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これから

「妃?私が?」

「はい」

「何でそんな話が出てるんですか?殿下って、陛下の横にいらしたレオカディオ様のことですか?」


 部屋に戻るとエレノアがワンピースに着替えさせてくれた。髪を解きながら「ご婚約」を問われ今に至る。妃になるなんて聞いていない。脱いだドレスを片付けていたリタをじっと見る。


「リタさん」

「リタでございます」

「リタ。私が妃って、何でそんなことになっているんですか?」

「殿下が求婚なさったと聞いております」

「求婚?!」

「ええ」

「求婚って。いつ!?何でそんなことになってるの!?」


「どうした!何があった!」


 一人の男性が勢いよく駆け込んだ。


「ノックもなしに女性の部屋へ入るものではありません、殿下」

「マリナは無事か」

「何事もごさいません」


 男性は渦中の人である殿下、レオカディオで、彼は無遠慮に両手を包んでくる。


「何が無事なものか、こんなに震えてしまっている。顔色もよくないな。かわいそうに、何があった?」


 顔が近い。ひたすら甘くかっこいい。悔しいことに顔がいいとはそういうことなんだと、こんな時に初めて知る。


「ん?どうした、マリナ」

「いえ。レオカディオさ、レオカディオ殿下」

「今日も可愛いな。先程のドレスもよく似合っていた」


 レオカディオは手を離し、頬に触れようとする。反射的に後ずさり助けて欲しいと見渡すと、リタと目が合う。


「殿下、ほどほどになさってください……、もしかしてですが。部屋の外にずっと」

「いた」


 なんでそんな。


「どなたかに見られていたら如何なさるのです」

「マリナの側にいたいだけだ」

「ご公務はいかがなされたのですか」

「午前は休みにしてある」


「なんてことを」


 声に出してしまった。レオカディオがこちらを振り返る。


「マリナ、俺のことが嫌いか?」

「嫌いも何も、」

「マリナに嫌われることだけは避けたい」

「私はいつか帰」

「俺たちは夫婦になるのだから」

「あ」

「そういえば、婚約がまだだな」

「そのお話しですが」


 求婚された覚えはないけれど、妃になるという話は嘘ではないらしい。どうしてそんなことになっているのか謎だが、否定しておかないととんでもないことになりそうだ。どう言おうか考えていると、リタがレオカディに尋ねる。


「殿下。今朝のご婚約なさるとの公示は一体」

「決意表明だ」

「決意表明だけで公示を?」

「俺は次期王だ。国の為なら誰が妃でもいいと思っていた。だが、それは一昨日までのことだ。こんなに愛らしいマリナに惚れない奴はいないだろ。邪な輩は全員斬り伏せるまでだ」


 物騒なことを言い出したレオカディオこそ、要注意人物ではないか。掴まらない方がいい、いつか帰るとハッキリ言わなければ。


「私は帰ります。前例がないのは理解していますが、いつか帰れるかも知れないのなら、私は帰ると決めています」

「そのときは俺も一緒に行こう」


「「「は?」」」


 リタとエレノアの声も重なった。後ろでは、何か落としたような音がいくつもする。


「マリナが帰るとなったときは、俺がついて行けばいい」

「次期王なんでしょ。王がいなくなるなんて、一大事じゃないですか。いやいやいやいや。私たちは昨日会ったばかりです。お互い何も知りません。そういう関係でもないのに結婚なんて無理です」


 レオカディオの発言が国を揺るがすことは、私にだってわかる。リタは私に頭を下げる。


「マリナ様、殿下とのご結婚を急ぎ考えることはありません。お二人はまだ出会ったばかりなのですから。殿下、マリナ様のお支度が途中なのはお気づきになられていますか。ここはご退室願います」


「それは、すまなかった。お茶の時間になったらまた会おう」


 レオカディオは部屋を出て行く。静か。


「エレノア、続きを」

「はい。マリナ様、椅子へどうぞ」


 髪がさらさらと滑っていく。もう今日はゆっくりと休みたい。





「そのドレスもよく似合っている」


 レオカディオは忘れずに訪ねてきた。カルリーニ国唯一の王子であることを改めて説明され、まずそこを教えて欲しかったと伝えると、マリナとはこの身だけで会いたいと断言された。王子は王子ではないかとスプーンを回していると、笑みを浮かべたレオカディオは紅茶を二口飲んだ後、真剣な顔になる。


「マリナ。君はいつか帰ると言った。そう思うのは当然だ。だが、帰るにしても暫くはここで生きていかなければならない」

「はい」

「この国に君を害そうとする者はいないだろう。それは君が転移者だからだ。転移者はその地に幸をもたらすといわれている。俺にとっては、マリナそのものが祝福なんだが。今の君には何の後ろ盾もない。後見人が必要だ」

「後見人」

「マリナの家族に俺はなる。でも残念ながらすぐというわけにはいかない。この身が少し恨めしいね。ああ、結婚についてはマリナも理想があるだろ。マリナのいた世界とここは違う部分もあると思うから、それは教えて欲しい」

「その話は追々でいいですか」

「俺はマリナを一時も離したくない。マリナに降りかかる全てから守るつもりだ。だが、このまま城の世界しか知らずにいるのはマリナにとって後々重荷になる可能性がある。だから。後見人の家で生活してみるのはどうだろうか」


 このお城で丸一日も過ごしていない。リタやエレノア、レオカディオと出会ったばかりなのに、また知らない場所に行くんだ。生きていくのに後見人、保護者のような存在があった方がいいのはわかる。お城で守り続けてもらえるとは思っていない。何より自分が帰ると言っているのに、都合よく甘えようなんておこがましい。


「マリナ、1ヶ月頑張れるか」

「はい」

「俺はマリナを手放したりしない。俺が耐えられるわけがない」

「あれ?」

「安心しろ。妙な奴にマリナを任すことはさせない。帰ってくるのを待っている」


 城を離れる寂しさより、レオカディオの待っているという言葉の不穏さが勝ってしまったが、頭をくしゃりと撫でられると、一度は帰ってきてもいいかと思ってしまった。


 


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