モテルスキル持ち
もはや似た風景にあるインターフォンの音を聞き、ルーの音からすばやく受話器をとり上げる。
「はい、フロントです。」
本日はカフェの店内はさほど混雑していないようだ。
でも反比例するかのようにインターフォンが鳴るため、フロントの係は、そのなかをいったりきたりしている。
注文の内容かと思い、メニューの内容をきこうとするも
「分からないことがあるから、質問したいです。」
という席からの呼び出しの内容であった。
もう一人のスタッフに
「フロントは任せるね。いってきます。」
フロアに出て、呼ばれた席に向かう。
今回呼ばれた席のお客さまは、今日の呼び出しはこれで2度目だが、前回来店して対応に回ったのは8度ほどあった。
実に合計で3時間かかったこともある。
今日の内容はどんなことだろう。
呼ばれた席について話しをきくに、パソコンの操作がよく分からないし、そもそも始めのソフトウェアの使い方が不明らしい。
これはまた手強い内容である。
「はい。これは表計算なので住所を作るなら、文書のソフトを呼び出しましょう。これをクリックして。手持ちの文書を打ってください。」
「えと、打ち方はキーボードなので。」
「キーボードが分からないのよ、、、。」
「まずはそこのキーボードからの打ち込みかたから、練習しながら、ゆっくりとで。」
説明に30分かかった。
「失礼しました。」
声をかけて離れたけれど、きっとまた呼ばれる気がするなっと、トーヤは思う。
次に料理の提供をして、空いている席から清掃の作業をする。
テーブルの上を片付けて、パソコンを再起動する。
つみ上げられた本の片づけをして、本棚に戻していく。
「60番の席、清掃終わりました。」
一つ席の清掃が終わったと、イヤホン通じて、フロントにお知らせをする。
食器を片付けしに、洗い場に戻る。
手が少し空きができるときは、本棚の整理をするのもひとつある作業だ。
本棚のそばにいるフロアスタッフに声をかけてみると、
「もうそろそろ、さっきの45番の席からインターフォンくるんじゃない?」
と言われてしまった。
「トーヤくんって人気者だよね!」
と、冗談を言われて、
「それは働き者です。」
「ふふっ、そうだね。」
と笑顔で返されていたところ
「45番です。トーヤくん、お願いしますね。」
先ほど離れた45番席から、再びの要望があったらしい。
さっそく呼ばれた席のところまで移動する。
席について話しをきくところ。
「文書ソフトまではたどりついたよ。」
「けど、図形などの使い方が分からないのよ。」
とか。
「図形はタブで呼び出すのですが、文章を先に書いてもらって。」
すると
「書きこむのにはどれを使うんだっけ。」
「書くのはキーボードから入力するのですが。」
この女性はやはりパソコンに不慣れで手強い。
はい、という返事をきいてから。
「失礼しました。」
声をかけて離れた。
今回は40分くらいかな。
また呼ばれそうだ、と予感はトーヤにはある。
フロントに次の清掃の場所がないかと、あと話しもしたくなり、声をかけに立ちよった。
その手前ほど、本棚にいて、対応の前に冗談を返していた、女性スタッフが声をかけてくれる。
「おつかれー。」
「あのお客様良い人ではあるけど、大変だね、人気者。」
「人気者というのでしたら、交代して下さいよ。」
「えー、パソコン分からないし、大変じゃん。」
「まぁ、教えたり、作業は楽しいのですけどね。」
「そういえば、この前料理の残りがひどかった人もいましたよー。」
「本当ひどいねー。」
少しだけ空き時間があると、こういった話しもできたりはする。
この日は、夕方以降、混み合ってしまい、再三呼び出されるリピートのお客様についての対応と本棚の整理をおこなった。
休憩に入り、戻ると席もうまり始め、また再三に繰り出されるインターフォンからの呼び出しを経てしまい、帰り時間にはぐったりであった。
帰り時間になり、フロントに
「おつかれさまでしたー。」
こういって通りすぎ、休憩スペースである2階につくと、ヒカルさんが
「やっほー、トーヤくん。」
と声をかけてくれた。
再三にわたり呼び出されて、店内も混んでいて、と泣き言をいうと、少しなぐさめてくれた。
その後で、
「今度友達とご飯でもいかない?」
と誘いがあった。
その辺の会話をかれいにスルーし
「まかないの肉じゃが、がけっこうおいしかったですね。」
「ね、おいしかった。」
「ここのご飯っておいしいですね。」
と言い合って、約束はしないままに、
「帰りなので、これで。」
「もう帰り?」
「そう、帰ります。じゃ。」
と手をふって別れた。
ヒカルさんは、積極的で明るくてすごい。
きっとアルバイト先でなくても、モテルスキルは持ち合わせているだろう。
でも、そういえば、以前にはヒカルさんのともだちも紹介されたような気がする、と、そのようなことを考えて、自転車にのって走り始めた。