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1 王子に婚約破棄され、パーティーから追放・・・・・・されなかった


 ここは冒険者が集う店。事前に店主に頼み、人払いをしてもらっている。

 ここにいるのは三人だけ。この国の王子と、その腕にしなだれかかっている胸の空いたドレスの女。そして私、マイアベルだ。

 そして、店内に王子の宣言が高らかに響き渡る。

 「マイア、お前との婚約を破棄する」

 「クククククハハハハ! これで残るは、あと一つ」


 おっと、思わず口に出てしまった。王子に寄り添う女が、やばいヤツを見る目でこっちを見てくる。王子の方は人の言葉など聞いていない。一人で、何故婚約破棄をするのか語っていた。

 危ない、危ない、気を付けないと。

 生まれてからの念願がようやく叶いそうで、でテンションがおかしくなっているようだ。


 研究者だった私は事故で死に、この世界に転生した。

 この国でも大貴族と呼ばれるキャサザード家に生まれ直した私は、生まれる前からこの国の第一王子の婚約者と定められていた。

 宰相として辣腕を振るった祖父の仕業である。

 生まれてくる子が女でなければ第二子以降に、それでも生まれなければ親類筋から養子をとって嫁がせる。

 王家とキャサザード家との結びつきを強めるための婚約。

 さくっと長女として私が生まれたので、さっさと婚約者は定められた。


 せっかく異世界に生まれ変わったので、前世にはなかったアプローチで研究がしたい。というわけで、好きに研究が出来る環境を整えることから始めた。

 王妃となって権力を行使して研究をさせる。それは違う。

 どちらと言えば、自分一人でやる方が好みだ。だが、研究には金もコネも権力も持っているのが望ましい。それに、王妃ともなれば忙しく、研究の時間をとるのも難しいだろう。


 つまり、王妃にはならず、実家の金とコネと権力を利用しつくす。それが理想だ。


 そうそう理想通りにはいかないだろうけど、そのための努力を惜しむつもりはない。まずは頑張って、王子との婚約をなかったことにしよう。



 そんな私の考えは、初めて王子に会った時に消えた。



 これは私が頑張らなくても、王子が勝手に問題を起こして婚約は消えるな。



 王子は、基本フリーダムなバカであった。

 悪意なく人に無理難題を押し付け、自分のために働いて当然。

 むかついたからという理由で、使用人を殴り、むかついたからという理由で、貴族を殴り、むかついたからという理由で、父王を殴った。

 むしろ、よく今まで廃嫡されなかったものだ。


 英雄譚などの物語にでも触発されたのか、ある日突然、「冒険者をしたい」と言い出した。城から脱走し、当然のように私を呼びつけ、パーティーメンバーを集めろと命じた。

 そして、傍から見て、身分が高く裕福であることがバレバレであった王子は、金目当てで寄ってきた女にあっさり引っかかったのである。



 私は思った。

 すでに大体の準備は整っているので、これはいい機会なのでは?



 幸いにも、問題行動には事欠かない王子に、事なかれ主義が信条の国王陛下も、ついに見切りをつけ、第二王子に後継を託すことに決めた。

 私は陛下と話をつけ、関係閣僚にも根回しを済ませ、反対勢力が動くよりも迅速に事をなした。


 婚約は解消、王子は身分剥奪。私は王子の問題行動を助長した罪として、表向き国外留学、実質は国外追放となる。

 さらにその実は、魔導研究が盛んな隣国の研究施設に入り、一生この国には戻ってこないつもりだ。



 そうやって、準備を仕上げていた私に、一人の女が接触してきた。彼女は自分も転生者だと語った。


 まあ、私だけが転生しているとは限らない。他にいてもおかしくない。


 この世界には、転生者たちを集めた組織があり、彼女もそこに所属しているそうだ。私もその組織に勧誘してきた。


 まあ、転生者が複数いるなら、そんな集団があってもおかしくない。


 転生者は条件を満たせば、スキルという特殊能力を身に着けることができるらしい。彼女は実際に、自分の身に着けたスキルの数々を使って見せてくれた。


 実に便利な能力。これは研究の役に立ちそうだ。


 組織に入るなら、スキル覚醒の条件を教え、習得に協力すると言う。


 私は組織に入ったら何をしなければいけないのかを聞き出し、組織に入ることを承諾した。

 そして、スキル覚醒の条件を聞いた。



 「異世界から転生して、貴族令嬢となり、聖女と呼ばれ、王子に婚約破棄を言い渡され、王子の冒険者パーティーから追放される。以上が条件だ」



 これは、張り倒しても許されるやつかな?


