28 竜の骨
常夜灯のための資材が届いた。
早速作ってみる。失敗。
最初から上手くいかないのは分かっていた。ぼちぼちとやっていこう。
まずはスタンド型の資材に、光源魔法を付与するところから始める。
それ自体は成功する。ただし、時間と共に、込めた魔力が尽きると、光も消えた。
これを半永久的に稼働するように仕組まないといけない。
周囲の魔素を取り込む仕組み。
魔法反応を起こさせる仕組み。
魔法反応で取り込む魔法を発動させる仕組み。
杖と同じ素材で作った干渉材に、一定の動きをするように仕組むか。それだと動きにより構成物の劣化は避けられない。それを避けるためには、常に保持の魔法を掛けるように、仕組みに組み込んでおくか。
仕組みを多くしすぎるのは避けた方がいい。
動きなしで魔法反応を起こさせるようにするか。
そもそも周囲の魔素だけで、安定して光らせることが、まず難しい。とにかく、魔素が足りない、魔力が足りない。
素材の質を良くすれば、変換効率も良くなるが、値段がどんどん跳ね上がる。
さらに最上級のものを使ったとしても、それでも足りない。
少ない魔力や魔素で魔法を使う研究。それを専門に研究している研究室を覗き、最先端の効率を目の当たりにする。
それでも足りない。全然足りない。
この世界に発光性植物とかはないのだろうか。できれば魔法反応で光るものがあれば、その原理を応用できないだろうか。
植物館にでも行ってみましょうか。
光を反射して光る植物や、光を内部に蓄えて光る植物などはあったけど、魔法反応で光る植物というのは、なかなかないようだ。
植物館からの帰り道、張り紙を見つけた。
竜の骨発掘 作業員募集 あの【希少な】〘世紀の発見〙竜の骨の埋蔵地が発見されました〈今だけ〉〔この機会を逃がすと……〕発掘しに行きます。簡単な作業です。(安心❤)レクリエーション気分で参加しよう
未経験・学生も歓迎 (^_-)-☆ フランド研究室
怪しい。怪しすぎる。怪しすぎて、思わず申し込んでいた。
そんな訳で、竜の骨があるという発掘場所に向かっている。
竜の骨に関しては、いくらか調べていた。
碌な情報はなかった。
竜の骨を粉にして、飲み続けたおかげで150才まで生きました、という怪しい男の記録はあった。
それ以外にも、怪しげな情報ばかりが出てきた。
そもそも、竜の骨と呼ばれているが、正式に竜の骨であると認められているわけではない。
俗称「竜の骨」と呼ばれる物質がある。魔法に反応し、優秀な触媒として使える。
貴重なものであり、偽物も大量に出回っている。
そもそも、本物と偽物を見分ける方法もない。
魔法の触媒に使えるか使えないかはあるが、それは偽物本物とは関係のない話。
触媒として使わず、粉にして飲んでいる奴がいるぐらいだ。
今回、見つかったのは触媒として使える「竜の骨」だそうだ。
発掘を企画した、フランド研究室のフランド導師は巨人だ。
巨人はその両足を切断して、一人前という風習がある。
巨体を支える関節が、若くして限界を迎えるので、それを切り落として義足にするのだ。関節を治す魔法は希少なので、そうやって働ける期間を延ばすのだという。
関節を守るサポーターなどの技術が発展してきた現在は、廃れ始めているが、まだ風習を守る巨人たちも少なくない。
巨人は寿命も短い。
心臓が巨体を動かす負担に耐えかねて、耐用限界を迎えるのが早い。四〇歳ほどで寿命を迎えることも珍しくない。
フランド導師は、魔法の義肢の専門家で、その道の権威なのだという。
15メートルほどの巨体に、足には長いブーツを纏っている。ブーツの下に魔法の義足があるのか。それともブーツ一体型の義足なのだろうか。
道中、研究室の所属だという、5メートルほどの巨人と話を交わした。
シターニアという30代ほどの女性の巨人で、その足は、どう見ても戦車である。
魔力で車輪を回し、キャタピラを動かす。
無限軌道というやつだったかしら。
