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王の命令と私の願い


 「う・・・。」


 白い光をまぶたの裏に感じて、私は、うっすらと目をあけた。・・・明るい。


「う・・・。痛い・・・。」

 身体のあちこちが痛くて、私は、思わず、うめき声をあげた。

そして、目尻に流れる、涙。


「初めて、だったのに・・・。」


 昨日、覆いかぶさってきた男は、全くやさしくなかった。私を荒々しく扱った。何度も、何度も。私が気絶し、意識を取り戻しても、まだ、私を離さず、私が気絶したことさえ、気付いていないかのように、一晩、離してもらえなかった。


「お目覚めでございますか?」

 遠慮がちな、女性の声がして、びくっと肩を揺らす。

「お目覚めのようですね。こちらへ。」

 無理やり、起こされ、何も着せられないまま、2人の女性が両側から、私の腕を取り、昨日のお風呂に引きずるように、連れていく。その途中の部屋にある大きな鏡を見て、私は、さっと赤面した。

身体中に残る、赤い痕。

思わず、彼女たちの手を振り払い、両手で胸やお腹を覆い、うつむくと、腿の内側に、赤い筋が、残っていた。

 お風呂場まで強引に連れていかれれば、湯の中に、すでに女性が3人入っていて、引きずり込み、全身、くまなく、洗ってくれる。

 身体中痛くて、抵抗もできないまま、されるがままになっていた。


 浴槽から出れば、昨日と同じように、大きな鏡と鏡台がある部屋で、水分がふき取られ、全身に、何やら、香油を塗られる。

「・・・傷を癒し、肌を保湿する効果を持つ香油です。」

 ぼそりと、一人が、つぶやく。


 香油を塗られ、その上から、エンパイアスタイルのドレスを着せられた。細かな宝石が縫い付けられ、煌びやかな衣装だけれど、気は晴れない。


「・・・陛下がお待ちです。食事を一緒に。と。」

「陛下?あの、ここは、どこですか?」

 前を歩く女性は、会話を嫌がっているように見えたけれど、一瞬、足を止め、小さな声で、ささやくように耳打ちする。

「くれぐれも、陛下には、逆らいませんよう。・・・命が惜しいのならば。」

 彼女は、そのまま、何もなかったかのように、歩を進め、ある部屋の前に来て、声を張り上げる。

「お連れしました。」


 中から、扉が開かれ、たくさんの食べ物が載ったテーブルが見え、一番奥に、昨日の男性が座っているのが、見えた。鋭い目つきで、私を睨みつけるように凝視している。

ぞくっと、背筋が震える。

・・・いやだ。彼のそばに、行きたくない。


「陛下の隣へ。」

 扉の横にいる、女性が、声をかけてくる。

行きたくない。けれど、頭の中には、言うとおりにした方が良い、という警告が大音響で、がなりたてており、震える足で、彼の側に近づけば、いきなり、彼の手が私を捕らえ、彼の横に、どさっと、座らされた。

食堂の椅子のはずだけれど、3人掛けのソファみたいな椅子。


 そして、彼が、左手を振る。

とたんに、室内にいた、全員が、一斉に扉から外に出て行き、扉が静かに閉められた。



「そなたは異世界人だな。どこから、来た。」

 低い声が隣から聞こえる。

「・・・日本です。・・・あの・・・ここは、どこでしょうか・・・。」

 質問しても、怒られないだろうか。怖くて、声が、震える。

「ここは、サンドロス王国。余は、この国の王で、アレクサンドロス。そなたの名は?」

「愛羅・・・、藤堂愛羅です。」

「アイリ・・・。では、今後、アデラローゼ、と名乗るように。」

「はい?」

 じろりと、アレクサンドロスが、冷ややかな目を向け、いきなり、私の目の前のテーブルに、ドン!とナイフを突き立てる。

「ひっ?」

「余は、王だ。余の命令に疑問を挟むのは、許さぬ。・・・それとも、ここで死にたいか?」

 私は、真っ青になって、ぶんぶん、首を横に振る。・・・痛いのは、嫌・・・。


「そなたは、この国のことを何も知らぬ。おいおい、女官が、教えるだろう。だが、まず、絶対に守るべき、余の命令が3つある。」

 

「一つ目は、余の後宮に入れ。・・・異世界人は、王の物だ。反論は許さぬ。」

 ・・・異世界人は王のもの?・・・どういうことだろう?