 そう思ったが、冷静に考え直してみると、すでに私は、転生者であり、貴族令嬢であり、聖女とは呼ばれていないが、王子との婚約も解消間際であり、王子の冒険者パーティーの一員になっていた。


 割とできそうな環境が整っている。


 こんな訳の分からないにも程がある嘘をつくなど、逆になさそうだし、とりあえず試してみることにした。


 私の満たしていない「聖女」の部分は、組織でどうにかしてくれるらしい。残るは「王子に婚約破棄を言い渡され、王子の冒険者パーティーから追放される」ことだ。



 そして、私は状況を整え、王子に「婚約破棄」と「パーティー追放」を言ってもらうための場を設けた。「婚約破棄」は成功し、後は「パーティー追放」と言われるだけ。


 それで、肝心の王子はというと、さっきからずっと喋りっぱなしである。

 しかし、一向に「パーティー追放」とは言ってくれそうにない。


 とりあえず愛があって、愛があって、愛があるから婚約破棄するという話を繰り返している。

 まあ、王城から抜け出している王子に話が行っていないだけで、すでに、婚約は解消されているのですけどね。王子に婚約破棄の権限などないし・・・・・・、あれ?

 条件は「王子に婚約破棄を言い渡される」ことだ。「言い渡す」とは権限のある人間が言う時の言葉で、王子に権限がないなら「言い渡される」ことにならないのでは?

 今になって、そんな疑問が湧いてきたが、とりあえず、それは後で考えよう。

 今は王子に「パーティー追放」と言わせることだ。


 王子はひたすら愛の話をしている。いや、していたはずだが、しだいに愛の話ではなく、性欲の話になっている。

 隣の彼女も引き気味だ。

 ここはいろんな意味で介入の必要がある。


 「・・・・・・え~~~。・・・・・・婚約破棄、はしていいから・・・・・・、う~ん・・・・・・、パーティーを・・・・・・、パーティーが・・・・・・。


 残念ながら、殿下の思い通りにはいきませんわ! 何故なら、ワタクシはパーティーメンバーだから? ・・・・・・です。追放されていないパーティーメンバー、そう、追放されていないパーティーメンバーである以上、殿下の目論見はあえなく潰えるのですわ。ワタクシがパーティーから追放でもされない限りは」


 ・・・・・・駄目だこれは。

 自分で言っていてひどいと思った。とっさに上手い言い回しが思いつかなかったのだが、それにしてももう少し、なんとかならなかったのかと自己嫌悪を催す。


 だが、王子はこれに反応した。


 「そうか、この私がリーダーを務めるパーティーのことがあったな」


 まあ、務めていたかはあえて言及すまい。

 ちなみにパーティーには、王子と私の他に二人のメンバーがいた。

 二人には昨日事情を話し、パーティーに入る依頼(護衛)の料金を精算し、お別れ会を開いた。

 なので、現在、王子と私の二人だけのパーティーである。


 「愛に生きることなった私には冒険などしている暇はない。・・・・・・よって、パーティーは解散だ」


 ん~・・・・・・、「解散」、「解散」か。「追放」じゃなくて「解散」か。これ、どうなんだろう?


