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再会の花  作者: 十矢
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再会の花

きみと呼ぶ彼女、に会ったのは、きっと二年の部活練習がはじめ。

中学二年。

部活のはじまりで、すぐに先輩たちからの後輩指導がはじまり、訓練のような、ささやかなでしたたかな、それが嫌になって、二年になってから、辞めてくひともいる。

いつも通り、練習時間の始まりに筋トレを散々して、まだ慣れていない身体が整わない中学二年にとってはそれだけで疲れてきてしまう。

今度は外周走ろうな、という指導のもと、校庭外の学校外側周りを走ることになり、先輩たちは少し走るとせっせとテニスの練習に入る。

でも後輩は、しばらくずっと走る。

サボりの生徒もいて立ち止まっているひともいるなか、そのひとたちを追い越しつつ、校庭外の折り返し地点になる校門の前にいきタッチしようとすると、きみに声をかけられた。


「頑張ってるね。何部?」

「テニス。そっちは陸上?」

「陸上の子も走るの基礎だけど、テニス部はよく走ってるね。」

「先輩のおかげでね。というのは冗談。」

「小学校のときから、走るのは好きで、つい、ね。」

「テニス練習時間より走る時間のが長いかも。」


すると、


「それなら陸上部にくればよいのに、こっち空いてるよ?」


この誘いをうけたのが、始まりのセリフ。

季節は紫陽花が咲くころ。

もう少し季節が進むと雨の季節で、屋内練習が増えるけど、するとテニス部は練習が進まないから、さらに退屈になりそうだ、というころの基礎練習のときだった。

この次の日。

実は隣のクラスということがわかった陸上のきみは、廊下の窓腰に声をかけてくれた。


「自己紹介するね。」

「わたしはひとみ。佐藤ひとみ。」

「みんなは、ひとみんとか、ひとっちー。だけど、あなたはどう呼んでくれる?」

「まだ、どうとは、いえないよ。とりあえずひとみさんで。」

「わかったー。」

「陸上部で短距離なんだぁ。これからよろしくね。」


廊下の窓腰、自己紹介。

陸上部。

そしてあっさりと


「帰りに一緒に帰ろうよ。」


といわれて、それからとーやは、それにうなずいたために、それからは約二年間、タイミングが合うときに、一緒に帰るという了解を得た二人になった。

とりあえず、その日はタイミングが合わずに、別々に帰った。

休日をはさんで、月曜日。

いくつか授業を進めたあとの休み時間。

突如、あまり話してはいない女子生徒が近づいてきて、それから、回ってきたよ、と小さな手紙を渡された。


「この手紙誰から」


と問うと


「隣のクラスの子。たしか陸上だよ。」


宛名には、ひとみとあり、陸上のひとみさんからの手紙だった。

女子生徒同士でクラス内で、手紙渡しあっている様子をみたことはあったけれど、まさか自分に手紙が回ってくるとは思わずに、開けるのにもビクビクしながら開ける。

まさかこの前の文句とか。

すると手紙にはこう書いてあった。

この前は帰れなかったね。

今日の放課後にね。

裏門あたり待ち合わせ。

と短くかいてあった。

とりあえず怒られずに、ほっとしたものの、一緒に帰ろうは約束になっていたのだと、このとき気づいた。

中学二年のテニス部、とーやはニブイのかもしれない。

放課後、部活帰り、あまり生徒が通っていない校門の反対がわ出口。

ここであってるのかな、と不安に思う間もなく、ひとみさんはやってきた。


「あ、ひとみさん、こんにちはー。」

「こんにちはー。ってもう夕方。」

「部活疲れたね。」

「ていうか、ひぃちゃんとか、ひとみんとか、他の呼び方でいいよ。」

「うん、わかった。じゃひとみんでいい?」


こうして、ひとみんと呼ぶことになった。

放課後、部活帰り、夕方の空。

