雨月物語
監督 溝口 健二
制作年 1953年
制作国 日本
本作は「タクシードライバー」、「グッドフェローズ」の監督であるマーティン・スコセッシ監督も技法をリスペクトし、その他の著名な映画監督も評価する映画です。監督は日本映画の巨匠黒澤明、小津安二郎と並ぶ溝口健二です。
内容は、戦国時代に琵琶湖の近くに住む焼き物職人の源十郎が妻子と暮らしていました。焼き物は近くの都市部で非常に需要があったため、よく売れました。そのため、源十郎はもっと売ってお金を儲けて家族に良い物を買ってあげたいと思いました。そのため、いつも以上に仕事に励み、まだまだ戦乱の世であるのに危険を冒して街へ行く生活をしました。しかし、妻である阿波は家族を残し、家族の時間を作らないでひたすら金儲けに走る源十郎を心配します。そんな中で源十郎たちの村が戦乱に巻き込まます。しかし、それでも焼き物を売りたい源十郎は妻子を残して街に繰り出すのです。そして、露店で焼き物を売っていると、若狭という若い女御が焼き物に興味を持ち、源十郎を屋敷へと誘います…。
この映画でよく持ち上がるのは映像技法です。特に霧のかかる琵琶湖を船で進む場面は何だか幽玄かつ怪しい雰囲気です。そして船が霧の中に入るとゆっくり霧の中に消えていくと思いきや、スッと船が消えてしまいます。これを見て私は、源十郎がこの世の者ではない世界へ足を踏み入れることを暗示させる表現だったのかなと思いました。
そして特に驚いたのは屋敷の描写です。最初、源十郎が足を踏み入れる前の屋敷はボロボロです。少し玄関で話すシーンでも薄気味悪い廃墟です。しかし、次のカットでは立派で綺麗な屋敷になっています。段々変化するのではなく、脈絡もなくいきなり変化しています。源十郎が一瞬のうちに、怪しげな世界へ引き込まれてしまったことをはっきり表現しているようです。
そして、BGMを上手に使っています。海外へ向けて日本文化をアピールするようなものではなく、さりげなく、当時日常的に庶民や貴族が聴いていた音楽を流しています。それでいて、雅楽で使われる笙の音を積極的に取り入れていて、これもまたこの物語の怪しさを引き立てることに一役買っているなと思いました。また、源十郎が着物屋へ行き、店先で売られている着物を妻が嬉しげに着ている様子を想像する場面でもBGMが上手に使われていました。
そして、若狭が自ら能を舞って源十郎をもてなします。この場面も本当に綺麗でなおかつ怪しげで良いです。これも当時のしきたりですから、唐突な場面ではありません。しかも、これによって自然な流れで海外に伝統文化である能を宣伝でき、客人が訪問したら踊り子や楽隊を招くのではなく、主人自らが舞ってもてなすという海外ではあまりみない独特の文化をアピールできる良い場面でした。
若狭の演技も秀逸でした。最初、源十郎と会ったばかりの場面では本当に妖艶で怪しげな雰囲気です。しかし、源十郎と懇ろになる頃には妖艶さを残しながらも青春を楽しむ乙女の姿を見せていました。もう本当に楽しげに垢抜けた笑顔を見せていました。源十郎とイチャイチャする姿は恋愛を楽しむ現代の少女と変わりません。
源十郎も自分の為に金儲けをするのではなく、常に家族に思って金儲けをしています。それを証拠に少しでもお金が多く入るとすぐに奥さんに着物を買っていき、嬉しそうにする妻の様子に、とても嬉しそうにします。しかし、原作が江戸時代の小説なのでそれがあまり良いこととして描かれていません。しかし、源十郎がただの欲深いだけの存在ではなく、現代の資本主義の考えを反映して家族をいつも思い描く姿も表現しているのかなと思いました。
まとめになりますが、黒澤明や小津安二郎とは違った映画表現で、見ているうちに引き込まれました。二人の映画監督とは違った良さを感じました。特に映像表現と人間らしさを上手く表現する演技です。まだ僕自身も数回しか見ていないので、もっと良い感想が書けるようにもっとこの映画を鑑賞したいと思いました。