 その瞬間、見えない何かが私に触れた。


 見えもしないし、触れもしない。だが、確実の存在する何かが私に触れる。

 「何か」は私のどこに触れているのか、自分でも分からない。だが、確実に触れている。

 肉体に触れているのではない。精神? それとも魂か。

 「何か」は私に触れ、探っているように感じる。そして、何かが触れている間、私にの中に流れ込んでくるものがある。

 これがスキル覚醒なのだろうか。


 それはほんの一瞬の接触。

 前触れなく私に触れた何かは、やはり前触れなく去っていった。


 確認をする。

 よし、もうここに用はない。


 「それでは殿下、ご協力感謝しますわ」

 「? ああ、大義であった」

 よく分かっていないが反射的に返事をする王子と、本当に何が何だか分からなくなっている女を置いて、店を出た。



――――――――――――――――――――――――――


 私は転生者組織の女と待ち合わせをしている酒場に入った。


 店のあちこちで酔っぱらいが騒ぎ、赤ら顔の親父が酒の勢いを借りて暴れている。治安のよくない酒場だ。とてもではないが落ち着いて話せるような場所ではない。

 だが、あえてこんな場所を選んだのは理由がある。


 転生者組織の女はケイと名乗った。

 髪を短く刈り込み、中性的ないでたちをしている女性である。

 彼女も例の条件を満たして能力を覚醒させたのだから、貴族令嬢なのだろうか。


 彼女からは覚醒の条件だけでなく、身につくスキルの効果などの細かいアレコレも教えてくれた。


 待ち合わせの酒場。酒気の漂う店の中を歩く私。

 ウエイトレスや女性客を探しては、ちょっかいをかけている酔客の前を通る。酔客は何も見えていないかのように無反応で私を通す。

 喧嘩を始めた酔っぱらい。殴り倒され、私の歩む道筋に倒れこむ。起き上がった酔っぱらいは見るからに頭を血を昇らせている。そして、私がその酔っぱらいの前を、ゆっくり歩き去るのを目を血走らせながら、おとなしく待っている。まるで、そこに触れてはいけない何かがあるかのように。

 私が通り過ぎると、はじけたように走り出し、殴ってきた相手に飛び掛かっていた。


 「無事、スキルは手に入ったようだな」


 私は、転生者の組織の女、ケイが待っているテーブルに着席する。


 スキル 『認識の笠』


 私がさっき身に着けたスキルの一つで、他人の認識を操ることができる。

 自分のことを存在しない思わせることもできるし、近寄ってはいけないと認識させることもできる。隣で喋っていても話の内容をまったく認識できないようにもできる。


 これで酔客たちの認識を操り、この席まで歩いてきた。身に着けたスキルの効果を、試してみるために。


 この「認識の笠」以外にも無数のスキルが自分のものになった。

 だけども、何の見返りもなしとはいかない。条件として、転生者たちの組織に入り、その活動を手伝わなくてはならなくなる。


 この世界には異世界からの転生者がそれなりにおり、皆スキルを身に着けられる。その中には危険な能力や人格を持ったものもいる。そんな彼女らを管理するために、組織は作られた。

 ケイ先輩はそう語った。


 危険な能力や人格なら、そもそも脳力覚醒の条件を教えなければいい。自力で覚醒できるような条件とは思えないのだから。

 彼女らの言うことを額面通りには受け取れない。


 だが彼女らは、誰にも自分が転生者だと語ったことがない私を見つけ出した。

 転生者を見つけることのできる、スキルなり何らかの方法を持っているとみるべきだ。

 それに私が身に着けたようなスキルを持った者が、何十人とその組織に所属しているだろう。

 現時点では逃げるのも逆らうのも避けるべき。

 身に付いたスキルが、私の研究のために役に立つのも確かだ。

 それらのことを総合的に鑑みた結果、私は彼女ら転生者たちの組織、「アガペー」に入ることにした。


 「スキルは習得できたのですけど、条件を満たせていないものがありました。『追放』ではなく、『解散』と言われたり」

 挨拶もそこそこに、気になっていたことを聞く。

 「ああ、そのあたり、かなりいい加減でな。組織でも詳細な条件を絞り込んでいるんだが・・・・・・」

 言いながら、店員に注文しようとするケイ先輩。「認識の笠」を調整して、店員に彼女の声が認識できるようにする。注文を聞いた店員は、すぐに酒を持ってきて彼女の前に置く。

 再び「認識の笠」を調整し、周りからは私たちのことが見えない聞こえない近寄ってはいけない、そういう状態にする。

 「例えば、条件には『王子』に婚約破棄とパーティー追放を言い渡される、ってあるけどさ、どこまでが『王子』だと思う?」

 「さあ・・・・・・」

 そんなことを聞かれても何とも言えない。

 「組織(アガペー)が調査してみた所・・・・・・、王室から離れた元王子。兄弟が即位した元王子。滅んだ国の元王子。演劇で「王子」役を演じた役者。隣の家の女の子が『私の王子様』だと普段から言い回ってる庶民。これ全部、『王子』として認められて、スキルの覚醒ができたんだよ」

