12 無限循環型精霊 不死鳥モード
ストックが尽きたので以降不定期になります。
この世界はアンデッドが自然発生する。
怨念で動き出す事例が一番多いが、怨念でなく人の意思が集まるだけで死体が動き出す事例がある。
有名人・著名人などの葬式にて、死者が棺を開き動き出した。そんな記録も残っている。
今では、僧侶により死体を浄化してからの埋葬が通例となっている。
どういう力が働いているのか。この世界そのものがアンデッドの生まれやすい土壌をしているのだろうか。
チキンスケルトンは私とダルシーの「動け」という意思により、「動く骨」となって動き出した。
漠然とした「動け」という思いで動き出したので、漠然とした動きをするだけだ。
怯えて逃げ出すダルシーを他所に、私は杖を取り出し浄化魔法を使う。この国に来てから少し勉強してみたのだ。
あまり自信のない魔法だったが成功し、「動く骨」は「動かない骨」になった。
47日目
行き詰っている。
こういう時は行き詰ったまま作業を続けてもいい結果は生まれない。
いい機会だ。少しアンデッドについて考察しよう。
アンデッドの不死性について。
その中でも昨日も生まれたスケルトンの不死性について。
スケルトンはどこまで不死なのか。
すでに死んでいるから死なない? そんなことはない。
骨は摩耗し、削れて粉となった骨はただの物質、アンデッドではない。動きもしない。
体がすべて削れたスケルトンはどうなるのか。どうもなりはしない。ただの動かない粉だ。
浄化魔法を使えない冒険者はスケルトンに遭遇すると、とりあえず骨を砕いてまき散らす。粉々になるまでいかなくても、折れていない骨がない程度に砕けばいい。
しばらくは骨を震わせる程度に動くが、やがて時間の経過とともにただの骨となる。
不死には程遠い。
中には肉体を砕かれ、肉体のないゴーストに変化するスケルトンもいるそうだが、それはごく稀な例に過ぎない。
スケルトンに限らず、ゴーストやゾンビもそうだが、彼らを動かしているものは何だろうか?
怨念で動いているというなら、感情によるものだろうか。
感情は脳による。脳が摩耗すれば、感情も衰える。
アンデッドはそもそも脳がない。あっても腐っているとかだ。
では、アンデッドの感情は脳以外の機関によってもたらされていると考えるべきか。
霊、魂? そのようなものに感情をもたらす機能が有されているということだろう。目に見えない物質ではない感情機関があるものと想定される。
だが、どとらにせよそれが摩耗しないと言えるだろうか。
時間の経過とともに消えるゴーストもいる。スケルトンも粉々にされて時間が経つと、もう動かなくなる。
霊も魂も摩耗し、感情も衰える。
アンデッドたちを動かす力も衰える。
無限とはなりえない。
アンデッドの研究は優先度を下げて、後に回してもいいだろう。
48日目
昨日はアンデッドの考察で気分転換ができた。
今日から気分を一新して不死鳥を作っていこう。
58日目
行き詰っている。
新しい着想を求めて、普段とは違う行動に出る。
部屋を出て、塔を出て、敷地内を散策する。
こういうことから思いがけぬ発想に繋がって研究が進むのがパターンなのだ。
私は詳しいのだ。
整備された街路樹の並ぶ並木道を歩く。
忙しく行きかう研究員たちとすれ違う。
噴水の周りでランチを楽しむカップル。
実験の失敗か、血を流し救護棟へ運ばれていく研究員。
魔道具の実証実験を行っている研究員。
芝生で昼寝をしている巨人。
パピブリル七種連合国に住んでいる種族はヒューマン・ドワーフ・エルフ・リザードマン・マーマン・フェザーマン・巨人で七種である。それぞれの種族に王がいて、その合議で政策が決まる。
・・・・・・それはさておきあの巨人、通行の邪魔では?
