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異世界恋愛 短編

宰相の息子ミカエルは華麗にフラグを捻じ曲げる

作者: 優木凛々


挿絵(By みてみん)




秋も深まりつつある、とある金曜日の午後。


聖ローズタニア学園の豪華な生徒会室に、3人の学生が入ってきた。


1人は、金髪碧眼と整った容姿が人目を惹く、この国の第一王子エドワード。

もう1人は、ややツンとした金髪碧眼の美女、王子の婚約者である公爵令嬢アントワネット。

最後の1人は、黒髪黒目が印象的な眼鏡の美青年、宰相の息子ミカエルだ。


ミカエルは、2人に向かいのソファに並んで座るように促すと、にこやかに言った。



「さあ、お2人とも。覚悟はよろしいですね?」


「くっ! まさかこんなことになろうとは」



悔しそうな顔で言うエドワード。

ミカエルは楽しそうに微笑んだ。



「何と言おうと、今回の総合テストの学年首位は私です。賭けは私の勝ちです」



実は、この3人。

今回の総合テストで賭けをしていたのだ。

ミカエルの入れ知恵を受け、エドワードがアントワネットに持ち掛けた。



「3人で賭けをして、一番成績の良かった者の言うことを他の2人が聞く、というのはどうだ?」



自らの成績に絶対の自信があったアントワネットは、この申出を快諾した。

常々エドワードに一言申したいと思っていたから、これはいい機会だ、と。


エドワードは、考えた。


ミカエルは、自分の配下だ。

空気を読んで手加減してくるに違いない。


となると、敵はアントワネットただ1人。

王子の威信にかけても、これは負けられん。


彼は、アントワネットに勝つべく、懸命に頑張った。

毎日図書館に通い、暗くなるまで勉強に励んだ。


しかし、蓋を開けてみれば、あら不思議。

なぜかミカエルが堂々の学年首位だった。


エドワードは口から魂が出そうになった。



(くそっ! 私の努力は一体何だったんだ!)



