43 新参者たち
翌日も、アパルトマンはトモダチで賑わっていた。
ビッツィーは果物やゼリー菓子を蠱術酒に変えて、トモダチ達に振る舞っている。カルベリイの時と同じだ。
私の表情を見たのだろう、ビッツィーは「今日は何もしないわよ」と云った。害を及ぼすような魔術は仕組んでいないと云う事らしい。
瞬く間にビッツィーはトモダチの心を掴んだが、私はやっぱり此の場に慣れなかった。
「離れないでねフランソワ」
「ブブブブブ」
フランソワは唇を鳴らしている。制服を着せて貰えなかった事に怒っているらしい。
私はフランソワを連れて、隅っこのソファーで大人しくしていた。
ビッツィーやテュールの様に社交的になりたい気持ちはあった。でも男の人が近くに来るだけで身体が強張ってしまう。我慢していると頭痛がし始める。
それに、社交的なキャラクターに憧れはするのだが、社交的な行動そのものが好きな訳ではないのだ。
トモダチたちは飲み物片手に議論したり、タバコを吸ったり、偶に楽器を触ったりしている。けれど本格的な演奏が始まるわけでも、他の何が始まる訳でも無かった。一体、如何云う集まりなのか分からない。此所では休憩しているだけなのだろうか。
「これ皆は楽しいのかな?」
聞いてみてもフランソワは唇をブルブルするばかりである。
「楽しんでる?」
たまにテュールが様子を見に来てくれた。条件反射なのか、彼女の顔を見るだけでほっとするようになっていた。
ビッツィーも一緒に行動していた。この二人揃うと存在感が凄かった。彼女らの後を、男の子が何人も着いて来ている。
「案内してもらってたけど、此所面白いわねえ」
ビッツィーはテュールに案内でアパルトマンを見てきたのだと云う。
二人は御洒落なグラスでお酒を飲みながら立ち話した。
「大きな規模だけど、会費でも取ってるの。全部の部屋にオトモダチが居るんでしょう?」
「そんなに大変でもないのよ。皆が持ち寄って飲んだり食べたりしているだけ。助け合いの精神だよ」
「部屋によって雰囲気が違うみたいだったけど」
「色々なコミュニティが有るから。中には過激な集まりも有るわ。でも、そう云う部屋は大抵閉め切ってあるから、ドアの閉まっている部屋には入って行かない方が良いよ。此所の唯一の決まり」
「そう云われると行ってみたくなるわね」
「ビィッピー探究心深すぎぃ」
ビィッピー。とは思ったけど黙っていた。恋族特有の文化なのかも知れない。
「ノリピーも欲しいものとか有ったら云ってね」
テュールは去って行くのだが、彼女はそうやって私達の様な新参者の面倒を見ているのだった。皆、私同様、テュールやトモダチ達に勧誘されてやって来るらしい。
アーティストめいたトモダチのなかに、落ち着かない様子の若者達が交じっている。彼らも新参者なのだろう。その中にトビーを見つけた。
私に気づくと、彼は安堵した表情を見せた。
私の顔はどうだったろう。彼と同じだったかも知れない。




