友達になりましょう
インターフォンが立て続けに鳴った。
いまはフロント内に一人しかいないから、インターフォンをとるしかない。
先にオーダーがあったメニューの注文番号を手元にメモしておきながら、ルーの音が鳴るそれをとる。
「はい、フロントです。」
「30番の席でメニューはBセットですね。かしこまりました。お待ちくださいませ。」
カチャ。
受話器をおいた。
まずは前に席から受け取った注文を目の前にあるパソコン兼レジ画面から、注文画面を呼び出しして、オーダー入力して送信っと。
次にいま受け取ったインターフォン注文をオーダーして送信。
ふーっと、一休みする時間なく、次の席を空くように掃除にいかなくては。
戻ってきたスタッフに
「フロント交代でお願いします。フロアいきます。」
フロントを任せて、わたしは歩いて席まで移動する。
ごゆっくりどうぞ、、と日常になっているセリフを出会うお客さまに言いつつ、インターネットカフェの番号がついた席、についた。
テーブルを掃除する手順は、ほぼ決めてある。
テーブルを除菌剤で丁寧にふく。
パソコンを再起動して、キーボード下や周りもキレイにする。
メニューが置いてある棚も掃除しておく。
メニュー表を戻しておき、調味料をそろえておく。
椅子も元に戻す。
腰につけた持ち歩いている無線機につながっているイヤホンで清掃終了のアナウンスをする。
掃除が終わったことを確認したら、席から離れて、食器を洗い場まで戻しに行く。
洗い場は他の営業中フロアと共通であるために、とてもにぎやかだ。
あまりに共通である洗い場が混雑してくると、手伝いのヘルプに回ることもある。
以前ヘルプに入ったときには、1時間かかったな、と思い出しながら、食器を洗い場に片付け、また持ち場のカフェスペースに歩いて戻ることになる。
途中フロントから、無線連絡を通じて、次の清掃の席番号を受けた。
「かしこまりました。36番ですね。」
返事をした。
また次の清掃を終えて、その終了のアナウンスをフロントにつげると、食器の片づけを持っていくときに、お客さまから声をかけられた。
「映画にもなった本で、何とかを食べたいっていうタイトルので。」
「あっ、その本ならタイトルが、君のすべてを食べたい、ですね。」
「映画よかったですよね!こちらへどうぞぉ。」
探しているタイトルの本棚の前まで案内をする。
少し立ち話し。
「話しはじめから引き込まれる話しで、二人の会話テンポよくて」
「そう、それに、はじめの印象と半分からでは、印象違います。」
「なんだか、途中から、読み返したくなりません?」
「なりますね。」
と話しが盛り上がる。
また次の清掃の席番号がイヤホンを通じて流れてくる。
食器の片付け途中であることを思い出した。
「ごゆっくりどうぞ。」
その場から離れて、洗い場に移動して食器を片付ける。
次の清掃の席が決まっているため、手早く食器片付けをすませておき、移動して席につく。
そして、またテーブルを掃除していく、という手順になる。
さらに三つほどのテーブルを掃除と片付けをし、フロントの手伝いをし、お客様の席に二つほど、料理を運び終え、インターフォンから呼び出された席の対応など、などをすませていると、
「トーヤくん丁度休憩時間だよっ」
「はい、わかりました。」
と、イヤホン通してお知らせが流れてきたため、返事をした。
休憩するこのアルバイト先の場所は2階にあるため、
「トーヤ、休憩になります!」
とフロントにあいさつを律儀にしながら、2階の休憩スペースに歩いていった。
手洗いをし、のどを気づかって、とりあえずのうがいをしてから、ロッカーの携帯ラジオを取りにいく。
休憩スペースと食堂をかねた場所で、本日のまかないメニューを確認。
「カレーおいしそうですね。」
「たくさん食べてね。」
と小さな食堂の係りの方に話しかけながら、自身の分を取り分けた。
やっと一息の休憩だ。
食事をとり、その片づけをし終えると、携帯ラジオからいつものチャンネルの音声を流してみる。
そのまま、椅子の上でだらんとして、机の上に腕をのせたような状態で、腕に頭でものせながら、流れてくるイヤホンからの音楽を聴いていた。