紫陽花の咲き並ぶ、校舎の反対、みんなとは反対がわ出口から、二人のささやかな想い出の時間が始まった。


「陸上の部活大変?」

「基礎練習はよいけど、タイムが伸びない。」

「もうすぐ夏の予選とかあるのに。」

「そっか。」

「そっちは、相変わらずなの?」

「そう、相変わらずの基礎練習ばっかり。」

「でもおかげか体力はついてきたよ。」

「テニスはうまくならないけど。」

「そう。とーやくん、なんだかおもしろいね。うまくならないテニス部員か。」

「やっぱり陸上にこようよ、とーやくん(笑)」

「いや、テニスで頑張る(笑)」


二人の笑い声。

歩調をあわせるとーやと、ひとみん。

田んぼのあぜ道。

そんなに長い道のりではない。

昔に歩いてきたわけではない道。

でも、なぜだかわからない懐かしい想い。


「そもそもはなぜにテニス部だったの?」

「ラケット競技なら自分もいける気がしてね。」

「あと団体が少し、ていうか、かなり苦手。」

「あーわかる。」

「団体競技って、なぜだか苦手なんだよね。」

「団体もキライではないんだけど、でもわたしも陸上かな。」

「そっかぁ。」


もう少し暮れない夕方の道。

ひとみんと歩く距離はホンのわずか。

なのに、もう二人は昔なじみといるような、その距離感で話すことができた。


「陸上長距離にはしなかったの?」

「始めのほうで、短距離がタイムがよかったらしい。コーチがいってた。」

「暑いなか、大変だよね。」

「そっちのテニス部もね。」

「でも、とーやくんはあまり肌焼けないね。いいな。」

「ひとみんは焼けてきたの?」

「何かその言いかたー。よく焼けた、とかいうと料理みたいな会話。」

「焼き肉よくやけたかな。いーや、そうでもない、みたいな(笑)」

「それは焼き肉じゃない歌だよね、たしか。」

「よかった。冗談も通じるみたい。」

「とーやくんが言うと、冗談っていうか、話しが脱線してるだけっていうか。」

「国語のテストがいいひとは、よく話しが脱線するのだよ。」

「それ本当?」

「たしかに国語苦手意識あるかも。」

「あと理科系が好きかも。」

「あと社会で日本史とか。」

「うーん、日本史は自分は苦手かな。百人一首とかならわかる。」

「そう、この辺の地域みんな小学校で習ったりするよね。」

「あきのたのーとか。」

「あまつかぜーとか。」

「百人一首いいよね。」

「よきかな。よきかな。」

「よきだね(笑)」

「それ古典セリフだし。」

「今度は国語の課題、教えてもらおうかな。」

「オッケー。国語ならまかせて。」

「オッケー、任せたよ。」


ひとみんがいう。


「この辺までかな。」


あぜ道が途切れて、道路の交差点。

右と左にお互いにいく先が違う。


「今日は、待ち合わせありがとう。」

「また明日ね。」

「明日も同じくらいの時間でいいの?」

「いいよ。よろしくね。」

「じゃ。」


サッとうしろを向いて、きみはいってしまう。

けれど、前に十歩くらい進んだあと、振り向いて。

「バイバイ、また明日。」

「また明日ね。」


手をふって歩いていく。

とーやも歩いていく帰り道。

振り向いてみると、ひとみんもまた振り向いて、また手をふってくれた。

次の日もひとみんは少しおくれながらも、放課後待ち合わせにきてくれた。

その次の日も。

委員会や、突然の雨など、何か事情があわなくなるまでは、部活帰りいつも少し小走りでもきてくれる。

再会の花。

紫陽花から、周りの花がひまわりに変わっても。

ひまわりから、周りの季節が葉を落とすころにも。

それから二年間、ひとみんとはいつも一緒に帰っていた。

でも、この関係に名前はつかなかった。

ともだちなのか、恋人なのか。

その中間なのか。

答えがわかったのはつい最近。

きっと、いまならその答え。

口に出せるのだろう。

もう一度、会わないと。

きみに。

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