その上部に膝から上の巨人が生えている。
これが導師の作った魔法の義肢なのか。
「巨人はねえ、他の種族に比べて寿命が短いから、研究の道に進む人があんまりいないんだよ。それもあって、巨人用の魔法の義肢の研究ってのが、あまり進んでなくてね」
そこを切り開いた、フランド導師は偉大な研究者だと熱弁された。
「ちょっと、キレると見境が無くなったりもするけど……、ところで、あんたの……それは、何?」
私は鉄の国でも使った、土の精霊に地面を無限軌道させる魔法で移動していた。
「歩幅が違いますので」
「ふ~ん、そう、かい?」
微妙に納得していない返事を聞き流し、現場に向かう。
一行は、研究室から十数名、うち巨人、八名。外部から私を含めた二十名ほどの集団で向かっていた。中にはバイトだと思って参加して、バイト代が出ないことを愚痴っている者もいた。
誰が作ったのでしょう、あの張り紙。
シターニアと研究室のサイズについて駄弁りながら進んでいると、そもそも何故、魔法義肢研究室が、竜の骨を掘り出しに行くのかの話になった。
フランド研究室は、現在、巨人用の魔法の人工心臓の作成に挑戦している。その素材をいろいろと試していて、竜の骨が使えるかどうか試してみたい。そのためには大量の竜の骨を入手しなくては。だが、竜の骨は高いうえに、魔法用に使うかどうかとは別の所で値段が付く。高ければ使えるというものですらない。必要な性能の竜の骨を手に入れるのは、かなり困難だ。
それなら、いっそ自分たちで掘り出してしまえ。
それで、本当に見つけてしまったのだから、大したものね。
ドラゴンの化石は存在しない。
この世界にドラゴンがかつていたという証拠になるものは存在していない。いや、私の目の前にいるが、それは置いておいて。
一般にドラゴンとは、神話や伝承の中にしか、存在が確認できない生き物である。
にもかかわらず、この世界の住人は、ドラゴンが実在したことを疑っていない。
実在していたならば、なぜ痕跡が残っていないのか、竜の骨がそれなのか、人々は何故それで、ドラゴンの存在を信じているのか、興味はあることではあるのだが……。
発掘現場に到着した。先に付いていたメンバーが、何かもめている。
もめているのは、リザードマンの集団だ。研究員の一人が交渉をしている。フランド導師は、一歩下がり、交渉の様子をしかめっ面で聞いている。
「何でしょう? 現地の方?」
「いや、リザードマンの居住地はもう少し向こうにあるはずだよ」
「だとすると、流れ者でしょうか」
リそのザードマンたちは、湿原に住むクロコダイル族の者で、彼らは定住地を持たず、バビブリルを旅して回っているらしい。
クロコダイル族とは、土と水の精霊に定期性のある種族だったか。
種族ごとの居住地自体は決まっているが、別に他種族の居住地に入ってはいけないという法はない。ただ、その種族ごとに調整された生活様式と法ですごしているので、他種多種族は住みにくい、というだけである。
ここは「天至の塔」の行政区域なので、塔所属以外の者が問題を起こした場合、一段、厳しく処罰される。
リザードマンたちはそれを知ってか、知らずか、傍若無人な態度を崩さない。巨人が何人もいるのに、まったく恐れる様子はない。それほど自信があるのか、暴力沙汰にはならないと高をくくっているのか。
彼らはリザードマンはドラゴンの子孫だと主張している。ここに埋まっている竜の骨は自分たちの先祖であり、自分たちが管理するべきだ。
平たく言うとそんな感じのことを言っている。
本気でそう信じているカルト宗教なのか、竜の骨ほしさに金目当てで主張しているのか。どちらかは分からない。
遠巻きにしばらく眺めていたが、交渉は難航している様子。
始まらない発掘作業に、ここまで何しに来たのかと、ぼやき始めた者も出だした。
交渉役をしていた研究員を押しのけて、フランド導師が前に出る。二言三言、言葉を交わすと、リザードマンたちから嘲りの笑いが飛び出した。
