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デート2

「そろそろお昼にしよう」


花屋の角で路地へ入る。右に曲がって五軒目、レオカディオは暖簾のような赤い布を潜って店に入っていった。


「いらっしゃいませ」


 店内を漂う香りは懐かしさに溢れている。恋しいのに、もうずっと前に忘れてしまっていたような空気。


「お待ちしておりました。お席にご案内します」


 どの席も空いていて、他にお客さんはいないようだ。もしかして貸し切り。


「前から気になっていたんだが、マーナと初めて来ることになるとは思わなかった。………ああ。このことだな。マーナ」


 奥に通された席。レオカディオは確かめるように、テーブルに置かれたメニュー表を差し出してきた。


「っこれ、ローマ字!」


 カルリーニの文字の下、まるでデザインされたように小さくローマ字が書かれている。


「マーナにはわかるんだな」

「私がいた国で使われていて、といっても主流ではないんだけど。まさかここで見るなんて思わなかった」

「この店を創業したのは転移者なんだ。今は3代目かな」


 コロッケ、エビフライ、オムライス、ライスカレー、ロールキャベツ、…ライスカレーとオムライスにはスープが、それ以外はパンとスープがついてくるらしい。


「久しぶりにエビフライ食べたいけど、だったらオムライスも外せないな。オムライスかな」

「俺がエビフライにしよう。それならどちらも食べられるだろ」

「いいの?じゃあ。オムライス少し食べてみる?」

「ああ楽しみだ」


 レオカディオが注文を伝える。店員はすぐに戻らず、こちらを見ている。


「失礼ですが。マリナ様ですか」

「はい」

「私はジェームズと申しましす。曽祖父は転移者で、元々他国におりました。カルリーニ国は食材が豊富だと知り、移住した後、この店を始めたと聞いております。なんでも転移前、異国で食べた洋食を再現しようと思いついたそうです」

「きっと召し上がったのは私の国の料理だと思います。このお店は、私にとって馴染み深いものばかりです」

「それは。そうですか、御曽祖父はマリナ様の国に行ったことがあるんでしょうね。…マリナ様のことは存じております。転移者、なのだと。ついお声掛けしてしまいました。申し訳ございません」

「どうか頭を上げてください。私も励まされました」


 根を張って生き抜いた人がいる。その証がここにある。


「すぐに料理をお持ちします。しばらくお待ちください」


 店員は一礼し、カウンターへ戻って行った。料理が運ばれてくる間、次に行く店の話をする。本屋、文具店、雑貨屋、宝石店、帽子屋…、もう少し時間があれば劇場や博物館にも行けたらしい。今は笑劇が流行りらしい。


「お待たせいたしました。ごゆっくりお召し上がりください」


「わあ!」

「これは初めて見るな」


 薄焼き卵に真っ赤なケチャップ、昔ながらのオムライスだ。レオカディオの前に置かれたエビフライは、真っ直ぐに揚げられ白いタルタルソースがかかっている。どちらも絶対に美味しい。待ち切れなくて、向かいのレオカディオをチラリと見る。


「食べていい?」

「ああ」

「いただきます。ん、んー美味しい、美味しいよー」

「わかった、わかったから落ち着け」


 レオカディオはスプーンを手にし、オムライスを一口奪った。


「っこれは美味しいな」

「あ!」

「味の付いた米と卵のバランスがいい。これはもっと早く食べたかったな」

「気に入ってくれたの?お城で作ってもらう?」

「いや。この味はマーナと街に出たときの楽しみにしよう」

「また連れてきてくれるの!?」

「ああ」


 レオカディオがオムライスを気に入ってくれた。早くエビフライも食べて欲しい。タルタルソース、絶対美味しいと思う。手を止め、レオカディオとエビフライを交互に見つめると、レオカディオはふっと笑いナイフとフォークでエビフライを一口大に切って口に運んだ。サクッという音が堪らない。


「っ美味いな」

「よかったー。あ、ソースもちゃんと付けて」

「ああ、悪い」

「きっと気に入ると思うよ。エビフライとの相性もバッチリだし」

「わかった。んっ、これはソースをつけた方が美味い」

「でしょ?一口もらってもいい?」

「一口でも、二口でも」


 エビフライの刺さったフォークを向けられる。これは…。


「どうした?いらないのか?」

「ここはお城ではないから」

「城より見られていないぞ」

「え、いや、そういう問題じゃなくて。ここ外」

「早く食べないと冷める」


 辺りを見回す。店内には誰の姿も見えない、気がする。レオカディオが引かないのは分かっているから、今のうち、かな。


「んっ!サクサクぷりぷり美味しいっ」

「よかったな。美味しいだろ」

「うん。ディオが初めて食べるエビフライが美味しくてよかった」

「マーナ。今自分が何を言ったか分かるか?俺はとても嬉しい」

「え?いや、だって、自国の料理は美味しいって言ってもらいたいもの」

「そうだな。俺はマーナにとって、そう思ってもらえる存在で嬉しいよ」

「あ、いや。えっ、」

「せっかくだ、温かいうちに食べるぞ」


 何でそんな話になるんだろう。お水をぐっと飲み干し、酸味と甘味がちょうどいいオムライスをひたすら食べる。ああ美味しい。美味しい。食べ終わるまで顔は上げられない。


***


 洋食屋の斜向かいは小さな本屋だった。城内に図書館はあるが、まだ足を運んだことはない。本屋には様々な雑誌が並んでいる。市井を知るのにいいと、レオカディオはグルメ雑誌とタウン情報誌に当たるものを渡してくれる。グルメ雑誌の表紙には、今王都で大人気!居酒屋特集!と書いてある。カルリーニでは成人。飲んでいいのかな。レオカディオがお酒を飲むところは想像出来ない。

 本屋を出て隣のお店は雑貨屋。ランプやフレーム、小物入れなどが並ぶ中、あちこちにクッションやハンカチなどの布製品が置かれている。レースの綺麗なリボンに見惚れていると、レオカディオは全て買おうと言い出す。


「ディオ。素敵な髪飾りをたくさんありがとう。お礼が遅くなってごめんなさい。明日からも髪飾りを付けることにしたの。リボンはまた今度ってことでいい?」

「そうか、付けてくれるか。明日のマーナに会うのが待ち遠しいな。次のデートの約束も順調だ。どうにか毎日デートが出来ないものか」


 あっ始まった。今日はリタもいないし、二人きりだ。そういえば初めての二人。そういう意味では意識をしていなかった。毎日同じ時間を過ごしているからかな。これが今の私の日常なんだ。

 

 

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