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32 ザグーラントお家騒動顛末記


 故国ザグーラントに戻ってきた私の乗った馬車は、王都まで行き、ノアタジネット家の邸宅に入った。


 ノアタジネット家は、五つしか残っていないが、いまでも「八公家」の名称が使われている、ザグーラント八公家の一角であり、マイアベル・リノ・キャサザードの母方の実家にあたる。

 

 そして、私の祖父でありキャサザード家先代当主にして辣腕宰相であったキャサザード公ニコラスの盟友、もう一人の祖父、ノアタジネット公レイモンドと相対する。


 「いや、もうワシは当主ではない。爵位は息子に譲った」

 ノアタジネット公爵、もとい、ノアタジネット元公爵は軽く言った。


 ノアタジネット邸の客間にて、祖父と孫は使用人を下がらせて、二人きりで話をする。


 「手紙である程度は伝えたが、まず、お前が国を離れてからのことを話そうか、ベル」

 「お願いしますわ、おじい様」



 まずは王子のこと。


 王子は王位継承権を失い、廃嫡された。

 今は、王墓管理官になっている。


 王墓管理官とは、その名の通り、王家の墓地を管理する役職だが、王墓管理官がすることは何もない。すべて、その下の役人が実際の管理を行う。

 王墓の管理ということで、身分の低い者に任せることはできない。そのため管理官の地位()()は高い。なので退職間際の役人が拍付けのために就く職である。


 完全にそのためのだけの職なので、俸給すらないはず。退職後の年金は最終的な地位に応じて決まるため、実際にはそれが俸給と言える。

 元王子には年金もないので、実質無給。一応、それとは別に捨扶持はもらっているので、完全に無給ではないが。


 第二王子が新しい王太子になる予定である。



 続いて、キャサザード家のこと。


 キャサザード家は当主がすべての公職から退き、長男が爵位を継ぐことになった。


 「キャサザードは先代のころから権力を集めすぎて、多方面から敵視されていたからの。ニコラのやつは綱渡りでもするかのように、その辺を上手く調整していたが、次代になって上手くやれていなかったからの。王家との婚約解消を機に、いっぺんに噴き出したんじゃ、積もり積もった不満が。……一番大きな問題になったのは、先代公爵暗殺の嫌疑をかけられたことじゃ」

 「それはそれは……、どのぐらいの疑いなのですか」

 「五分五分という所じゃったな」

 祖父ニコラスが死んだのは、もう十数年も前の話だ。証拠は時間と共に無くなっていくことを考えると、今の時点で五分五分の確立ということは……。

 目の前にいる、もう一人の祖父も完全に敵に回しただろう。


 「醜聞を避けるため、それ以上の捜査はせず、勇退という形にすることにした。領地の城の一つに蟄居となっておる」


 それで、弟が家を継ぐことなったというわけだ。弟といっても、会ったこともないわけだが。

 「まだ、未成人ですよね。弟は」

 そのぐらいは知っている。いや、いちいち言うほどのことでもないはずなのだが。

 「跡を継ぐのは先の話だ。今はキャサザードの権限はボープトン侯爵が代わりに代行している」

 「おじい様ではなく?」

 「権力を集中されるのは危険だと言っただろう」

 今度新しく王太子になる第二王子の婚約者はこの家の令嬢。私の従姉妹で、この元ノアタジネット公爵レイモンドの孫である。


 「ボープトンなら文句をつける者はいまい」

 ボープトン侯爵は融通の利かない堅物として有名だ。一切の不正を許さず、ボープトン侯爵を訴える者がいれば、逆にその者が不正を犯している、と言われるほど。

 それだけに信用は持てるが、貴族であろうと王家であろうと、私情や私益のためには、一切動いてくれない人でもある。

 「どうやって侯爵を動かしたのですか」

 「これ以上、八公家が減るのは国のバランスにも良くない。国益のためになるならば、彼奴も引き受けよう」

 なるほどね。


 「……それでだな……、うむ」

 レイモンドおじい様が言いよどみだした。母の話だろう。つまり、このおじい様の娘の話だ。

 手紙にも少し書かれてあったが詳しい事情までは知らない。



 キャサザード家の権威を失墜させるために、他の貴族からの攻撃が行われた。貴族社会お決まりの陰の争いの一環だ。

 そこでターゲットにされた、キャサザード公爵夫人アンネローザ。彼女はハニトラを仕掛けられた。


 なんで?


