27 無限に使える(使えない)マジックアイテム
常夜灯に関しては、発注した資材が届いてからとして、まず、魔王と魔導王国の残した遺物だ。
どこを探ったものか。
とりあえず、博物館でも行ってみよう。
天至の塔内には、博物館と資料塔があった。
博物館は、一般公開されており、歴史・美術・動植物・水族から魔導博物館まで揃っている。
私の目的としては、歴史と魔導を覗いてみるのが正解だろう。
歴史館は、この国の歴史をメインとした資料が展示されている。
古代の歴史、魔導王国時代の物も、展示されていたが、特にマジックアイテムと言うわけでもなく、「永続」の効果が切れた物品などが並べられているだけだった。
まあ、そんなものだろう。
バビブリル建国の歴史が順路に沿って、紹介されている。
この地こそは、かつて魔導王国が発祥した土地であり、種族の差を越えて、魔法を使える種族が集う、魔導を継ぐ国である。
何箇所かで主張されている、起源はうちだ、という奴ね。バビブリルのその内の一つだったのね。
魔法を使える種族ならば、分け隔てなく受け入れる、魔導の理想郷。魔導王国を継ぐのはバビブリルがふさわしい、と。
逆に言えば、魔法を使えない種族は差別する、という宣言ね。
収穫はなかったが、それなりに楽しんで見て回った。
魔導館は、この国の魔法の開発と発展の歴史を資料として残してある。
魔導王国時代のマジックアイテムも展示されていたが、当然「永続」は切れている。マジックアイテムとしての効果も、発揮しないようになってしまった物が置かれているだけだった。
同時に記されている解説を読んで、目星だけ付けておく。
このマジックアイテム、同様の物で、効果が残っているものが見つかれば、研究の役に立つかもしれない。
資料塔は職員しか入れない。もちろん客員の私は入れる。
入り口で身分証のメダルをかざし、入塔する。
ここには「永続」の切れていない資料や、まだ効果を発揮する魔導王国時代のマジックアイテムが所蔵されていた。
まずは目録をチェックする。
持ち出し禁止、閲覧禁止、研究目的と資料の関係性、使用用途を詳しく記して提出、各関連分野の最高導師以上と資料塔最高責任者の許可がいる。
いろいろと、条件がある。
資料の希少性を考えれば当然か。
天至の塔の重要スペースには、「ヴァルキュリアの結界」が張られ、魔法の使用は封じられている。
これも魔導王国時代の遺物である。
現代のどの魔法よりも、信頼性と効果が高いので、再現、メンテナンス、あらゆる手段を使って維持され、今も使われている。
スペックが高いので、重要スペースじゃなくてもカバーできる場所はカバーしている。
聖女や、聖地の結界は効かなかったが、この魔法装置の効果はどうなのだろうか。
少し気になるところだが、わざわざ危険を冒して、試してみるほどのことではない。
今日は、資料の見学だけにしておこう。
目ぼしいものは……
使用回数「無限」と言われる、マジックアイテム。
目録から、ざっと見つけたのは、「無限収納の箱」、「無限の洋服ダンス」、「無限細工作成機(木製)」、「無限消臭ビーズ」。こんなところか。
この類のものは、無限(無限じゃない)なことが多いのだが、さて。
無限収納の箱
小物入れ程度の小箱だが、箱に入るサイズなら、無限に収納ができる。
本当だろうか。
本当に無限なら、海に投げ入れるだけで、水を無限に収納して、海が干上がってしまう、危険物だ。厳重に保管しなくては。
まず入り口が小さいので、どれだけ時間をかけても入れられる量はたかが知れている。
水圧で勝手に入ってくる水は別として。
このタイプは異空間を作りつつ、中に入れた物を縮小して保存するタイプのものが多い。異空間のサイズと縮小率によるが、北海道ぐらいのサイズ感を用意できれば、箱の入り口では、いくら入れても埋まらない、となるだろう。
人一人の手作業で、北海道サイズの埋め立て地を作るようなものだ。
この場合、異空間の形成維持と、物を入れるたびに、縮小、保持、復元の魔法が使われている。その魔力をどこに用意しているか。
現行の魔法技術では、再現は微妙である。