「二つ目。余以外の男を近づけることも近づくことも、許さぬ。笑顔も、誘惑も、触れさせることも、全てだ。・・・もしも、姦通を余が疑った場合・・・。たとえ、そなたが自ら望んだわけではなくとも、そなたをなぶり殺す。・・・一息では殺さずに、苦しめながら。」

 ひゅうっと、喉が鳴った。

「三つ目。余を拒むことは、許さぬ。余が求めたら、その身を捧げよ。もし、抵抗したら・・・。」

 アレクサンドロスが、テーブルに突き立てたナイフを、すっと引き抜き、テーブルの上の果物籠に向けて、目に見えない速さで横に振るう。と、山盛になっていた果物が、真ん中の位置で、平らに切られ、その上の部分は、テーブルに落下した。ひっ・・・。

「余は、そなたの身が従順になるまで、その身に教え込むだろう。」

 やばい、やばい、やっぱり、この男は、ヤバい奴だった。

でも、私は、痛いのは、嫌。死んでもいいけど、痛いのだけは、嫌・・・。

真っ青な顔のまま、こっくりと頷く。


 いきなり、アレクサンドロスが、私を膝の上にぐいっと引いて、乗せた。

強引に口づけられ、舌が、歯の間を割り込んでくる。歯をくいしばるのは、諦めた。たぶん、抵抗したら、・・・命令に逆らったとして、痛い目に合うだろう。それが、十分、彼から、伝わってきたから。


 息ができなくて、苦しくなり、咳きこむ直前で、彼の顔が離れる。片手で、私の頭を抑え、私の目を凝視したまま、冷たい声が、響く。


「余は、3つ、そなたに命令をした。・・・3つ、願いを言え。余が叶えられることなら、叶えてやる。・・・今すぐ言え。長時間の愚考は無駄だ。」


 金色の目が、私の目を射抜く。その目は、願いをかなえると言いながら、冷酷に光り、私への気遣いや好意などが、全く見られない。

アレクサンドロスは、私が気に入らなくなったら・・・、飽きたら・・・たぶん、何の感情もなく、殺す。

・・・元の世界に戻れないなら、この国では、毎日、死を恐れて暮らす、地獄のような生活しかできないかもしれない。・・・それくらいなら、死んだ方がマシかもしれない。でも、死ぬとき、痛いのは、嫌だ・・・。


「・・・陛下が・・・後宮から出るように命じられた時、あるいは、陛下の怒りを買い、死を賜る時は、毒杯を仰がせてくださいませんか・・・。なるべく、苦しまず、眠ったまま逝ける毒で・・・。」

「・・・理由は?」

「死・・・死ぬことは恐れませんが・・・痛いのが嫌なのです・・・。」

「・・・普通は、死ぬことを恐れるが?・・・フン。良かろう。そなたを後宮から追放するか、死を命じるときは、毒杯を渡そう。だが、そなたが罪を犯した場合はその限りではない。良いな?・・・これが一つ目だな。二つ目は?」

「私を、閉じ込めてください。」

「何?・・・どういうことだ?」

「陛下の、2つ目のご命令です。陛下以外の男性を近づけるな、とおっしゃいました。・・・私は、この世界を知りません。そして、陛下以外、守ってくださる方がいらっしゃいません。・・・私に悪意を持つ者がいた場合、・・・私は、抵抗する間もなく、知らない男性に汚される・・・可能性があります。あるいは、そのような噂がたつかもしれません。・・・陛下に、姦通を疑われるのは、嫌です。だから、陛下しか入れない部屋に閉じ込めてください。」

「ほう・・・。」

 アレクサンドロスの金色の目が、細められた。

「・・・後宮は広い。小さな街のような場所だ。余が居ない時は、自由に動ける。その自由を、要らぬと申すか?」

「・・・陛下への、操を立てる方が、私には、大事です。」

 ・・・なぶり殺しは、絶対に、嫌だ。・・・後宮は、本でしか知らないけれど、愛憎うずまく、どろどろの場所のはず。王の寵愛を受けるため、相手を蹴落とすことに長けている女性が多いだろう。後見が全くいない私の場合、攫って、男に襲わせる妃がいるかもしれない。それくらいなら。自由なんか、いらない。

「よかろう。2つ目の望みをかなえる。・・・では、最後の3つ目は?」

「学ばせてください。・・・書物があるなら、読ませてくださるだけでもかまいません。」

「そなたは、本が好きか?」

「はい。」

「ふむ・・・。良かろう。教師を差し向け、書物も部屋に運ばせるようにする。」

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