 この時点では知る由もなかったが、母の過去を知れば、その手段が選ばれた理由も察せた。


 母アンネローザはハニトラに乗り、あっさりキャサザード家から出奔。次の日には、この工作を主導したヘイルズリー家に現れ、言い放った。

 顔とテクだけでない男を寄越せ、と。


 母、アンネローザは若いころから権力欲が強く、王家に嫁ぐことを目標としていた。


 今の王の王妃の座を狙っていたわけね。


 その目的のためにアンネローザが取った方法は、多数の男たちと関係を持つことだった。


 ん?


 どうも、母の頭の中では、貞淑<閨のテク、の式が王妃になるために重要なこととして成り立っていたらしく、それはもう、次から次へと男を漁りまくっていた。

 血を尊しとする封建国家でそんな計算が成り立つはずもなく、一時は妃候補にも名前が挙がっていたが、その奔放さにより駄目出しされた。


 そりゃ、そうだ。


 その後、女は家の歯車であれば貞淑さなど微塵も気にしない、キャサザードに嫁いできた。

 「あの親子はその辺のところは気にしなかったのでな。ニコラスの奴に至っては、出産の実績(・・)はないのか、などとワシに聞いてきおった」

 血の繋がりを重視する、封建社会ではそういうこともある。跡継ぎを作れるかどうかは、重要事項になる。

 苦々しげだが、それをその娘の娘に話している自覚はあるのだろうか。

 まあ、レイモンドおじい様は、ニコラスおじい様の盟友だったそうだから、気が合いそうな盟友関係だったのでしょうね。


 それで、キャサザード家に嫁いできた母は、自分の孫、つまり私の子供が王になることを夢見て、今までやってきたようだが、その夢は潰えた。

 そんでもって、キャサザード家を見限って、現在は絶賛婚活中だという。

 それにしても、話を聞くと、権力というより、王家に執着しているようだ。今更、どんな婚活をしたところで、公爵夫人より上の身分になれるとは考えられないが。


 「まあ、目論見の是非はともかく、お母さまが、第二の青春を謳歌しているようで、安心しましたわ。」

 「その物言い、ニコラにそっくりだな」

 レイモンドおじい様が、昔を懐かしむように呟く。

 そうかしら。私は、お前の娘、出産の実績ある? なんて言わないと思うのだけど。



 「それで、ベル。ここからが本番なのだが」

 おじい様は話を仕切り直す。

 「他でもないお前を呼んだのは、このためだが、お前には爵位が授けられる」

 すでに私は公爵令嬢ではない。大方、キャサザード家所有になっている子爵か男爵号を一代限りで授けられるのだろう。その手続きのために呼び戻したというわけだ。

 「お前には異邦爵が与えられる」

 「あら、それはまた。古いものを引っ張り出してきましたわね」


 意外なものが出てきた。

 百年ほど前、ザグーラント及び、周辺の国家で強力な伝染病が流行したことがあった。猛威を振るう伝染病に多数の死者が出る中、A国の医者が、その特効薬を開発した。

 その医者は特効薬のレシピを病に苦しむ国、すべてに公開した。

 怒ったのはA国であった。他国に対し、高額でその薬を売りつけるつもりだったA国は、その医者を捕らえ、国家機密漏洩――その医者単独で開発したのではなく、A国の開発した薬のレシピを盗み出した――として、処刑しようとした。