異空間は作れるが、それほど大きな空間は作れない。作成と維持に莫大な魔力が消費される。高レベルの魔法使い複数人がかりで、わずかな時間だけ作れる程度。
縮小は、縮小魔法は可能だ。ただ、小さくすれば、それだけ脆くなる。それを保持するために、保持魔法も必要。ここまでは可能。その後の、縮小した物を元の大きさに戻す魔法。これが不完全なため、再現不可のマジックアイテムとなっている。
無限の洋服ダンス
これは洋服だけが収納できるタンス。他のものは入れられない。それ以外は、無限収納の箱と変わらない。
使用用途が限られているなら、縮小保持復元の魔法に必要な魔力量を減らすことができそうだ。
服を来たままの人間がこのタンスの中に隠れて、タンスを開けてみると服だけが残っていた、という怪談があるそうな。資料塔の職員が教えてくれた。
無限細工作成機(木製)
投入口に材料を入れれば、いくらでも細工物をが作れる。動作環境を満たさない使用を行った場合には、動作を保証しません。
もはや、無限とはなんのか。
無限消臭ビーズ
便利よね。
魔導王国とは、あったらいいなをカタチにする企業か何かなのか。
こうして見ていると、魔導王国は無限が好きなのかしら、と思う。
それでいて、無限と言いつつ無限ではない。
以前は、無限に謎のこだわりがあるのかと思っていたが、実際に無限の魔力を持つ魔王が支配者なのだとしたら、彼らにとって無限は崇拝の対象。
象徴たる魔王にあやかって名前に無限を付けている、とかなのだろうか。
これらマジックアイテム共通の問題点として、貴重品なので、満足な実験ができないところがある。
マジックアイテムと魔力の関係。
タンク型。
これはアイテムに魔力を込めたタンクが供えられており、そを消費して魔法を使う。タンクの魔力が空になれば、効果もなくなる。
次に代行型。
使用者の魔力を消費して魔法効果を発現させるもの。アイテムは、魔法を使用する時の動作や条件を代行する役目。アイテムが壊れるまで使用できる。
現存生物に魔力を持っていないものは希少であり、つまりは誰でも魔法が使えるようになるアイテムと言っていい。
必要な魔力量が足りるかは別の問題だが。
そして、循環型。
周囲の魔素だけで魔法を使う。タンクも使用者も必要なく、魔素がある限りは魔法効果が発動し続ける。その分、魔法の規模は小さなものになりがち。
私が作ろうとしている常夜灯もこの型である。
実際に最も使用されている型は、この三つのどれでもなく、混合型である。
周囲の魔素を取り込み、備え付けのタンクに貯めておく。使い手がタンクに魔力を貯めて置き、使用時は周囲の魔素を取り込み、タンクと魔素と本人の魔力の三つを消費して発動する。
別に一つの方法にこだわる理由はない。要は魔法が発動すればいいのだ。
問題はマジックアイテムの魔力がいつまでもつのかという点だ。
無限ならざる魔力は、マジックアイテムが使用されるたびに減っていき、最後には使えなくなる。
循環型ならその心配はないが、循環型で使えるのは、常夜灯レベルの光量の低い、灯の魔法程度までなのだ。魔力少量の多い高度な魔法になると、循環型では扱えない。
そもそも、この循環型マジックアイテム。現行の魔法技術では一から生み出すことができないのだ。
過去に作られたものを見つけ出すか、魔法によるコピーを生み出すしかない。
故国ザグーラントには、かつて、「無限切断の魔剣」というマジックアイテムがあった。
分解して調査した結果、どういった魔法と技術が使われているものかは判明した。
だが、修復して戻すことはできず、再現して同じものを作ることもできなかった。
結果として、無限切断の魔剣は失われた。
情報としては有意の物が残ったが、実利としてそれが生きるのは、まだ今ではない未来の話だろう。
進歩のためには、実験と実践が必要。
ただし、使いすぎると、再現性のない希少品が失われる。
その妥協点を探って、魔導王国の遺物は研究されている。
私は資料塔を辞して、自分の研究室に帰った。
そろそろ常夜灯の資材が届ていてもいいころだ。
未だ実現されていない現行魔法文明での常夜灯作成に挑むとしましょうか。