 「それはもう、条件の方が間違っていて、王子じゃなくても、誰でもいいということなのでは?」

 私は呆れて聞くが、どうもそうではないようだ。

 「いや、『王子』とまったく関係ないやつに言わせてもスキルは覚醒しなかった。それに、さっき言ったやつらも、スキルは使えるようになる。なるんだけど、スキルの数が減る。どうも、「本物の王子」から遠ざかるほど、使えるようになるスキルの数が減る。そういう法則になってるらしい。条件を完全に満たすと、大体百の共通スキルと、一つの固有スキルが使えるようになるんだが、さっきの、近所の子から王子と呼ばれてた少年に言わせてみても、一つしかスキルが使えるようにならなかった」

 「では、『追放』でなく『解散』であったり、『言い渡されて』はいない、私も・・・・・・」

 「いくつか減ってるかもな。前にスキルのリストを渡したろ。後で確認しときな」

 条件と言えばもう一つ、気になることがある。

 「ああ、『聖女』の件かい。そっちは組織で噂を撒いておいた。マイアベル・リノ・キャサザード様は聖女でございますってね」


 この世界では「聖女」はどの国にも必ず一人生まれてくる。そして、その力で結界を張り、国を守護する役割を担う。それが「聖女」だ。

 だが、国政に携わっているものならともかく、一般にはあまり正しい認識が浸透していない。

 ぼんやりと「なんか偉い人」ぐらいのいい加減な認識でしかないのが現状だ。


 「田舎の方に行けば回復魔法の一つでも使えて、性別が女なら、みんな『聖女』様扱いさ。噂の一つでもまいときゃ、誰かが一人ぐらい「聖女」と呼んでるもんよ。条件は『聖女』になることじゃなくて、『聖女と呼ばれる』ことだからな。そっちは上手くいってると思うぜ」

 「サクラを用意して呼ばせるとかは?」

 「それだと駄目だったな。『聖女』と信じてる奴から呼ばれないと駄目みたいだな」

 「分かりました。スキルのことは後で確認しておきます」


 それにしてもこんな条件、どうやって見つけたのだろうか。たまたま、異世界から転生して、貴族令嬢となり聖女と呼ばれ、王子に婚約破棄と、パーティー追放を言い渡された人がいたのだろうか。

 私自身、聖女以外の条件を大体満たしてしまっていたこともあるし、可能性がゼロとは言わないが。

 占いとか、預言とか、神託など、そういう能力で判明したのだろうか。

 この世界にはそれらの能力が存在しているが、それらを使えると言い出した者がいれば、まず詐欺師だと思われるのが一般的な反応である。


 それで、条件を教わるために、入ってしまった組織(アガペー)だが、

 「一度言ったが、念のためにもう一度確認しておく。組織は基本的には互助会みたいなもんで、特に指図されることはない。基本的に自分の好きにやってくれ。さっき言ったスキルの覚醒の条件の詳細について調べてる奴もいるが、そいつらは自分の興味でやってるだけで、強制はしてない。けど、そういう役に立ちそうな情報を入手したら共有してくれ」

 「・・・・・・それで、他の転生者が見つかった時、協力すればよろしいのですね」

 「そうそう。ま、俺がお前さんに教えたようにやってくれりゃいいよ」

 「私、近いうちにこの国から出るのですけど」

 「ああ、()()()()()()、協力してもらうよ」

 その辺りの情報も掴まれている。そして、別の国にも組織(アガペー)の影響は及んでいるようだ。

 「・・・・・・で、後もう一つ」

 「危険な思想や人格をもつ転生者。それに危険な能力に目覚めた転生者に対処する、そうおっしゃいましたわね」

 ()()、ね。何をさせられるのやら。


 額面通りに受け取る気はないが、額面通りの協力はしよう。額面通りでない部分は、協力はしない。なにしろ、そんな話は聞いていない、のだからね。


 「できるだけのこと協力しましょう。こうして協力してもらっているということは、私のことは危険な人物とはみなされなかったということですしね」


 「・・・・・・・・・・・・」


 何故、そこで詰まる。

 ケイ先輩は何か言いたげな顔をしている。そして、しばし躊躇したのち、口を開いた。


 「・・・・・・お前さんのやりたいことは聞いてる。組織の上の方が認めたんだから俺がどうこう言ってもしょうがねえんだが・・・・・・、『無限の力』について研究したい、だっけ」