 そこにザグーラントや、他の薬を公開された周辺諸国より、A国に通達があった。

 多数の人民を救った英雄である、その医者に我が国の爵位、異邦爵を授ける、と。

 異邦爵には、何の権限もない。ただ、栄誉と勲章を授かるだけである。

 だが、それはA国への圧力になった。我が国の爵位を授けた貴人を、貴国が独断で処するのか、と。

 A国は処刑を取りやめ、医者は解放された。

 それは周辺諸国からの、純粋な感謝と、狡猾な打算――自国に利益に反しても、他国の利益になることならどんどんやれ。我々が守護するから――によるものだった。



 それが私に与えられるというのだ。

 身分はあっても権限は何もない。本人は外国にいる前提である。

 そう考えると、私にふさわしいもののような気がしてくるけど、

 「私は、英雄のような業績はまったくありませんけど」

 「英雄の時と違い、我が国だけで任命されるからの。……それにな、お前の名前はキャサザード家を貶めるための工作に使われてな……、なんと言うか、面倒なことになっておるのだ」

 「?」


 現キャサザード公爵は父殺しである。王子も公爵に篭絡され、いずれこの国は悪の手に落ちてしまう。

 キャサザード公爵令嬢マイアベルは、その二人に最も近い人間であったため、邪悪な陰謀に気づいた。

 聖女マイアベルは、我らが祖国のために自己犠牲の精神で、愛する二人を断罪した。

 悪は滅びた。

 しかし、この国にいられなくなってしまった聖女は、一人、他国へと旅立ったのだった。


 「なんですか、それは」

 聖女とかは、もう終わった話でしょう。

 「最初は、キャサザード家を貶めるための工作として、流言飛語が撒かれとったんじゃが、いつの間にかそれが変質してこんな話になって、広まっとるんじゃ」

 組織(アガペー)が流した、私が聖女だと言う噂も影響しているのだろうか。

 「まさか、本気で信じられてないですわよね。こんな過剰にドラマ仕立てにされた話」

 「さすがに、それはな。じゃが、大筋は合ってる、と思われとる」

 暇か。暇なのか国民は。刺激を求める有閑なのか。そんな暇があるほど生活水準は高くなかったはずだが。


 「そんなわけで、お前の爵位授与は民衆へのガス抜きの意味も兼ねておる。国のために功のあった…ホントはないが…、うら若き令嬢を追い出したのでなく、国はきちんと評価しておると」

 「ハァ~~、……分かりました」

 「それで、お前には異邦公の爵位が与えられる」

 「公? かの英雄でも伯爵だったと記憶していますけど」

 「うむ、これはな、実質キャサザード公爵家を二つに分ける。そういう体じゃ」

 「公爵家の力を削ぎたい。けれど、それをあまりあからさまにはしたくない。二つに分かれただけで、実際にはあまり減っていないと見せかけたい。それで公爵家傘下の者の不満や反逆を減らしたいと。それでいて実質、私の方は何の権限もないので、しっかり公爵家の力は減っていると」

 「そういうことよ。半分にまで減らす気はないが、ある程度は削っておかなくてはのう。フフ、こうして話しておると、本当にニコラの奴と話しておった時のようじゃ。隔世遺伝という奴かの。お前が王妃となり、キャサザード家とあの王子のバランスを取ってくれておれば、今も……。陛下もそれを期待して……」

 「それはお断りいたします。以前にも申し上げたはずですが」

 「わ、分かっておる。詮無いことを言った。忘れくれい」

 急に冷えた言葉のトーンに、レイモンド引退公爵は慌てて、撤回する。


 私の方はそれでいいが、この措置に不満はないのだろうか。

 「ボープトン侯爵は」

 「侯爵はキャサザード家の勢力を削ぐことには賛成しておる」

 「次期当主となる弟は」

 「…………」

 黙り込む、おじい様。やはり、不満なのでしょうね。

 「……実はな、最初は公爵位にまでする予定ではなかったのじゃよ」

 風向きが変わった。

 「クリスティのやつが、それに異を唱えたのじゃ」


 我が弟。キャサザード家の次期当主クリスティ。

 そのクリスティが、姉に公爵位を与えろと暴れたという。

 それまで、それ以外の措置については神妙に受け入れていたのだが、そのことについて譲らず、受け入れられないなら、自分は公爵位に付かず、姉に譲る、とまで拗らせたらしい。


