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野いちご

監督 イングマール・ベイルマン


制作年 1957年


制作国 スウェーデン

スウェーデン映画の巨匠、イングマール・ベイルマンの初期を代表する映画です。監督の他の作品に「第七の封印」、「ペルソナ」があります。


ストーリーは、70代を過ぎた老医師のイサークという男性が、学位取得50周年の式典に参加する際の道中で昔の記憶が蘇り、現在、過去、夢の世界を行ったり来たりするという内容です。


この話はイサークの不吉な夢から始まります。式典前夜、誰もいない廃虚のような町にイサーク唯一人。時計を覗くと針は無くまるで後にも前にも行けないという「死」を連想させるよう。そしてそこに棺を乗せた馬車が通りかかり、それが不気味な音を立てて壊れ、棺から自分自身が手を引っ張り、「死」へと引き込む。


この夢の世界を全て実写で表現するのですから、流石としか言いようがありません。


そして、そんな夢を見たイサークは急遽予定を変え、自ら自動車を運転して会場へ行くことにします。そこには夫と別居中の息子のお嫁さんのマリアンヌも同乗します。義理の娘との微妙な関係の二人が乗る車内で、マリアンヌから辛辣な評価をされます。


「あなたは外では聖人だけど、家では冷徹なエゴイストよ」と。


イサーク自身も自分が融通が効かないことは自認しています。確かに息子とは色々あるが、男同士ならそんなものだと。仕事が忙しかったのだから家族との時間が少なかったのは仕方のないことと。しかし、マリアンヌから息子の自分に対する思いを聞きます。


「あなたを恐れてもいるし、恨んでもいます。」と。


これを聞いたイサークは、ショックを受ける顔をします。私はこれを見て、自分を卑下するのは、心のどこかでそんなに悪くないと言われたいが為。それがストレートに言われてしまい。とてもショックを受けたんだと思いました。


そして、途中で昔住んでいた別荘に立ち寄ります。そこで、若い頃の思い出が鮮やかに蘇えるのでした。静かな湖畔の様子、風に揺れる木々が鮮やかなカメラワークで写されているのは素晴らしいですね。そこで現れるのは、イサークの記憶の中にある若かりし頃の許嫁であり、イサークの初恋の相手、サーラ。サーラは贈り物にするために野いちごを摘んでいます。しかし、そんな彼女は女癖は悪いが社交的な弟と結婚します。この別荘の記憶は、イサークの苦い思い出だったのです。


この失恋は、イサークの人生に深い影を残していたのです。それから、物語は、イサークの家族関係と息子夫婦の不仲の理由を解き明かしていきます。


おっと、少し内容に踏み込みすぎたので、印象に残ったシーンを中心に感想を述べたいと思います。それは、96歳の母親の邸宅をイサークが訪れるシーンです。母親は長生きだが、威厳があり権威的で子供達は寄り付かず、長男であるイサークのみが訪れます。母はそんなイサークを迎えるのですが、母はしきりにイサークの子供時代について話します。はるか60年以上は昔のおもちゃ箱を持ち出して、お前もこれでよく遊んだろう。こんな絵本を読んだろうと。確かに親にとっては子供はいくつになっても子供であり、歳をとれば、昔の記憶のみはっきりするのは、脳の仕組み的に仕方のないことですが、イサークも孫がいてもおかしくない年齢。イサークは戸惑い、母の姿を見て、老いる残酷さを痛感します。そして、その中でサーラと結婚した弟の話が出て、再びイサークの心に暗雲が立ち込めるのです…。


しかし、そのおもちゃ箱に詰め込まれたおもちゃが、なんともアンティークな感じで美しいのです。ちいさな丸い写真立て、壊れたブリキの汽車のおもちゃ。どれもアートのように美しいのです。その中にある、1887年と書かれた日記帳もいかに時が流れたかを表す良い小道具になっていると思いました。


この映画はイサークが自分の過去を振り返り、自問自答します。もう一人の自分が今まで会ってきた人達の姿となって、自分を厳しく問い詰める様子が出てきます。自分で自分で責めるときは、本当に容赦がないものです。それが映像で表現されるのは、中々辛いですが貴重であると思いました。


しかし、そんなことがあっても、この物語は最後には思わぬ結末が待っています。気になる方は是非映画を借りてみてください。


そして、やはり映像表現が素晴らしいです。白黒映画ですが、夏の北欧の自然が丁寧に写され、風に揺れる木々、少し雲がかかった真っ青な空が自然に色付けされるほどきれいに撮されています。そして、夢の中の、少しシュールな会話や場面が全て実写で写され、上手く表現されているのはもう脱帽です。


ストーリー、役者の演技、映像全てが素晴らしい映画だと思いました。



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