してやられた気分だが、ここまできたらもう後には引けない。

彼は、王子がしちゃいけない感じの仏頂面で、つっけんどんにミカエルに尋ねた。



「それで、命令は何だ? 早く言え」


「負けたのは事実ですわ。常識の範囲内であれば命令をお受けします」



アントワネットも諦めたように言う。


ミカエルは、ありがとうございます、と、言うと、どこからか4本の棒のようなものを出してきた。

それを、エドワードとアントワネットに2本ずつ手渡す。


2人は、その棒を手に取ると、不思議そうにしげしげとながめた。



「見たことがないな。何だこれは?」


「先の方に、〇と×が描かれたプレートがついていますわね」



ミカエルは、「はい、これは〇×札です」と答えると、にこやかに使い方を説明し始めた。



「この棒は右手と左手にそれぞれに持ちます。そして、もしも私の言うことが合っているならば、〇を。違っているならば×を挙げます。例えば、やってみましょう。


―――エドワード様、あなたは男ですか?」



エドワードが、なるほど、と、〇、を挙げた。



「そうです。その通りです。では、アントワネット様。―――あなたは男ですか?」


「×、ですわね。理解しましたわ。こうやって質問に答えていくのですね」


「はい。あと、私が許可しなければ、お2人とも発言ができません」


「発言は、許可制ということか。面倒だな」


「ちなみに質問は、お1人5問までとし、質問内容は国家機密や政治的なものを含まないことにします」



2人はホッとしたような顔をした。



「あくまで個人についての話ということだな。それならば5問程度答えてやろうではないか」


「お父様の仕事や政治的な話でないのならば、5問くらいかまわないですわ」



ミカエルは、にっこりと微笑んだ。



「では、3人で誓いましょう。私は、“ 5問を超える質問や、政治や国家、家の機密に関わる質問をしない “。

お2人は、“ 政治的国家的機密やそれに類似する話以外は、全て正直に答える “ 、と」



エドワードは鷹揚に頷いた。



「嘘は良くないからな。良いだろう。誓おう」


「はい。私も誓いますわ」



エドワードに合わせるように頷くアントワネット。


ミカエルは、眼鏡をくいっと上げると、満足気に頷いた。



「ありがとうございます。では、早速始めましょう」





* * *





ミカエルは、軽く息を吐くと、にこやかに尋ねた。



「では、アントワネット様に最初の質問です。

アントワネット様は、この学園の唯一の平民である、マリア嬢をご存じですか?」



意外過ぎるミカエルの質問。

アントワネットはピクリと表情を動かしたが、そのまま黙って、〇、を挙げる。



「大変結構です。では第2問です。

アントワネット様は、マリア嬢をいじめていると噂されていますが、本当ですか?」



憮然とした表情で、×、を挙げるアントワネット。

その札を見て、エドワードがガバッと立ち上がった。



「何を言う! お前はマリアをいじめている急先鋒じゃないか!」



ミカエルが、冷たい目でエドワードを見た。



「エドワード様。発言を許可しておりません。黙って座っていてください」


「し、しかし……」


「1位をとったのは私です。エドワード様に勝手な発言権はありません」



正論を言われて、渋々と座る、根が真面目なエドワード。

アントワネットは、深いため息をついて手をあげた。



「発言をお許し頂いても宜しいかしら?」


「では、発言を許可します。

アントワネット様はマリアをいじめていないとおっしゃるのですね?」



アントワネットは即答した。



「はい。いじめてなどおりません。私は教えて差し上げたのです」


「教えた、ですか」


「はい。ご存じの通り、貴族の間では、婚約者のいる殿方と2人で話すことは礼儀に反することです。しかし、あの方はそういったことをご存知なく、婚約者のいる令嬢達から良く思われておりませんでした。このまま放っておいたら、いじめに繋がるであろうと考え、教えて差し上げました」


「では、いじめていない、と?」


「はい。神に誓って、そういった事実はございません」



ミカエルが頷いた。



「なるほど。納得しました。確かに、私の目から見ても、彼女の態度は目に余りました。知らないことを教えてもらって、彼女も助かったのではないでしょうか」


「ええ、気を付けるようになって批判もかなり減りましたから、彼女も過ごしやすくなったと思いますわ」



エドワードは、口をポカンと開けた。


実は、今回の賭けの目的は、「アントワネットにマリアへのいじめを止めさせる」であった。

陰で平民をいじめるアントワネットに成績で勝ち、はっきりと「マリアに近づくな」と、言うつもりだったのだ。


しかし、アントワネットの話が本当ならば、いじめそのものが無かったということになる。



(そんなバカな)



焦ったエドワードは、手を挙げた。



「はい、エドワード様。発言を許可します」


「ということは、何か。アントワネットはマリアをいじめていなかった、ということか?」


「はい。もしも、あれがいじめであれば、家庭教師達は毎日壮絶ないじめをしていることになりますわ」



ミカエルも口を開いた。



「エドワード様。マリア嬢は平民です。恐らく礼儀作法の注意など受けたことがなかったのではないでしょうか。それで、びっくりして言い掛かりを付けられたような気持ちになったのかもしれません」



そうか、そうかもしれないな。と、小さく呟くエドワード。


ミカエルは、にっこりと笑って言った。



「さあ。次はエドワード様に質問です。

―――エドワード様は、平民マリアに恋しているという噂がありますが、本当ですか?」



何を言っているんだ、という顔で、×、を挙げるエドワード。

それを見て、今度はアントワネットが、ガバッ、と立ち上がった。



「え! そんな! 嘘……」



ミカエルが、笑顔でアントワネットを制した。



「アントワネット様。1位をとったのは私です。アントワネット様に発言権はありません。どうぞお座りください」



口を閉じて渋々と座るアントワネット。

ミカエルは、エドワードの方を向き直ると言った。



「エドワード様発言を許可します。第2問ですが、本当にエドワード様はマリアを好きではないのですか? 学校中でエドワード様がマリアにご執心だという噂になっていますよ?」