 なんでまた、そんなことに。


 「どうも、姉を神聖視しておるようでな。あの環境から解放されたのは姉のおかげじゃと」

 「弟がその環境にあることを予想しておきながら、放り出して他国に行った姉ですけど」

 「そう取れなくもないがの、そうは取らなかった、ということじゃろ」

 あの環境で育てられれば、多少、歪んでしまうのも仕方がないか。

 でも、これから公爵家当主になるのに、仕方がないでは済まないと、思うのだけど。

 「その辺はボープトン侯に矯正してもらっておる。幸いと言うべきか、これまで教えられてきたことに反する事柄は、喜んで受け入れておる。じゃが、姉のことだけは決して折れなんだのよ」

 「一度ぐらいは顔を合わせいこうと思っていたのですけど、それなら合わない方が良さそうですわね。幻想を壊して、また別の拗らせ方をすると厄介ですし」

 「やはり、ニコラに似ておるよ」


 また言い出した。

 レイモンドおじい様は、本当にニコラスおじい様のことが好きなのですね。

 正直、事あるごと似てる似てる言われるのは、勘弁してほしい。



 異邦公ということなので、ことはバビブリルの方にも関係する。

 公爵家の財産の一部が私のものになり、私がバビブリル在住なので、国家規模でみるとそれはバビブリルの資産に含まれることになる。ザグーラントからバビブリルに譲られた形になるのだ。その譲った分、バビブリル内で、私に配慮がなされるということだ。


 領土もできるそうだ。研究で忙しいので、領土経営などする気はない。それは承知の上で、名目上の領主となり、ザグーラントとバビブリル、両国から代官が派遣され、彼らにより共同統治される計画が進んでいる。

 「両国の交流が成される、緩衝地にならないかと、期待がかけられておる」

 「はたして、両国の橋渡しとなるか、それとも揉め事の種となるか、どちらに転ぶかは神のみぞ知ると言ったところですわね」

 「うむ、二コラの使いそうな物言い……」


 またそれかい。


 その時、部屋のドアの向こうで、何事か揉める声が聞こえてきた。

 かと思うと、バーンと勢いよく扉が開かれ、少女が入ってきた。 

 「お爺さま、マイアお姉さまが返ってきてるって本当なのですか」

 「リン、はしたないぞ」

 無作法を咎めるご隠居だが、その声色は全然咎めていない。このご隠居、孫娘には甘々なのだ。私は知っている。


 その孫娘の少女、ノアタジネット公爵令嬢イブリンは、私の姿を見つけて駆け寄ってくる。私の座ってるソファに膝を付き、上半身を乗りだしてきた。

 相変わらず距離が近い。まつ毛の毛先までよく見える。

 そして、何かを言おうとした機先を制して、その頭を撫でる。

 「久しぶりね、イブリン」

 「もう、お姉さまはいつもそうです」

 そう言いつつも、大人しく身を委ねてくる。

 彼女にはおじい様に伝言を頼んだだけで、別れの挨拶もせずに国を出た。文句を言われるかと思ったので、先手を取ってみたのだ。


 彼女に続いてブロンドヘアの男性が室内に入ってきた。イブリンの婚約者のフレデリック殿下だ。

 おじい様が慌てたそぶりを見せずに、急いで立ち上がり礼を取る。

 私はイブリンがまとわりついているため礼を取れないが、それはスルーされる。

 「キャサザード嬢。いや、キャサザード公爵、か。どう呼ぶべきか、判然としないが……」

 「この場は、無礼講でよろしいのでは。ねえイブリン」

 この場の最高権力者に問う。

 「はい。そうしましょう」

 その時点で許可は取ったようなもの。

 殿下も、ご隠居に負けず、婚約者にダダ甘なのだ。

 