何も思い浮かばない。
少し足を延ばして、食堂館に向かってみる。
「天至の塔」の隣には併設された育成機関があり。敷地が壁で分けられているわけでもなく、塔や学園の内部ならともかく敷地内の出入りは自由だ。ダルシーとケイ先輩は学園の方から入って、迷い、はぐれたらしい。
食堂館は研究員も学生もどちらも利用可能な施設だ。
課題に追われ、臨席の生徒と出し抜きあい、お互いにイジメの隙を伺っている学生どもでも見下せば、新たな着想が生まれるかもしれない。
「あっ」
不純な動機で食堂内を物色していた私に声がぶつかってくる。
「あら」
声のした先には、見覚えはあるけど思い出せない顔の学生がいた。
普段から「外付け記憶脳髄」を使っているわけではないので、一度見たことがあっても思い出せるわけではない。だが、そもそも私が見たことのある学生など片手で数えられるほどしかいない。そう考えると、
「あなたは、確か・・・・・・」
「あっ、えと、私はダルシーちゃんの・・・・・・」
そう、はぐれて迷っていたダルシーを道案内していた学生の内の一人だ。
「レイン・マトゥルと申します。レインとお呼びください」
「マイアベル・リノ・キャサザードよ。好きに呼んで頂戴」
「はい、ではキャサザード様」
あの日、連れとはぐれて見苦しいまでにうろたえていたダルシーを見過ごせず、友人たちと案内をすることになったらしい。
う~ん、隣人を蹴落としたり、いじめる隙を伺ってたりしてなさそうな子ね。
私と別れた後、塔近くで連れのケイ先輩と合流できたのでダルシーとは別れたが
「あの後どうなったのか、ちょっと心配してたんです」
その後、敷地内で私とダルシーが連れだって歩いているところを見かけたらしい。
ふむ、スキルや組織アガペーのことを秘密にして説明すると、
「彼女は婚姻目的で貴族に引き取れた所だったの。それで私の所で礼儀作法を学ぶために送られてきたのだけど、その婚姻が無くなってしまって、その家から追い出されてしまったの。それで、今は私が使用人として面倒をみているわ」
まあ、大体そんな所だ。
「そうだったんですね」
レインは芸術都市セベクから魔法を学びに来ているのだそうだ。実家は劇場を経営している。彼女は実家の劇場の音響や演出のために魔法を学びに来たのだ。
セットに触れると効果音のなる魔法をかけたり、客席の奥まで均一な音が届くようにする魔法だったりをかける裏方の仕事を志しているそうだ。
若いのに感心なことね、とおばちゃんのような感想を抱く。レミラ導師がうつったのだろうか。
実はレインの方が今の私より年上なのだが、私には転生した分があるから、年齢は・・・・・・、転生者だから仕方ない。仕方ない。
「舞台、ね。レインさん。不死鳥の出てくる舞台など上演したことはない?」
あった。
その時は鳥の形に形成したガラス細工を使って、魔法で飛ばしたのだそうだ。
「最初はガラスの中に魔法で火を入れるつもりだったんですけど、爆発の危険があるから駄目だってなりまして。結局、照明の加減で中に火があるように見える形にすることで落ち着いたんです」
なるほど、そうなるのか。仕方がないのかもしれない。うん。それで仕方がないわね。
「今度遊びにいらっしゃい。ダルシーも喜ぶわ」
そう言い残してレインと分かれた私は塔に戻る。
59日目
レインと話した翌日。
鳥の骨や灰は始末する。
別のボディの用意を始める。
104日目
「これが不死鳥なんですか?」
ダルシーの疑問ももっともである。
目の前には炎の精霊力を纏い、その身を炎で燃やしながら飛ぶ鳥がいる。
「そうね。これは、不死鳥らしきものよ」
不死鳥そのものを作ることは諦め、同じような働きをする不死鳥らしきものを作ることに計画を変更した。
まずボディを作る。
創生魔法を使い、目指した仕様に準ずるように肉体を創造する。
創生魔法には多大な魔力が消費される。しかし、「融通無碍の肉体」を使用していれば、魔力の消耗を感じることすらない。何時間でも使い続けていられる。
