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16 命は軽いので大切にします

短めです


 シャシーに訓練はさせているが、戦闘は極力避けていくつもりである。


 「賛成!」

 「エえ~」

 無言の追従。


 三者三様の反応。


 それにしてもシャシーは戦わないと存在できない状態だった時は戦い好きでなかったはずだが、別に戦わなくてよくなった今は戦いを求めている。逆ではなかろうか。

 レミラ導師の教育というわけでもなさそうだし。

 義務で戦わなければいけなかったのが嫌で、好きに戦えるのなら戦闘好きなのだろうか。


 最も、反対したところで誰の意見も聞き入れる気はない。戦闘をしたところで研究の役に立つでもないのだ。身を守るために戦闘技術を磨きはするが、戦闘など避け、逃げるのが基本方針だ。


 それに、私には戦いを避けたい理由もある。



 故郷ザグーラントで冒険者をしていたころ、魔物の襲撃を受けた。

 二足歩行する虎の獣人。ウェアタイガーだ。

 攻撃性が強く、多種族と遭遇すると見境なく攻撃を仕掛けてくる。そのため種族単位で魔物と認定されている害獣だ。


 王子は真っ先に駆け出す。慌ててフォローに入る冒険者仲間(護衛)。

 ウェアタイガーは二体。私の所にも来た。


 それも見て、私は、「いけるな」と思った。


 杖を抜き出し、構える。

 ウェアタイガーが爪を振るい襲い掛かってくる。

 私の方に回ってきた冒険者仲間(護衛)が何か言っていたが、いけると思ったので気にしない。


 しゃがみ込んで振るわれる爪を躱す。かすめた爪に毛先が引き裂かれ、何本か舞う。やはりいけた。

 私はしゃがみ込みながら地面から小石を拾っていた。その小石にストーンゴーレム精製魔法をかける。

 ウェアタイガーは鋭い牙を剥き出しにして唸っていた。常に口を開いているのだ。これならいけると最初に見た時から思っていた。

 私はタイミングを見計らい、小石をウェアタイガーの口の中に放り込む。

 小石はウェアタイガーの食道で膨れ上がり、ゴーレムになろうとし始めた。膨らむゴーレムと食道。ウェアタイガーは内部から破裂……したりはしなかった。

 ウェアタイガーの強靭な内臓は、ゴーレムの膨張を抑え込んでしまったのだ。

 あまり強い力で膨らむわけではないが、抑え込まれるとは思っていなかった。

 まあ、どちらでも構わないのだが。


 喉を塞がれたウェアタイガーは、のたうち回り苦しんでいる。こちらに構っている余裕はない。

 「さがってろって、言ったのに!」

 仲間(護衛)が強引に私を後ろに下げる。仲間(護衛)はのたうち回っているウェアタイガーを弓で射る。何発も矢を受け、のたうち回れないほどに弱ってから、近づいて剣でとどめを刺した。

 堅実な戦いに感心する。


 私が王子の金で雇った仲間(護衛)は四人。

 普段は他の冒険者の教導をしている、ベテラン冒険者の夫婦。重装の戦士と、軽装の戦士。

 その夫婦の娘。両親に憧れ冒険者を目指した。両親は止めたが、止めきれずに一人前になるまで自分たちで面倒を見ることにした。剣と弓を使い、さらに簡単な魔法まで教わっている。ハイブリットな冒険者に育成されている。

 もう一人は魔法使い。青年と壮年の間ぐらいの男で、一身上の都合により、その年で急に冒険者を始めることになった。娘に魔法を教えることを条件に、夫婦から冒険者の教導を受けている。