 組織の上の方とやらは認めたが、彼女はいまいち納得していないようだ。鋭い視線で私を射抜き、圧をかける。

 「お前さんはさあ、その『無限の力』ってのを手にいれてどうする気なんだ?」

 「それは気が早いですね。まず、この世界に『無限の力』が本当に存在しているのかどうか、存在していたのなら、その力を具体的に手に入れる手段を見つけ、それが現実味を帯びてきてから考えることでしょう。今の段階から考えることではありませんわね」


 私の答えに、ケイ先輩は先ほどまでの圧の持っていき場に困っていたようだった。


 「ああ・・・・・・えっと、じゃあ『無限の力』の研究ってのは、その・・・・・・、いったい何をするつもりなんだ」

 「『無限の力』につながりそうなものを調査するのです。そもそも無限とは何か。限りないから無限なのではないのか。人に観測できる代物なら無限ではないのではないか。観測できる事象と化した無限とはどういうものか。例えば、永遠。永遠に存在し続けると言われる不死の超越種。永続的に効果を持つとされる魔法。それらはどんな原理で永遠に続くのか。永遠に続くということは無限に続くということではいのか。比較的身近な具体例をだせば、「不死者(アンデッド)」。すでに死んでいる彼らは本当に死なないのか。死なず永遠に―――すなわち無限に存在し続けられるのか。不死者(アンデッド)以外にも不死であったり長命種であったりする生き物たち。彼らの永遠に等しい生命力に『無限の力』が関わってかかわっていないのか。さらに、世界のどの場所にも存在し、人にはその全貌が把握できない、「精霊」なども無限の存在と言えるものなのではないか・・・・・・」

 「分かった、俺が悪かった。この話はここまでにしよう」

 私の話を遮るケイ先輩。もういいのだろうか。疑問は、遠慮せず、しっかり聞いたほうがいいと思うのだけど。


 心なしか、酒杯を傾けるスピードが速くなったようなケイ先輩。

 「しかし、なんでそんなに『無限の力』ってのを調べたいんだ。なんか理由でもあんのか」

 「別にこだわっているつもりはありませんが・・・・・・。趣味、興味、浪漫、なんとでも言葉はつけられますが・・・・・・。研究すること自体が楽しくてやっているところもあまりますわね」

 「楽しんでるってことなら、まあわからなくもねえかな。俺も一度死んで、思いがけないもう一度の生を生きることになったんだ。もらった能力も惜しみなく使って、せいぜい楽しんで生きてやるって決めてんだ。そうだな、まあ、それを邪魔しない限り、お前さんが何をしようと構わねえよ」

 そう言って、さらに酒杯を煽る。


 私は今後の準備もあるので席を立ち、酒場を出る。

 帰る先は実家ではない。もう実家に帰るつもりはない。

 すでに別の宿を取り、協力者の侍女の手を借りて、必要なものはそこに移している。そこから留学先に向かうための最後の準備をするのだ。

 宿に向かう足を速めながら私は思う。


 ケイ先輩に言ったことは半分嘘である。


 研究自体が楽しくてやっているのは本当だが、それ以外にも理由はある。

 いや、理由はない。

 そのどちらもどちらも正解と言える。


 私の中には『無限』を求める、理由なき衝動が存在している。

 時には自分でも制御できないほどの衝動。その衝動を解消するため『無限の力』を追い求める。それが私が『無限の力』を追う本当の理由だ。


 『無限の力』がないと分かれば、諦めもつき、衝動もなくなるかもしれない。『無限の力』があるのだとすれば、満足するまでそれを追い求めよう。


 なぜこんな衝動が私の中にあるのかは分からない。きっと、私の脳には『無限』の二文字が焼き付いているのだろう。


 いや、この衝動は前世からあった。

 転生した時に脳は一度失われている。

 それでもこの衝動はなくならない。だから、


 『無限』に焼かれているのは私の「魂」なのだろう。







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