フランド導師は、黙ってブーツを脱ぎ始める。そこには、膝上で斬り落とされた足があった。
その足から、いきなり炎が噴き出した。炎は足を型作り、しかと大地を踏みしめる。炎は下半身を覆い、上半身まで朱に染まる。その焔は導師自身を焼くことはない。
導師は炎の巨人だったの。
交渉していた研究員が、急いで逃げだす。
炎が舞う、巨人が飛ぶ。
導師は無言でリザードマンたちに襲い掛かった。容赦なく焼かれるリザードマン。
リザードマンたちも、初めは驚きに支配されていたが、たちまちやる気を取り戻し、迎え撃ち始めた。相手が巨人であっても、戦意旺盛だ。
発掘隊のメンバーからも、血の気の多い者たちが飛び出していく。
乱闘が始まった。
「私はツルハシより重いものを持ったことがない、か弱い令嬢なので、避難しますね」
「か弱い令嬢を守るために、私も避難しましょう」
私に追随して、女巨人のシターニアも、その場から離れる。
乱闘現場から離れた岩肌。乱闘に参加しない者たちで、その場まで下がってきたのだが、その岩肌にも、竜の骨と思しきものが見受けられた。
これが竜の骨、ね……。これは……なんなのかしら。
積み重なった骨が堆積して石化した、と言われればそうも見えるが。岩石層が入り混じっているだけ、と言われればそうも見える。
確かに骨らしきものが岩に埋まっているが、骨だとしても、竜のものとも限らないし、竜の骨と言われれば、そうも見える。
なんとも判断の難しい代物だ。
「この辺りまで、続いていたのね」
シターニアが岩の表面に堆積した塵芥を払う。
この岩に浮き出ている竜の骨は、わずかな範囲にしかないが、乱闘現場より向こうには、かなり巨大な竜の骨があるらしい。
突然、ウロボロスの魂が、私から離れ、乱闘現場に向かって飛び出した。
見ると、乱闘はあっさり終結しており、リザードマンたちは必死に逃げ散っていた。
ウロボロスは元乱闘現場を通り越し、巨大な竜の骨がある場所を目指していた。
ウロボロスを追う。ウロボロスの魂は、他の人間からは本人の意思で見えなくなることができる。ウロボロスも「認識の笠」を使っているのだろうか。
ウロボロスは巨大な竜の骨がある場所から、岩の中に入りこみ、何かを咥えて出てきた。
人と蛇の要素の混じった有翼のドラゴン。
ウロボロスの仲間なのか。
だとすれば、これは本当に竜の骨だったのか。
ドラゴンの魂は死んだようにうなだれ、ピクリともしない。
死んでいるんじゃないの、これ?
魂だけなのに、死んでいるも何もないが、そう表現するしかない様子だった。
ウロボロスは引きずり出したドラゴンの魂と、私を交互に見つめる。
このドラゴンもスキルにしろ、と促しているのだろうか。
以前、「無限竜の咆哮」で死にかけたが、あれは魔王仕様になっていたからだった。
いつでも魔王の魔力を許可なしに使って、ドラゴンたちは自分の肉体を作っていい。魔王が使っていた時はその仕様だった。
それで、スキルは私の意思ではなく、ドラゴンの―ウロボロスの意思で、融合した上に、勝手に起動した。
魔力無限の魔王にしてみれば、何の負担もない話だっただろうが、私にしてみれば軽く死ねる負担である。
もともと、魔王が自分が使うために、自分用に用意したスキルである。それを勝手に使っているのはこっちだ。よく分からない条件で、よく分からない所から流れ込んできたとはいえ、私も望んだ。
文句をつける筋合いはない。
とはいえ、死にたくはない。
また融合スキルが勝手に起動すれば、今度こそ私の命が危うい。
目の前のドラゴンは死んでいるように動かない。意識があるように見えない。これならば、勝手に起動することはないのか。
私は、ちょっと御不浄に、とその場を離れ、付いてくるようにウロボロスを促す。
ウロボロスの魂も、もう一体のドラゴンの魂も、発掘隊には見えていないようだ。
