常識って何だろう
カーテンの隙間から朝日が射し込み鳥の鳴き声が聞こえて来る。どうやら朝らしい……だが、俺は眠かった。未だ寝ていられる時間帯だと自分に言い聞かせて決め込む二度寝に勝る快楽ってのを俺は知らないからな。さて、ミントがやかましく起こすまで寝ているか……。
「おい、起きろ。だらしがないぞ、アッシュ」
「……寝かしといてくれよ」
だが、その快楽に水を差す声、ハティだ。空き部屋を与えられたってのに俺の指輪の中が落ち着くからっての押し問答の末にこっちが折れたんだが、自分だって遅起きが多い癖に偶に早く起きた時は俺を起こしに掛かる。
「散歩だ! 散歩に行くから貴様も同行しろ!」
「朝っぱらから散歩散歩って犬かよ……」
どうもハティは散歩好きらしい。少なくても朝と夜の二回街中をブラブラしないと落ち着かないらしく、俺を誘うのは良いが早朝は勘弁して欲しいぜ。別に朝遅くても良いだろ。自分だって遅起きの時はそうしてるんだからよ。
眠くてたまらないのに起こしに来られ、だから思わず口から出た言葉なんだがどうやら相当気に召さなかったらしい。体を揺り動かす力が強くなって大きな声が聞こえて来た。
「誰が犬だ、誰が! 狼と呼べ、狼と! 全く貴様は……」
「悪かったよ。謝るから寝かしておいてくれ……」
目を開けないまま布団を頭から被る俺だがハティがどんな風に怒ってるかは想像が付く。出会ってから1ヶ月位が過ぎたし、何となく分かって来たよ。にしても犬は駄目で狼は良いって、何となく狼は格好良いから気持ちは分かるけどさ。
「駄目だ。ほら、窓を開けて空気を入れ換えるぞ!」
「頼むから暫く寝かせてくれ。何でも……いや、何でもない」
何でも言う事を聞く、そう口に仕掛けた俺は慌てて止める。何せハティの事だ。これ幸いにと行為を迫って来るに違いないからな。今は仲間だからと歯止めが効いているんだが、襲う口実を与えちまったら終わりだ。確かに仲間になって共闘もして好意は感じてるけれど、そういった行為に至るまでじゃないんだよな。
「……ちっ」
あっ、舌打ち。こりゃ口にしてたら本当に襲われていたなと一安心したのも束の間、カーテンを開ける音が聞こえた。布団の隙間から入り込んで来る朝日に思わず被った布団から顔を出して目を開ければ窓の前に立つハティの背中が目に入る。
シミ一つ無い白い肌。隙間風で揺れる絹の様な銀の髪。そして小振りで引き締まった尻。……全裸じゃねぇか!? おいおい、そんな格好で窓を開ける気かよ!?
「なにやってんだよ! カーテン閉めろ。窓を開けるな!」
「変な事を申すな。部屋の空気を入れ換えねばならんだろうに。……常識だぞ?」
「全裸で窓開けようとしてる奴に常識説かれたくないからな!? 寝間着はどうしたんだよ、寝間着は!」
身の回りの物を買いに行った時、渋るハティを説得して服を何着か購入したし、昨日の夜には着ていただろ! いや、着ていたって言うか、風呂から上がった時に体をちゃんと拭かずに首からタオルを下げただけの状態で出て来たからミントが着せたんだよな。
ああ、あの時も確か着ない理由を言ってたっけな。
「あの様な物は脱ぎ捨てた。私は服を着たくないと何度言わせる気なのだ。普段ドレスを着ているだけでも譲歩なのだぞ。なのに寝間着を着ろだの下着を付けろだの要求ばかりしよって」
「……あのなぁ」
窓の取っ手に手を掛けた所で手を止めて振り返れば胸部の双丘がブルンと揺れる。重量感を感じさせる動きを思わず目で追ってしまうが慌てて目を逸らした。向こうが見て良いってんなら見たいけれど、絶対調子に乗るからな。流石にそれは勘弁だわ。
「まあ、良い。ほら、空気を入れ換えるぞ」
「おい!?」
会話を切り上げて再び窓の方を向いたハティは止める間もなく窓を開け、外から通行人の騒ぎ声が聞こえて来た。ヤバい! 只でさえ呪いのせいで変な噂が立ってるのに、俺の部屋から裸の女が姿を見せるとか最悪だ。これ以上は阻止する為に引き戻すべく俺はベッドから飛び出してハティに手を伸ばす。
「ひゃんっ!?」
「……あ」
そして発動したのがラッキースケベの呪いだよ。足を滑らした俺の両手はハティの胸を背後から掴み、誘惑する癖にいざ触られたら弱いのか可愛らしい声が聞こえる。
「……可愛いな」
「きゃう!? な、何を言うのだ。このエロ主が!」
「おいおい、流石にそれは……」
予想外の反応に対してハティは赤面してる顔で振り向いて罵倒してくるけど普段の余裕は何処に行ったんだよ、此奴。攻めるのは得意だが攻められると弱いのか。ったく、それなのに全裸のまま窓を開けたり……やっちまった。
そうだよ。俺の今の状況を振り返ってみると、自室の窓を全裸の美少女が開き、その背後から胸を掴んだって状況だし、実は今も掴んでる上に気が付けば揉んでた。うん、ごく自然に揉むくらいに触り心地が良かったんだが、未だ早朝だけれど通行人は居るんだ。だって他の連中が邪魔にならない様にって朝から頑張る探求者は普通に居るから……。
窓の下を見れば露骨に視線を逸らして早足で去って行く同業者の姿。寧ろ何か言われた方が気が楽だったが、一人だけこっちの姿を見てる奴が。
「げっ! スコル!?」
そう。見た目は無表情な幼女だが実はハティの姉らしいスコルが少しだけ目を細め、微妙な表情を俺達に向けていた。き、気まずい……。
「どうすれば……」
「いや、いい加減窓閉めろや」
背後から聞こえたルノア姉ちゃんの声にハッとなる。そういや胸揉んだままだった。ハティは声を漏らすばかりで動こうとしないし、俺は慌てて窓を閉じる。少し息が荒くなったハティを見て思ったんだが……凄く色っぽいな。
「ったく、朝から盛って結構な事やな。どうせ一発ヤってもうて朝起きた勢いでって所やろ?」
「誤解だっ!?」
「……いや、五回もヤったとか報告されても……」
「違うからなっ!?」
今の状況からして勘違いされても仕方が無いけどよ! ……ん? ルノア姉ちゃん、笑ってる?
「えっと、まさか……」
「冗談に決まっとるやろ。ほら、飯にするで。お客さんも来たみたいやしな」
あっ、そうだよ。抗議は後でするとして、俺はスコルに教えれ貰いたい事が有ったんだ。この前戦ったばかりのクロウ・クロワッハが言っていた事も気になるし……。
「……いい加減、塔喰らいについて教えて貰わないとな」
ハティの奴はのらりくらりと誤魔化すし、スコルが教えてくれたら良いんだけどな。
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