 イブリンと初めて会ったのは、まだ幼い頃。

 実家だけでなく、王城でも私の妃教育が行われていた。体力の限界を見計らって行われる実家とは違い、王城での教育には余裕があった。

 余裕ができた私は、この国にあるマジックアイテム「無限切断の魔剣」の資料でもないものかと、城内を散策していた。

 そこで、植え込みの陰で一人泣いている少女を見つけた。

 名前を聞き、この子があのイブリンかと、事情を聴いてみると、祖父たちに権勢を奪われた貴族の子息子女たちにいじめられたのらしい。

 確かに、そういう輩はいた。子供はバレなきゃいいと思って、考えなしだからね。

 私はそういう輩は暴力で叩きのめして、王子に罪を押し付けた。今思うと、幼い所業だったと思う。肉体に精神が引っ張られていたのだろうか。婚約者を庇ったとして、王子の評価が上がってもおかしくなかった。失敗策であった。

 それで、泣いているイブリンにどう声を掛けたものか。

 この子に、どうせ子供の腕力に大差はない。欠損をためらわず急所を狙え、とか言っても無駄でしょうし……そうね、

 「つまり、おじい様のせいでいじめられているというわけね。なら、おじい様に賠償として慰謝料を請求なさい」

 「いしゃりょう?」

 濡れた目をパチクリとさせて聞いてくる。

 「そうね……慰謝料とは、お小遣いよ」


 次の日から、そいつらは城からいなくなっていた。城を出て、帰る家があったかどうかは知らない。



 「お姉さまと一緒にこの国を支えようと、頑張っていましたのに」

 「こうなってしまったのだから、仕方がないわ。これも運命よ。運命だから仕方がないわ。そう、仕方ないの。貴女は王妃として私の分も、適度に頑張るのよ」

 「はい」

 「どこが運命じゃ」

 素直に返事をするイブリンと、ぼそっと呟く老人。やはり年を取ると、素直さが失われてしまうのね。


 髪を撫でる私に、イブリンは付けている髪飾りを見せつけてくる。

 これは私があげたものだ。

 遺跡で拾ったものだが、王城での教育の合間に調べて、マジックアイテムではなかったので、いらないならくださいと言うイブリンにあげたのだ。

 公爵令嬢のイブリンが、普段使いするにも、公式の場に付けていくのも相応しくない一品だった。

 なので彼女は、職人を呼び、金銀で塗装し、公爵家所蔵の宝石ブルーホライゾンを付けて、相応しいようにして使っている。

 すでに原型はなく、元の素材は変形して宝石の台座のようになっている。

 本人がいいならそれでいいけど。

 後で、ブルーホライゾンを媒介にして、致命回避の魔法でも付与しておきましょうか。


 寄りかかってくるイブリンの髪を編む。


 スキル「二糸結索」 編み物が自在にできるスキルだ。


 二糸とあるが、別に糸は必要なく、指で髪を編み込めたりもする。「編む」という概念そのものに干渉する魔法を使って作られているスキルなのだろう。


 可愛く完成した。

 それにしても、甘えてくるイブリンを見ていると、不安になる。

 「おじい様も、フレデリック殿下もイブリンを甘やかしすぎでは。時には厳しく成長させることも、彼女のためでは」

 「あ、貴方が言うのか……、そうなのか」

 殿下は何故か愕然としている。

 「素直すぎて不安になります。はたして、魑魅魍魎うごめく宮廷でしっかりとやっていけるのか」

 「自分を基準にするでないわ。リンも十分に強かな手がうてる。お前を基準にしているからそう見えるだけじゃ」

 「まあ、ひどい。人をモノノケのように」

 傷ついた振りをしてみる。

 かつてさらけ出されたが、私の演技は上手くない。イブリンにも、殿下にも露骨にフリだと見抜かれるだろう。


 「む……そんなことは……いや……なんだな……。お前の前では素直だが、他の者の前ではちゃんとしてるということであってな……決してそういう意味では……」


 このおじい様は孫娘には甘々なのだ。私は知っている。


 婚約解消のための根回しで、最初に寄ったのがレイモンドおじい様である。あの日、キャサザード家の日常を話しただけで、あっさり味方に回ってくれた。


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