発掘員たちから見えない場所まで来て、「二重複写」で分身を作り出す。この分身はスキルを使えないが、私自身がスキルを使い、この分身に触れることで、分身がスキルの効果を使うことができる。
続いて、分身の髪の毛を一本握る。もうちょっと長さが欲しいので、育毛魔法で伸ばす。
伸ばした毛の真ん中に、抵抗魔法を掛ける。これで髪の毛を魔力が通れば、抵抗が発生し、髪一本程度なら簡単に千切れる。
髪の毛とはいえ、体に触っているので、分身がスキルの効果を発動できる。髪の毛を通して、私の魔力が吸い取られそうになっても、すぐに毛が抵抗により千切れる。そうなれば、それ以上魔力を取られることはない。
ウロボロスの時のように、融合スキルが勝手に起動したとしても、分身の魔力だけが吸い尽くされる。
これなら、万一の時も大丈夫だろう。
分身にドラゴンの魂に触れさせる。
スキル「アズダハー」が増える。
「アズダハー」と「ブレス」で融合してみる。
スキル「深壊竜の咆哮」が生まれた。
勝手に起動はしなかった。
ホッとして、分身を解除する。すると、ウロボロスがアズダハーを飲み込み始めた。
そのまま、ウロボロスは仲間のドラゴンの魂をすべて飲み込んでしまった。
スキルは消えていない。
ウロボロスはすました顔で、泰然としている。
ドラゴンの魂は不滅らしいし、死んだように弱っていたから、口で子供を育てる魚のように、体内で養生させているのだろうか。
ドラゴンたちのことは、置いておいて、発掘隊に戻り、作業を手伝う。巨人の膂力や魔法の力で、ちょっとした小山ほどの竜の骨が発掘できた。
私は竜の骨を一かけら分けてもらった。そういう条件で参加したのだ。
部屋に戻り、骨を一部、粉にする。それを口にして、ダルシーのスキルで調査する。
ダルシーと違って私が口にするメリットは、伝達面以外にも、こういう時にもある。
よく分からないものを口にし、ペロッ、これは青酸カリ! ぐふっ! とかなったとしても、口にするのが私なら、スキルの効果で平気なのだ。
そんな訳で、竜の骨の正体が判明した。
これは岩だ。
ただし、ドラゴンの魂が入り込んだ岩。
肉体を失くし、ウロボロスのように正気を失くしたドラゴンの魂が、新しい肉体を得ようと、そこら辺のものに手当たり次第に入り込んだ。
ドラゴンの魂に入り込まれた物質は、その影響で変質した。或いはドラゴンの能力で変質させたのか。
そこらへんははっきりしないが、ドラゴンの魂が入り込んだことにより、その物質はまったく新しい別の物質に変わった。
元の物質と、ドラゴンと、生物と、魔力と、その他いろんなものが混ざり合った新素材。
魔法の触媒としては優秀であるし、人工心臓の素材としても、かなり有用なものになり得る素材だ。
それでも、ドラゴンの肉体たり得なかった。
アズダハーはスキルにはできたが、あそこにあったのは魂の一部にすぎなかった。
その魂は千々に千切れて、不滅故に、それでも消え去ることなく、世界中のどこか、世界中で見つかっている竜の骨の中に、ばら撒かれているみたいだ。
これが竜の骨の正体だった。
では、シャシーはどうなんだろう。
シャシーを作る時に使われたと記されていた竜の骨。あれによってドラゴンの魂が混ざって生まれてきたのだろうか。
シャシーを呼び出し、触れ、スキルにできないか、融合できないか、試してみる。
出来ない。
シャシーは、竜の魂で変質した物質の影響を受けただけのようで、ドラゴンの魂は混ざっていないようだ。
これで、二体のドラゴンが私の元に集った。
ドラゴンを集めてもねえ、というのが本音だ。
別にドラゴンをコレクションしているわけでもないし。
不滅の存在とはいえ、無限の研究に役立つ訳でもないでしょうし。
実験に付き合え、と言っても相手にされないでしょうし。
そもそも、どうやって実験を……確か、霊について調べる魔法があったはず。
霊について調べる魔法は。死霊魔法と神聖魔法に存在した。




