第百八話 〜賀茂忠志の過去:本心〜
おはようございます!!
今回で賀茂師匠の過去編は終了です!
ですが、もうちょっと賀茂師匠の話が続きます。
力を渇望する理由がわかります。
今回もお楽しみください!!
「ん?もう1匹隠れていたか?」
ソイツの言葉に恐怖と怒りが混ざった。勝てないという事はわかる。それでも、敵意を持たずにはいられなかった。
「ほう?俺様に敵意を向けるか……?面白い小僧だ。」
そういって俺の方に意識を向ける。俺は倒れる姉を抱きかかえ、姉の肩越しにソイツを睨む。夕暮れの逆光で姿はよくわからないが、敵である事は確かだ。
「今日はいい酒も飲めた。大勢殺すこともできた。気分がいい。小僧……、お前は生かしておいてやろう。この地獄を乗り越えて見せろ。……だが、こいつはダメだ。」
そういって、姉の胸に刀をひと刺し。俺にまで届かないように丁寧に姉を刺した。それと同時にかっかっかと笑い声を残して姿を消した。
「……おい!?待てぇぇ!!待てよぉぉ!!!」
俺は何もできなかった。ソイツの前にいるだけで声が出なかった。怖かったのだ。せめてもの反抗として敵意を出したが、それも子供を相手取るようにあしらわれた。
「……ぼっちゃ……ん?」
すると、抱きかかえていた姉から弱々しい声が漏れた。
「……!?!?鈴姉!!?」
俺はすぐさま、姉を横たわらせ、回復術式を行使する。だが、俺の回復術式は拙い。もっと修行をしていれば……!?
後悔だけが込み上げてくる。
「……いいですよ……、ぼっちゃん。流石に……、無理……です。」
姉は自分の命の灯火の終わりを感じていた。
「ごめん鈴姉!俺が……俺がもっと強ければ……!」
俺は自分の弱さを悔いた。
「いいえ。ぼっちゃんは……十分強いです。……、でも、これに懲りたら……、もう、サボったりしないことですね……?」
姉はこんな時まで叱責する。
「ばっ……か!こんな時に言うことかよ!?」
姉は少し微笑みながら話す。
「こんな……時じゃないと……聞かないでしょう……?」
そうかもしれない。だが、もう、全てが遅い。鈴姉は次第に目がうつろに、体は冷たくなっていく。
「おい!鈴姉!!」
姉は最後の力を振り絞って、
「た……だし。大……好き。」
俺に対する愛情を精一杯伝えてくれた。最後に弟として、相応に呼んでくれた。俺はそれが嬉しくて、悲しくて、辛くて、悔しくて全ての感情を織り交ぜて号泣した。
次第に怒りが込み上げてきた。姉を殺したアイツに対する怒りと、弱すぎる自分に対する怒り。
「見ていろ、クソ野郎が……。いつか絶対にその存在を消滅させてやる……!!」
俺はアイツに対する復讐心と自分に対する自責の念から強くなることを渇望するようになった。
強くなればこういった悲劇は起こらない。強くならなければ全てが淘汰される。
故に、強者との試合で経験を積み全ての経験を自分のものにする。それに強者との戦いで自分を痛めつけることでしか自分に罰を与えられない。
姉は俺のことを強いと言ったが、それは姉の中の世界での話だ。世界はもっと広い。俺なんかちっぽけな弱者でしかない……。
もっと追い込め!もっと渇望しろ!もっともっと強くならなくちゃいけない!!
そうして俺は強さを求めるようになった……。
………………
…………
……
……
…………
………………
「なるほどな。」
鬼神は何から納得したように、俺の頭から手を退けた。まさか……!?
「おい!?鬼神!覗いたのか!?」
鬼神の問いは俺から話を聞くためじゃなく、脳裏に残った記憶を読み取るためのものだったことに気がついた。頭に手を置かれた時に気がつくべきだった……。
「お前は素直に答えねぇだろ?」
まあ、それはそうだ。
「だから、覗かせてもらった。悪いとは思ってない。」
思ってねぇのかよ!?と言うか、こんな術を使えるなんて、ただの脳筋じゃねぇんだな。
「だが、お前の事は理解できた。何がなんで強くなりたいんだな。……自分以外の誰かの為に……。」
そうだよ。俺は誰かが傷つくのは嫌いなんだ。誰かが傷つくくらいだったら俺が肩代わりしてやる。
「もう、決めたからな。お前を強くしてやる。だが、今のままじゃダメだな。お前には言っておくことがある。」
今のままじゃダメ?
「どう言うことだよ……。」
鬼神は静かに話し始めた。
「お前は、姉に十分強いよと言われてどう思った?それでも弱いから強くなろうと思ったんじゃねぇか?」
そうだ、あの時、姉は俺のことを強いと言った。だが、それは最後の最後で俺を慰める為に言った言葉だ。本心ではもっと強ければと思っていたはずだ。
「ああ、思ったよ。だってそうだろ?強ければ助けられた。」
鬼神は続ける。
「もちろん強いにこしたことはないが、姉の気持ちを理解できないようじゃまだまだあまちゃんだ。これ以上の強さを求めるのはおこがましいってもんだ。」
おこがましいだと?何様だ。
「どういうことだよ?」
俺は少し苛立ってきた。
「もう、どっぷり浸かっちまってるなぁ。無理もねぇか、20年近く経つからな。人間にとって20年はでかい……か。」
鬼神はボソボソ独り言を呟いている。
「なんだっていうんだよ?あの言葉は本心だったっていうのかよ!?…じゃあ!!なんで俺は鈴姉を助けられなかったんだ!?弱いからだろうが!!俺が!!……よわいから……、目の前で……。」
俺はあの場面を思い出して、涙が溢れてきた。20年経ってもあの時の感情は少しも薄れていない。
「あそこで本心を言わねぇやつはいねぇ!!!」
鬼神は項垂れる俺の肩を大きく揺らして叫んだ。
ここまで読んでいただきありがとうございます!!
賀茂師匠は誰かのために強くなりたいという気持ちで強さを渇望していました。
ですが、少しズレた捉え方をしていたみたいです。
鬼神の指導で軌道修正ができるのでしょうか!?
次回は11/22朝アップします!!




