導かれて出逢い
ある日向かう途中の道で後ろから声をかけられた。
あわててブレーキを引いて自転車を止める。
ふり向いて、いやふり向かなくてもわかった。
そして、ふり向いて、でも驚いてしまい、顔を見合わせる。
見つめあう。
君はやはり笑っている。
やぁでもなく、こんにちは、でもなく、とりあえず自転車から下りた。
ちゃんとスタンドも立てて。
「びっくりしたぁ。どこ行くところ?」
これが一言めのあいさつだった。
君はこういう時も笑っているような、いい顔だね。
とりあえず目を背けないようにしながら、心臓のトクントクンという音を聴きながら、びっくりしてまだ声がうまく出てこない。
「えと、いやぁ、その。」
「そうアルバイト行くところなんだ。」
「そうなんだー。」
「たしか、自治体のお祭り以来じゃん。」
「あぁー!、そうかもね。」
「そうだよー、なんか懐かしいね。」
そう、そうだった。
たしかにあの時以来かも。
高校も離ればなれだし、部活時間も、もう重なることはなかった。
お互いに自転車から下りて、その場で立ち話し。
「あのときって、屋台の手伝いだったの?」
きくと
「そう、手伝いいなくってさ。店番したり、挨拶に回ったり、いらっしゃいませーって声かけしたりね。」
「何かアルバイトみたいだね?」
「給料はもらえたの?」
「そんなのでないよ。」
「お店のただの残りものが、もらえるのだよ。」
「何?お好み焼きとか、焼きそばとか、たいやきとかはー?」
「たいやき!、いいねー。いま食べたい。」
「でも違ったかも。何だったかなぁ。」
なつかしい笑顔となつかしいテンポの会話に、晴れの日の空。
そう。
でもあのとき、言えなかったことがあるような、、そんな気がする。
「たいやき、あますぎるのは苦手なんだ。いちごたいやきなら好き!」
試しにそのようなことを言ってみる。
何を試したいのかはまだ不明。
きっと、なつかしさのせいだ。
「そうだったの。甘いのおいしいのにー。甘さ控えめならいいの?」
「ていうか、いちごたいやきって何?」
「きっと中にいちごが入っているのだよ。あまさ控えめで。いちご半分に切ってあって並べてあってさ。チョコ版とあんこ版と。」
「実はあまさが強すぎは苦手でね。」
「ほら調理実習あったでしょ。二年だったっけ?ケーキでホールケーキ調理したじゃない。」
「覚えてない?」
「あ、あったね、それ。」
「たしか出来上がり見せてもらったよね。ろうかから覗いていた気がするよ。」
「でもあれ甘そうだったよ。甘いの好きなんじゃん!」
「あれクラスの子が砂糖を倍で入れたんだよ。」
「やめた方がいいよっていったら、家から持ってくるの大変だったから、また帰りに持っていきたくない、とかなんとか。」
「そしたらいつの間にか、砂糖をバサッてボウルに入れたんだよ(笑)。もう家まで出来上がりの残りを持って帰ってさ。食べたらあますぎ(笑)って。」
うっかり二人して大笑いしたら、自転車が倒れそうになった。
「おぉっ。」
て、二人して声にでた。
また少し笑った。
どちらからでもなくて言った。
「少し歩こうか。」
わたしは進む方向に、彼女は少し戻る方向に。
「あれ、何の話しだった?」
「え、何の話?」
「何の話しだったけ?」
また二人して少し笑った。
わたしは進む方向に足を進める。
「もう卒業したけど、高校生活、どうだった?」
道の途中にある小さな橋。
その脇に咲き誇る、あじさいの色彩をみながら、そう、なんとなく会話を続ける。
「高校生楽しかったよ。花の高校生活楽しかったぁ。」
「友達もできたし。でも、君がいなかったからつまらなかったかも。いまはそう、思うよ。」
「ありがとう。」
なぜかわたしは、感謝の言葉を言っていた。
このときになって、あのときに言えなかった、言葉の続きがパッとフラッシュのように浮かんだ。
でも話したのは別のこと。
「ほら、行事で、バスでいった学習旅行って覚えている?」
少しのそよ風とともに、そんな言葉。
「あーバス旅行なつかしいね。」
「でもどこ行ったっけかな。忘れたね。」
「そぉ、たしかにどこ行ったか忘れた。忘れたけど、写真撮ったのは覚えている。」
「えー、どの写真のこと?体育祭のなら覚えているよ(笑)」
なぜだか君はくすくす笑い。
バス旅行の写真を思い出す。
「あれはとなりのバスで、バスの窓開けながら撮ったやつ。お菓子の箱空けながら、かまえてくれたやつだよ。」
「笑顔が可愛いから気に入っているよ。」
わたしが言うと、君は少しはにかみ照れ笑いを浮かべる。
君はいつも笑顔が似合うよ。
一瞬これも言おうか迷って、やっぱり言うの止め。
こっちも照れてしまうから。
周りの景色をながめて、ごまかすわたし。
少し黙ってみると、どうやら横顔をジーッと見られていたようだ。
君が話す。
「ほらぁ、体育祭の話し(笑)体育祭の話しも写真の話だよ。」
どうやらそちらがメインの話しらしい。
「えーと、どの写真だっけ。」
えーと、あの写真かっ。
ひらめく。
「あのー、君が走って活躍したやつだね。」
「違うよ!並んで映ったあの写真だよ。」
「覚えてない?(笑)」
「その、覚えてるよ。覚えてた。忘れてないよ。覚えてる。」
「何!その覚えてる三段活用は(笑)」
二人してまた大笑いした。
本当になつかしい。
ホントに。
二人して歩く距離も。
もう少し先の田んぼからの別れる道も。
この話しをする空間も。
「どう、思い出したぁ?」
「想い出は?」
「そうだね。なつかしい。」
「でもせっかく並んで映った写真だったのに、
変に遠慮して、結局購買の時に買えなかったよ。ごめん。」
「ごめんね。」
すると、君はくすっと笑って、止まらずにくすくすから、フフッと笑った。
「どうしたの?」
「笑ってるし、何か変?」
「写真、買ったのだよ。それも2枚。あー、やっぱり渡せばよかった。」
「え、そうだったの!なんかごめん。何だ、もらえばよかったね。」
「恥ずかしくってさ。言えずじまいだったかもね。」
また、二人して笑って、立ち止まる。
久しぶりにみた、のんびりしたした田んぼの風景。
通り過ぎた小さな橋。
自転車を押した歩いた少しの距離。
笑顔と笑い声。
「ここら辺までかな。」
「だね。」
ここはいつもの帰り道、別れ際にあいさつする、その道の真ん中だ。
「じゃ、アルバイト頑張ってね。」
「また会えたらいいね。」
「またね。じゃぁ。」
「じゃ。」
自転車に乗って、別の方向に。
お互いに手をふって別れた。
なぜか今度も言えなかった。
フラッシュのように浮かび上がった、あの言葉はいえなかったよ。
もう一度、手をふった。