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5/9

しわ

原作 パコ・ロカ


監督 イグナシオ・フェレーラス


制作年 2011年


制作国 スペイン

この映画は、スペインで制作されたアニメ映画です。日本のアニメに影響を受けた監督が制作しています。日本ではジブリを通じて公開されました。特に「火垂るの墓」などで知られる高畑監督に評価され、紹介文も書いています。


内容は長年銀行に務め、支店長も経験し、妻に先立たれたエミリオという老人が認知症となり、介護施設にやって来ます。そこで様々な認知症の方々と交流します。特に同室のミゲルという老人と親しくなりますが、段々と認知症が進んでいき…という内容です。


この作品は認知症を正面から取り上げているため、様々なお年寄りの描写もあります。たまに来る孫のためにひたすらジャムやティーパックを集める人、自分はオリエント急行に乗っていると思っている人、話しかけられるとそのままオウム返しする人。もう今日で退院すると言い、息子へ電話をかけようとひたすら電話機を探そうとする人。


エミリオはそんな人達と仲良くしつつも自分はそこまで忘れていないと安心しようとします。あくまで別の立場を崩そうとしませんが、徐々に症状が重くなっていきます。その様子も観客が分かりやすいように書かれています。例えばエミリオは元々の職業柄、施設内でもホールに行くときは、必ずネクタイをしっかり締めていました。しかし、段々と出来なくなっていき、朝起きてもシャツのボタンを留めることも忘れてしまいます。また、みんなでボールをパスするリハビリテーションをする際にも「ボール」という単語をいくら仲間や職員に言われても理解できなくなる場面があります。本人も一生懸命に聞こうとしますが、周囲の声がぐにゃぐにゃになり聞き取れません。その描写も非常に丁寧に作られているため、中々悲壮感が伝わってきます。


特に胸を痛めたのはエミリオの家が売り物件に出される場面です。息子夫婦にとってはそうしないといけないのは確かですし、間違ったことではありません。しかし、今まで住み慣れた部屋が片付けられ、クローゼットの服が袋に入れられる描写はもうこの家にエミリオが戻って来ることがないという現実がハッキリと突きつけられる場面で、中々辛いです。


また、妻の遺影の写真を撮った場面を思い出す描写も辛いものがあります。元々エミリオは泳ぐのが好きで家族とも海に行きます。そして妻と幼い息子の写真を楽しそうに何回もポーズを決めさせて撮っています。そんな楽しい思い出が急に霧でいっぱいになり、何も見えなくなり目が覚める。中々切ない場面でした。


このように、お年寄りの方々の昔の記憶も鮮やかに描かれます。オリエント急行に乗り、美しい服を着飾っている若い頃のお婆さんの描写は中々凄いです。また、夫婦で施設に入所している人の馴れ初めの場面。石畳の道に白い壁の家々、そして雲を取ろうと塔へ登ったカトリックの教会。スペインの昔ながらの風景が色鮮やかに語られ、描写されるのはとても良いと思いました。


そして、この映画は先に書いたエミリオの同室のミゲルの成長物語であると思いました。ミゲルは陽気で気さくで親切な人ではありましたが、手伝う際にお金を騙してもらい、こっそり貯めていました。指摘されても皆の症状が進行しない手助けをしているんだと悪怯れる様子もありません。また、あまり人に尽くす生き方はしたくないとも言っていました。しかしエミリオと仲が悪くなりつつも、エミリオを助けようとします。エミリオが認知症の症状が思い利用者が行く病棟に行かないように手助けし、他のお年寄りに対しても、本当にその人の為になるようなことをするようになります。ミゲルが他人に尽くす素晴らしさ知り、成長するえいがでもあると思いました。


この映画は、中々表現できない認知症に真っ正面から向き合っていて非常に勉強になりました。やはり認知症は辛いことが多いです。しかし時には残酷に時にはユーモアにお年寄り達の様子が描かれていて喜と悲が入り乱れる映画だなと思いました。


また、スペインのお国柄も表れていると思いました。とにかく皆が陽気で明るくよく喋ります。しかし、その陽気さの中に哀愁が隠されている。そんな描写もスペインらしさなのかもしれないと思いました。


人間は歳をとることに抗えません。それに対しても恐れても、恐れすぎなくて良い。そんなメッセージを感じる映画であると思いました。

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