、実質的に不可能になる。

 古代魔導王国時代には、解除を無効化する魔法。解除を無効化を無効化する魔法。解除を無効化を無効化を無効化する魔法と、いたちごっこになっていたらしい。


 スキル「完全な肉体(パーフェクトボディ)」の魔力量なら、へスティナの「死解」を解除できるだろう。


 というわけで、早速「解除」。

 直前、へスティナが何か言おうとして口をつぐんだが、気にせず魔法を完成させる。


 試しに自分で傷を付けているが、傷は治らない。へスティナの体は完璧に元に戻っていた。

 へスティナは涙を流し、告白した。

 元に戻って不死者ではなくなってしまえば、私の目的の一つ、不死者のネットワークを探すことが困難になる。

 それを知っていないがら、自分の身可愛さに口をつぐんだ。

 「あ~、そういえばそうね。まあ、それはそれで、方法はいくらでもあるからいいでしょう」

 魔剣に携わった魔工師としての知識さえ教えてもらえれば、それだけで。

 不死者は偶然遭遇したので思いついた、ついでだ。


 へスティナは制約の精霊を呼び出してくれと、頼んできた。


 へスティナは精霊に、マイアに忠誠を誓うことを誓約(ゲッシュ)した。


 まるで、騎士の誓いのよう……、というか、そもそも、魔工師はザグーラント貴族階級で一番下の騎士階級。この娘、騎士の家の子だったわね。

 今更、そんなことに思い至る。




 盗まれた魔剣のことを契機に、マイアベル異邦公は、カートスミス家を訪ねた。当主は昔から放浪癖があり、その時、行方不明になっていた。残された先代の娘に面会した異邦公は、かつての遺恨を解消し、娘を自分の元に召し抱えた。

 魔工師の称号を得たカートスミス家の娘は、異邦公の共をし、異邦へと渡って行った。


 彼女たちが去ったあと、新しくそんな噂話がザグーラントには流れた。



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