しかし、私の創生魔法で創造できる量は極わずか。時間をかけても大した量を創生できない。
二度ほど失敗しやり直したこともあって、これだけの日にちをかけてようやく完成した。ヒヨコほどの大きさの不死鳥らしきものの核が。
この核に虚精霊――ではなく「擬人の精霊」を融合。鳥型の精霊獣が起動する。いや、精霊獣と言う表現はふさわしくない。鳥型の精霊力無限循環システムが動き出す。
循環システムは常に精霊力を体外に排出する仕様となっている。排出した分の分の精霊力を空気中から取り込む。
カリリルを参考とし、エンシャル導師から作成方法を聞き出す。カリリルと違い食べたものを精霊力に変換する必要はなく、精霊力そのものを取り込んで自らの肉体に変えるシステムのみを再現する。
さらに、火のエレメントを混ぜ、構築された肉体は火の精霊力を持つようにする。
この時点で体が燃えている鳥、「火の鳥」が完成する。
いや、「火のヒヨコ」か
この後。復活と再生のシステムを組み込む。
火の精霊力で構築された肉体は常に消耗され消滅しているようにする。消耗した分の肉体は大気中から精霊力を吸収し補う。
傷を負った時に再生するのではなく、常に体が消滅と再生の循環を繰り返している。それ故、傷を負ってもすぐに再生されるように見える。
大気中の精霊力だけでこのシステムを実現するにはヒヨコサイズの大きさにするしかなかった。それでも密閉された室内などでは、小一時間ほどで大気中の精霊力を使いつくしてしまう。
普段は待機モードにして、消耗を抑える。
精霊力を火の精霊力に変化させる機能に制限を設けて、火の精霊力になっていない時は肉体の消耗もされないようにする。有事には制限が外れ不死鳥モードとなる。
ヒヨコサイズの不死鳥が有事に何の役に立つかですって?
そこは私が精霊魔法を使い、不死鳥に精霊力をぶち込む。すると一時的にかなりの大きさの不死鳥に変化することでができるようになる。
これで、精霊獣不死鳥を模した不死鳥らしきものの完成だ。
「でも、不死鳥は作れなかったんですよね」
「そうね」
不死鳥らしきものは不死鳥モードで鷹ほどの大きさになって室内を飛び回っている。大きさ的にかなり狭いはずだが、ぶつかることなく悠然と飛行を続けている。
「この不死鳥らしきものを作るのに何か意味があったんです?」
「こうして作ってみることで理解が進むの。もし、本物に不死鳥に遭遇することがあれば、この不死鳥らしきものと本物の不死鳥を比較検討することで不死鳥を作れなかった理由が分かる。ここが違うからこの能力が備えられなかった、と言う風に。それにこの不死鳥らしきものを作った理由にはダルシーの護衛のためというのもあるのよ」
「うう、そうでした」
ダルシーは嫌そうにカリリルをフニフニしている。ストレス解消に使われているカリリルは、マッサージご苦労といった泰然とした態度だ。
「それではこの子にも名前を付けないとね。フェニックスらしきもの・・・・・・、フェニ、らしき、フェニ、ラシ・・・・・・、フェ・・・・・・」
「あの、あの、僕が決めてもいですかね」
ダルシーの護衛にするつもりなのだし、彼女が命名するのもいいだろう。
ダルシーの命名で不死鳥らしきものの名前は「ニュクス」と決まった。
ギリシャ神話で夜を擬人化させた女神の名前だ。
「そうなんですか。なんかゲームで見たようなので、フェニックスと似てる感じなので付けてみたんですが」
ともかく、これで陸と空の護衛が揃った。いつでも危険地帯に踏み込む準備はできた。
「できたって言っても、別に具体的な目的地があるわけじゃないですよね。別に出かけたりしないですよね」
ダルシーが願望を述べるが、そんなことはない。
「目的地ならあるわよ」
「うげっ」
ダルシーが嘆くがお構いなしに目的地を告げる。
「最終的には世界樹へ」
行ければいいな、と思っている。