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12 学会警察(エイポ)


「ビッツィーは本当にお酒の調査で旅をしているの? それも嘘?」

 翌朝、使用人の方が着替えと洗面用具を支給してくれた。水道を引いてある浴室もあって至れり尽くせりだ。

 ビッツィーは着替えを手伝ってくれた。この世界の服は、複雑という訳では無いのだが、よく分からない窓やボタンが合ったりする。後になって知ったのだが、これは色んな種族に対応するためらしい。

 私はね、とビッツィーは云った。

「私は欲しいものをるだけ」

「欲しいもの?」

「そう。葡萄酒ワインきっするのも、魔術式の知識を深めるのも、その一つ」

「じゃあ、醸造じょうぞう術士というのは本当?」

無免許むめんだけどね。あと私が主に使うのは、蠱術こじゅつうジャンルに分類されるんだけど、飲食関係でむしは嫌がられるからね。蠱術士はこうう場面では醸造じょうぞう術士を名乗る事が多い。マナーとしてね」

「はあ……」

如何云どういう技術かと云うと、物事を変化させる魔術ね。物の性質を変えたり、混ぜ合わせたり、朽ちさせたり、肥えさせたり――」

「果物をお酒に変えたり?」

「そんな感じ。で、そういう変化のためにむしを使うのが蠱術士こじゅつし

 ビッツィーはどこからともなくかいこを取り出した。れを魔術で造りだしたのだと云う。

 触覚の仕草といい、よじよじ這い回る様子といい、本物の生物にしか見えない。お腹の内側から微かな光と蓮の香りを漂わせている。

「撫でてあげて。髪や服の中に住ませておけば汚れや吹き出物も食べてくれて便利よ」

 私は恐る恐るふれた。

「潰してしまいそう」

「潰しても大丈夫、美味しく食べられるよう造ってあるから」

「そういう問題じゃないと思う」


 その時、遠くの方から騒がしい気配がした。

 高所に構えるクラウス家のお屋敷だから、村での騒ぎが風に乗って聞こえて来るのだ。

 窓へ近づいて耳を澄ますと、どうやら騒ぎは役場の方角の様だった。

「なんだろう?」

「楽しみ楽しみ」

 ビッツィーは胸の四次元ポケットから双眼鏡を二つ取り出した。

 覗いて見る。役場前の広場で、数名の女性と、制服姿の人物が揉めている。届いてくる怒声からして男性らしい。遠くの町内放送みたいに薄まった声で、内容までは聞き取れなかった。

 だが、遠目にも男の人の態度が悪い。馬鹿にした様な動きをして、女性をからかい、また恫喝どうかつしているらしい。女の人が怒りの声を上げた。男がお尻を触ったのだ。

「ありゃ」とビッツィー。

「あの人はなんですか」

学会警察エイポだわ」

「エイプ?」

「エイポ。魔術学会を背後に持つ警察の、まあ卑称ひしょうね。マッポという人もいるけど」

「警官? 魔術学会?」

「特に術式犯罪を取り締まる警官ね。隠れて術式過剰オーバースピードを見張ったり、無免許ムメンに文句つけてきたり嫌なやつらよ」

「それはかなり警察だね」

「私みたいに無免で違法術式を使いまくってる人間には絶対付き合いたくない相手ね」

「それはビッツィーが悪いのでは?」

「村の人達もそうよ。こういう村って警察が嫌いなのよ。仲間意識が強くて、お酒に関しては治外法権だと信じてるし、実際、軽い違反なんかは何処どこもやってる」

「警官とあんな風にケンカして大丈夫なのかな?」

「でも今回、学会警官エイポが来たのは別の理由ね」

「なに?」

「神官殺しがあったからでしょうよ」

 神官殺し。ビッツィーは物騒な事件について語った。


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