10 悪夢、ひらく
手足が勝手に暴れている。
叩きつけられる石の硬さ。軋み。
やがて頭蓋に破水するに似た喪失感が訪れて。
――蒙、直グ。六時ニ、為リ、済。好イ児ハ、隠フ地ニ、帰リ、マショウ――
そこで飛び起きた、と思う。
夢と現実が混じっている。自分が公園の草叢に倒れているのか、クラウス家のベッドに居るのか区別がつかない。その両方である様な気がした。クラウス家にあてがわれた一室で沼田打ちながら、同時に髑髏の中味を垂れ流している。其れが私だ。
湿ったシーツが絡みついて、私をさらに動転させた。
頭を掻きまわした。垂れ流しになった物を必死で押し戻そうとした。解らない。もしかしたら反対で、全部掻き出して仕舞いたかったのかもしれない。その両方かもしれなかった。
どれくらい苦しんでいただろう。不意に、爽やかな香気が、私を冷静にした。夜明けの窓辺に立ったような清々しい香りだった。
目の前のシーツに蟲がとまっていた。
それは仄かに光る、蚕に似た蟲だった。
蚕はなだめる様な静かなリズムで、羽根を上下させている。その蚕から、蓮に似た香りが漂って来るのだった。
愛嬌のある顔つきといい、ふさふさした毛並みといい、厭な感じはしなかった。
蚕は、発光する鱗粉を散らして一匹、二匹と増えていった。部屋中に蓮の香りが満ちた。
また一匹。飛んで来た方を振り返ると、ドアが薄く開いていた。隙間から誰かが此方を見ている。
「おこんばんわ」
ビッツィーはそう云った。