 「なんで前に出たのさ」

 ウェアタイガーを片付けた娘が私に苦情を申し立てる。

 「依頼人だぞ、よさないか」

 と、魔法使いが止めるのもお構いなしだ。

 私は素直にいけると思ったのでと答える。

 「はん! 達人でもあるまいし、素人の感覚なんてあてになるもんか! あんたらになんかあって依頼失敗になるのはこっちなんだ! おとなしくひっこんでな!」


 確かに。

 その通りだ。

 いけると思ったからやったが、別にあんなことするは必要はなかった。


 王子の方を見ると、一人で危なげなくウェアタイガーを追いつめている。

 依頼では、王子は好きに戦わせる。危ないようなら見定めて助けに入る。そのため、ベテランの夫婦の方が王子のサポートに入っている。現状その必要はなく、王子一人で倒せそうだ。

 王子はスペックだけは無駄に高いから。

 好きに冒険者をしたい、というのが王子の願望なのでそうさせるように依頼した。大変だった。

 私の方には王子のような願望はないので、ただ護衛すればよいという依頼だった。

 苦情を言われるのも当然か。


 何故、私はあんな行動をとったのか?

 いけると思ったから。それ以外に理由はなかった。

 それであんな行動をとるのか?

 つまり、それは、私は自分の命を軽く見ているのか?

 自分の行動を思い返して見るに、どうにもそういうことのようだ。


 これはいけない。


 何しろ、死んでしまっては「無限」の研究が出来なくなるのだ。


 自分の命に関して無頓着であれば、死の危険も上がる。意識して回避していくべきだ。

 私は前に出ず、後方支援に徹することした。

 「分かればいいのよ、分かれば」

 「だから依頼人にはもっと丁寧な口調で……」

 「それにしてもさあ!」

 魔法使いの発言も軽く扱われている。私の命の扱いぐらいの軽さかな。

 「あんたら、最初は金持ちのバカボンとそのお目付け役かと思ったんだけどさ」

 「依頼人の素性を探るような真似は……」

 「違うね」

 大して違わないと思うが、どう思ったのだろうか。客観的な評価は聞いておきたい。

 「似てるよ、あんたら」

 「ええ……」

 思わず嫌がる声が出てしまう。

 「金持ちのバカボンの、兄妹ってところだろ」

 「だから、それ込みの依頼料を受けっているんだから、依頼人の素性は……」

 「ええ……」

 とても嫌だ。

 きっと、アレだ。王子と私の共通点に、二人とも高貴な生まれ育ちということがある。それから生じる似たような挙動を兄妹のものと勘違いしたのだろう。

 「似てるって言われた兄妹って、そういう反応するよね」

 ニヤニヤしながら指をさして笑う娘にゲンコツが飛ぶ。

 戻ってきた親からの鉄拳制裁に娘が叫びを挙げる。

 向こうは危なげなく魔物を倒したようだ。

 王子はこちらを心配するそぶりも見せず、

 「俺は一人で倒したけど、お前は?」

 と、煽ってきた。

 こいつと同じか……。



 余計なことも思い出してしまったが、そんな訳でできるだけ戦闘は避けたい。

 冒険者時代と違って、今は前衛を担当するのは、シャシーとカリリルだ。どちらも戦闘態勢になるまでタイムラグがある。その上、私の挙動を客観的にとらえて制する人間もいない。

 サーヤにその役割を担ってほしい所であるが、サーヤは私の意思を優先する。

 つまり、私が危険な行為をしようが怪我をしようが、私の意思を優先し、一切止めない。そして、私が怪我をして帰ってきたら、楽しそうに手当てをするのだ。

 この件に関してサーヤをあてにはできない。


 スキルの力があれば早々危険なことにならないとは思うが。そういう油断が危ないのだ。

 自覚的に危険から遠ざる、普段からその心意気でいなければ。


 「戦ワないのか……」

 「自分たちから戦いにはいかないけど、仕方のない時は戦わなければならないでしょうね。そんな時はアナタの出番よ」 

 「戦うのカ」

 「そう、そして私たちは逃げる」


 どうしても戦わなければいけない事態に陥ってしまったら、物理無効のシャシーの戦わせて私たちは逃げる。十分に距離を取った所で、ランプに命令すれば、シャシーはたちどころにランプまで戻ってくる。

 いい作戦だ。

 私は自画自賛する。


 命は軽いのだ。大切にしないとね。




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