いつのまにか、周囲の音は静かになっていて、うたた寝していたようで、少し目をさましかけた時のこと。
ガチャン!ゴトッ、チャリーンと、なかなかの音が響いてきたため、びくっとして起き上がってしまった。
どうやら自販機の音らしかったのだが、慌てて周りを見回してみたら、丁度入ってきていた、フロアが違う別の所属の女性スタッフが見ていたらしく、大爆笑していた。
恥ずかしくて言葉がでてこない。
ようやく笑い終わってからそのスタッフは話しかけてきた。
「トーヤくん、今寝てたでしょー。すごい、ビクッてなってたよ。」
「もう笑えちゃって。」
またくすくす笑い出したのは、所属は違うけど、休憩スペースが重なり一緒に休憩することがある、ヒカルさんだ。
「ヒカルさんはこれから休憩ですか?」
笑い収まるのを待って、声をかける。
トーヤは、恥ずかしさをなんとか引っ込めた。
「そう、これからだよっ。お疲れさまだね。」
「おぉ、カレーじゃん。」
「ていうかまだヒカルさんなの?」
次つぎとくる話しに
「えと、何の話しですか?とりあえずカレーおいしかったです。」
一応先ほどのうたた寝は忘れてくれたらしい。ほっとした。
けれど、
「寝顔見られたよー、よかった。」
と声がかかり、まだ、忘れてはくれていないようだ。
「もしかして、この前のともだちからの、の件ですか?」
「そうそれ!覚えてるじゃんね。」
「ヒカルさんともう一人の子がいきなり、ともだちでいいですか?ってきいてきたら、まぁインパクトはありますよ。」
「インパクトっていうか、普通の挨拶だとは思うけどなぁ。」
「わたしたち、友達になりましょう!友達でもいいですか?」
「キラキラッ。」
「ほら、普通のことだよね。でしょー??」
と自販機から飲み物を買っていた、お兄さんスタッフに相槌を求めるヒカルさん。
そろそろ逃げようかと思い立ち、席をはずそうと、携帯ラジオに手を伸ばすと、腕をつかまれた。
「こらぁ、どこ逃げるんだトーヤ!」
「あの、休憩時間過ぎるんで、これで失礼します!」
「あと、ヒカルさんとはともだちでいきましょう!じゃ。」
「お、これで友達からだね。よろしくトーヤくん!」
サッとラジオを手に取り、休憩スペースから出る。
ドアノブをつかんで、
「失礼しましたぁ。」
といって廊下にでた。
自分のロッカーにラジオをしまいに歩くことにする。
ロッカーに携帯ラジオをしまいこみ、休憩から自身のフロアに戻る前に、何故か一つため息をついた。
休憩時間から戻り、休憩から戻ったことをフロントに伝えると、もうカフェスペースはバタついていた。
サッと見てみると、フロント内に表示されている席の表はずいぶんとうまっていて、このあとはシフトの時間ギリギリまでバタつき、疲れもあって、あっという間の勤務時間であった。
「おつかれさまー。」
とその日重なっていた人員スタッフと手をふって別れ、自転車に乗り走り出した。
今日の出来事をふりかえる。
君に会えて、それとヒカルさんに振り回された一日だったな。
きっと自宅に帰ったら、つかれですぐに眠ってしまうだろう。
自転車で信号待ちをしつつ、夜空の星たちに、
「先におやすみ。」
と言ってみた。
次の日、インターネットカフェのアルバイトは勤務は休みであったけど、自宅で大学のカリキュラムをこなさなくてはいけない。
この日の課題は、情報の科目だ。
大学のカリキュラムから選んだ科目は、思っていたよりもおもしろい。
今回のこの日は情報から出された課題と小レポートをクリアすることに専念する。
はじめの章立てからのビットやバイト、(Byte)からはじめて、途中計算式など、解いていく。
自宅課題なため、自身のパソコンからソフトウェアを利用し、少しずつ答えを出す。
テキストからヒントを探しつつ、息抜きで音楽をきくソフトから、あのドラマになっていた有名なクラシックをかけたり、J-POPをきいたりする。
自宅でも集中していると時間は足りないくらい。
夕方には家族と合流するため、課題の保存をしたあと、そろそろ外出の準備をすることにする。
外出の準備をしていると、ふと前日の風景を思い出すときがある。
次に君と会うのは、数ヶ月後だろうか。
それとも、一年は先になるのだろうか。
きっと、誰にきいても答えは返ってこない課題だろう。