第七十話 〜本当の家族〜
おはようございます!!
山本五郎左衛門。ついに現れた「厄」の総大将。
彼らがもたらす災厄を未来たちは阻止できるのでしょうか!?
恵慈さんの状態も心配です。
今回もお楽しみください!!
さっきまで山本五郎左衛門がこの場に存在し、宣言をしていった。
たった数分の出来事だったが、まるで何時間も経ったかのように、やつが消えた後にどっと疲れがのしかかってきた。
それでも、とりあえずの危機が去った今、やるべきことがある。
―恵慈さんの安否確認―
正直、勇気が出ない。今すぐにでも恵慈さんのところへ向かいたい。だけど、虚だったあの顔を思い出すと現実を受け止めたくない自分もいる。私は俯いて立ち尽くしてしまっている……。
そんな葛藤をしている時に、いち早く恵慈さんのところに駆けつけていた長老が叫んだ。
「未来ちゃん!!こっちに来い!!」
長老の語気は強かった。決して怒っているわけではない。どちらかというと慌ててるようだった。
だが、それで十分だった。意気消沈していた私に長老の強い語気の言葉はいい気つけとなり、ビクッと反応しながらも、すぐに足を踏み出すことができた。
私は駆け足で長老のもとへ……いや、恵慈さんのもとへ向かった。
「おい!!恵慈!?未来ちゃんだぞ!」
「……あ、未来さん?……ごめんね、こんなで。ちょっともう目が見えなくて……。」
恵慈さんは虚な目で空を見ていた。その目には「百目」はおらず、普通の人の瞳をしていた。まだ生きていた!!
「……時間がない…から、手短に話す…ね。」
「恵慈さん!!?そんなこと言わないで!?早く誰か回復を!?」
生きているって事は回復すれば大丈夫なんじゃないのか!?
「…いや、もう時間が…ない…、話だけ…き、いて?」
「……未来ちゃん。聞いてやれ。」
そんな悲しそうな顔で!最後だよみたいな顔で!そんなこと、言わないでよ……。
でも、それが恵慈さんの願いなら。まっすぐ聞いて受け止めよう……。
「わかった……。」
「ふふ……。ありが…とう。
もう、ダメそう、だけど、最後の最後で…未来さんに会えて、よかった。
僕の妹…か。もっと可愛がって…あげたかったな……。
お父さんと……お母さんにも、ごめん……と、ありがとう……って伝えてくれる……かな?
ふふ、やっと……、お父さんと、お母さんって…言えた……。
みんな……、大好きだよ…………。ありが、と…………。」
恵慈さんは満足したのか、少し微笑んで息をひき取った。
「ちょっ……!ちょっと!恵慈さん!?」
もうどうやっても動かない恵慈さん。
――ごめん。僕にはここまでしかできなかった。――
ふと、頭の中に声が響いた。恵慈さんの瞳に棲みついていた契約妖怪の「百目」の声だと直感でわかった。私は涙をぼろぼろ流しながらその声に応えた。
「……。ゔゔん。ありがどう。恵慈さんは君のおかげで最後の言葉を伝えられたんだね……。すごい絆で結ばれた相手だと、そんな奇跡も起こせるんだね……。」
悲しい気持ちでいっぱいだけど、「百目」の一言で恵慈さんの優しさや、妖怪に対する想い、百目との絆が理解できた。本当ならすでに事切れていたはずの恵慈さんをここまで延命させた「百目」の想いが私の心を少し照らしてくれたように感じた。
――ありがとう。――
一言を残して、フッとその気配は消えた。
きっと恵慈さんと一緒に天国に行ったのかな。
そんなことを考えながら、満足そうな恵慈さんの顔を見る。まだまだ、悲しいし、とめどない涙が溢れてくる。それでも、決して踏みとどまれない。
私は「厄」を許さない。
空亡もきっと同じ気持ちだ。
あと半年……。長いのか短いのか……。それでも、私はできるだけ強くなる。絶対に……!!!
……………………
………………
…………
……
――常世――
……
…………
………………
……………………
ここは、常世。幽霊や妖怪達の住まう場所。住まうというと語弊があるかもしれない。彷徨うと言った方が合っているかもしれない。
「はぁ……。まさかぁ、ほんとだったとはねぇ?」
山本が話をきりだす。
「だらか、言ったでありんす。空亡はもうダメだと。」
先ほど現世で百鬼夜行を行うと宣言した山本五郎左衛門が落胆していた。その言葉に1人の女性が返答する。その女性は玉藻前話はできるが、体は酷く傷ついているようで、床に伏せているようだ。
「それ以上にわっちは、あの小娘が気に食わないでありんす。今度会った時はめためたに潰したいでありんすぇ!」
玉藻前は憤慨している。
「まぁまぁ、半年後……、百鬼夜行で借りを返せばいいではありませんかぁ。……ですが、
次の失態は許しませんよ?」
その言葉に玉藻前はビクッとした。
「……ぅ、わ、わかっているでありんす……!?……それにしても、あんさんが直接現世に行くなんてね。よかったのでありんすか?」
玉藻前は恐れから話題を変えた。
「…。まぁ、1番厄介な奴は始末できたのでよしとしましょう。確かにあのお嬢さんは、後々厄介になりそうですねぇ。ですが、今の私にはあれが精一杯でしたねぇ。まぁ、誰にも気付かれてはいないでしょう。私が今はほとんど力が使えないなんて。」
山本は大戦の傷が完治したわけではなく、本来の力のほとんどは使えないらしい。
「役者としても超一流でありんすね。」
玉藻前は山本の度胸とその演技力に感服した。
「ふふ、それはありがとうございます。一点悔やまれるのは「百目」の主人の亡骸を完全に葬るほどの力はなかったことですねぇ。まあ、蘇生はできないですし、問題はないでしょう。」
とりあえず、今できる最善を尽くしたそうだ。
「そんなに力がないのに、強気でブラフをはれるなんて図太いでありんすねぇ。」
「それくらいでないと「厄」の総大将なんてやっていられませんよ。……、それで?あと半年でどうにかなりますかぁ?」
山本は玉藻前の修復具合を気にかけた。
「そうでありんすねぇ……。ギリギリと言ったところでありんしょうか?」
「ふむ、まあ、いいでしょう。私もギリギリと言った感じですし。」
半年という期間が長いか長くないかはそれぞれの感覚であるが、少なくともそれが完治の目安の期間のようだ。
「『百鬼夜行』の時はあの小娘をわっちに当てがってくれるんでありんすね?」
玉藻前は空亡の腰巾着の小娘を当てがうように確認をする。
「構いませんよ?私はあの藤原とかいうボス猿を相手しなくてはいけないでしょうし。」
山本も陰陽師の総大将もとい大臣を相手取ることを想定している。
「はぁー、楽しみでありんす!待っているでありんす、小娘ぇ!!」
「威勢がいいですねぇ。とりあえず、私たちは回復に専念しましょう。」
常世では今世の『百鬼夜行』に向けて各々準備を始めている。
『百鬼夜行』まであと半年……。
…………
……
ここまで読んでいただきありがとうございます!!
恵慈さんは無念にも亡くなってしまいました。
未来と未来の両親を最後の最後で心の底から本当の家族になれたようです。
最後に精一杯の言葉を綴れた恵慈さんは幸せだったでしょう。
それでも、時間は過ぎていきます。
次回は10/14朝アップです。