「まさか。マリアは平民だぞ? 困っているのが見過ごせずに構っているだけだ。平民であろうと貴族であろうと誰にでも親切に優しく、というのが王家のモットーだからな」



ミカエルは、そうですか、と言うと、眼鏡をクイッと上げて呟いた。



「なるほど。まだ無自覚段階ということですね」


「何か言ったか?」


「いえいえ。何でもありません。

―――では、続いてアントワネット様に3つ目の質問です」



エドワードの答えを聞いて考えるように黙っていたアントワネットが、顔を上げる。


ミカエルは、そんな彼女に意味深に微笑みかけると、ゆっくりと口を開いた。



「……アントワネット様は、エドワード様が好きですか?」


「っ!」



予想外の質問に驚き固まるエドワード。


アントワネットの顔がみるみるうちに赤くなった。

恥ずかし過ぎる、とでもいうように、両手で顔を覆う。


そして、葛藤するように小さく息を吐いた後。

彼女は震える手で、ゆっくりと、〇、を挙げた。



「なっ!」



大きく目を見開いてアントワネットを見るエドワード。

その視線を受けて、指先まで真っ赤になるアントワネット。


ミカエルは、にっこり笑った



「では、続けて第4問に行ってしまいましょう。

アントワネット様は、子供の頃からずっとエドワード様一筋で、辛いお妃教育もエドワード様と結婚できるから頑張ってきた。……そうですね?」



片手で赤い顔を隠しながら、そっと、〇、を挙げるアントワネット。


ミカエルは、うんうん、と頷いた



「そうですよね。相手が大好きじゃないと、あんな辛い妃教育は耐えられませんよね」



大きく頷くアントワネット。

感動したように、アントワネット、と、呟くエドワード。


ミカエルはクスリと笑うと、エドワードの方を向いた。



「では、エドワード様に第3問目です。

エドワード様は、アントワネット様が自分と一緒に国を動かすのにふさわしい后になると思っていますか?」



躊躇うことなく、〇、を挙げるエドワード。



「では、アントワネット様を女性として意識していますか?」



意を決したように、〇、を挙げるエドワード。

それを見て、アントワネットは目を潤ませた。



「エドワード様……」


「アントワネット……」



浮かされたような熱い瞳で見つめ合う2人。


ミカエルはにっこりと微笑んだ。



「さぁ。それでは最後に2人への質問です。

お2人は、これから2人だけでお話をしたいと思っていますか?」



一斉に上がる2枚の、〇。


ミカエルは小さく頷くと、笑顔で立ち上がった。



「それではエドワード様。ここからの予定は私の方から断っておきますので、どうぞゆっくりなさっていって下さい」


「ああ。頼む」


「アントワネット様はこれから何か予定はありますか?」


「いいえ、ありませんわ」



エドワードと見つめ合いながら答えるアントワネット。

その様子を見て、ミカエルは再びにっこりと微笑むと、ドアの前で丁寧にお辞儀をした。



「では、私はこれで失礼いたします」


「ありがとう。ミカエル。恩に着る」


「感謝しますわ。ミカエル様」







部屋の外に出ると、ミカエルはドアをもたれて、ふう、と、溜息をついた。



(まったく。あの2人も手間がかかるなあ)



冷静に本音で話し合えば、こうなるのは分かっていたのに、お互い虚勢を張って問題を拗らせた。

でも、もう大丈夫だろう。


ミカエルは体を起こすと、ググーッと伸びをした。



(さてさて。じゃあ、次の仕事に取りかかりますか)



ミカエルが歩き出そうとした、その時。



「ミカエル様!」



正面から、噂のマリアが近づいてきた。



「マリア!」



笑顔で手を振りながらマリアの方に歩み寄るミカエル。

マリアが首を傾げながら尋ねた。



「エドワード様を見ませんでした? これからお買い物に行く約束をしているんです」


「エドワード様なら、これから大切な用事があるので行けないと言っていました」


「そうなの……」


「でも、ご安心ください。代わりに私が付き合いますから」


「ほんと!? 嬉しい!」



笑顔のマリアに、ミカエルは満面の笑みで手を差し出した。



「もしも良ければ、明日もご一緒しませんか?」


「ごめんなさい……。明日は、カイン様と乗馬に行く予定になってるんです」



申し訳なさそうな表情で、騎士団長の息子カインの名前を口にするマリア。


ミカエルは眼鏡をくいッと上げて、微笑んだ。



「ああ。それでしたら、多分なくなりますよ」


「え? そうなんですか?」


「はい。私が潰すので」


「え?」


「いえ。多分そうなるんじゃないかな、という勘です」


「そうなんですか?」


「ええ。まあ、そんなことより早く行きましょう」


「はい!」



楽しそうに歩いて行く2人。



―――そして、次の日。


ミカエルの予想通り、カインはやんごとなき事情で多忙になり、マリアとミカエルは一緒に出掛けることになったという。






最後までお読みいただきありがとうございました。


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[良い点] 色々な意味でちゃっかりしておる。 これは次期宰相!
[良い点] 面白いです!!続編もよみたいくらい!
[良い点] 面白い! もうちょっと長い版で読みたいです! こんな短いのはもったいなさ過ぎます!
2021/12/18 13:25 退会済み
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