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召喚②

 最初に声を発したのは、魔王だった。

「仕方ない。最悪、民の命だけでも見逃してもらうとしよう。」

「っ陛下!それはなりません!」


 魔王は、犠牲になろうとしている。

 それを悟った幹部達は、必死に止める。


「そうは言っても、他に方法は無いであろう。四天王がやられたのだ。ならば余以外に勇者の相手になるものはおらんのだ。そして、王である余が民を見捨てるわけにはいかん。」

「しかし、それでは御身が!」

「なあに、まだ負けると決まったわけではない。お前達は、余を信じられんか?」

「そっそれは…」


 そう言われてしまえば、何も言えない。魔王がこの国でもっとも強いのは事実だからだ。しかし、魔王も幹部もわかってしまっている。勝てる見込みは薄いと。魔王ですら、四天王三人と精鋭数十名相手に一方的に勝つなど不可能なのだから。

 しかし他に、戦力になりそうな者もいない。精鋭達ですら、足手纏いにしかならない。


「さて、それでは…」

「お待ちください!」


 魔王が決定を言い渡そうとしたそのとき、幹部の一人が声をあげた。


「なんだ?まだ何かあるのか?」

「提案があります。」

「提案?」


 この、八方塞がりの状況で提案?魔王と他の幹部は疑問に満ちていた。他に何か手だてがあるのかと。


「禁術を、召喚術を使いましょう!」

「っ!しかしそれは、」

「はい。一か八かの危険な手です。」


 召喚術。それは遠く離れた場所から、何かを呼び出す術。召喚術にも色々あるが、その幹部が言っているのは異界から強者を召喚する術だ。女神ルーティアが勇者を召喚したのも、これと同種の術だと推測される。つまり、異界の勇者達を、異界の強者に倒してもらおうというわけだ。

 しかしリスクもある。そもそも異界の強者を召喚したとして、勇者に勝てるかどうかもわからない。さらに言えば、こちらの言うことを聞いてくれるかもわからない。召喚術はあくまで喚ぶ術であって、支配する術ではないのだ。

 最悪、異界の強者が勇者と結託して魔王の敵に回る可能性すらある。


「しかしこの状況では、例え強者が勇者の側についてもあまり変わりません。どっちにしろ、勝てる可能性は無いに等しいのですから。」

「ううむ。」


 魔王は悩んだ。魔王(自分)が勇者に勝つ可能性と、異界の強者が勇者を倒してくれる可能性。どちらが高いか。そして結論を出す。


「召喚術の準備をせよ。」


 召喚術の準備はすぐに整えた。何せいつ勇者が魔王城に到着するかわからない。そのために魔王城の秘宝すら使用し、無理矢理準備を速めた。勇者を倒せなければ、全てが無になるのだからと。


 そして、儀式が始まった。謁見の間に描かれた巨大な魔法陣。賢者の石などの貴重な補助具や触媒。十二人の特級召喚術師による大規模な召喚儀式だ。


 召喚術師達が声を揃えて詠唱し、魔法陣は光輝く。

 そして、謁見の間は眩い光に包まれ、誰もが目を閉じる。


 光が収まり、皆が目を開け、魔法陣の中央を見る。

 そこには、三人の人影が。


 見たことがない形式の服を着ている。

 袖口が広く、後ろから羽織るような構造で、形的には少し、魔法使いのローブに似ているだろうか。しかし真ん中の人影着るそれは、色鮮やかな模様やひらひらとした飾りがつき、とても華やかなな印象を受ける。

 対して左右の人影は、真ん中の人影より装飾の少ない純白の衣服を着ており、慎ましい雰囲気をかんじさせる。

 衣装から察するに、左右の二人は真ん中の人影の従者だろう。


 真ん中の人影は、綺麗な黒髪を後ろで一つ、前で二つに纏め、腰下にまでに垂らしている。

 対して従者らしき二人は、髪型は黒髪の主と同じだが色は衣服と同じ白。

 その純白の髪は、より主の漆黒の髪をひきたたせている。


 黒髪の主は、顔を不思議な模様の面で隠し、とても神秘的な雰囲気を漂わせおり、左右の従者も顔を白布で隠している。


 特徴的な姿をした三人だか、何より目立つのは頭の上の耳と腰の後ろ辺りから出ている尻尾だろう。左右の従者は四本、真ん中の主は九本の、大きな尻尾を持っている。


 そして最も重要なことだが、三人からは圧倒的強者の風格が感じられた。


 特に真ん中の人影は、他の二人以上の存在感を放っていた。

 それは、魔王ですら臆してしまうほどの。


「・・・」


 誰しもが声を発せないでいるなか、最初に声を出したのは。


「わっちを召喚したのは、ぬしさんらでありんすか?」


 真ん中の、黒髪の主だった。


「あ、ああ。そうだ。突然呼び出して申し訳なく思っている。」


 咄嗟に、気圧されながらも魔王は答える。

 今はまだ、敵か身方かわからない。だから対応を間違えるわけにはいかないのだ。


「それで、わっちを喚んだ理由は、なんざんす?」


「我が国は今、強大な敵に攻めこまれている。しかし、我が国の軍は軽く蹴散らされ、少数精鋭で当たっても時間稼ぎが精々。そこで最後の望みをかけ、異界から強者を招くことにした。」


「そして喚ばれたのが、わっちであると。」


「そうだ。」


「…その敵は、ぬしさんでも勝てんせんかぇ?」


 その問いに、魔王はどう答えるのが正解か一瞬悩み…正直に答えることにした。


「ああ、ほぼ不可能だろう。だからこそ、貴女を喚んだ。」


「なるほど。」


 そして、黒髪の主はしばし考える仕草をし、謁見の間には沈黙が流れる。そして


「それで、ゆしさんらは何がお望みでありんすか?」


「?何、とは?」


「もちろん、依頼の達成条件でありんす。ただ撃退するだけでいいのか、殲滅してほしいのか。または捕虜にしてほしいのか。それがわからなければ、動きようがありんせん。」


「!」


 達成条件を聞いてくる。ということはつまり、内容次第では受ける気があるということ。

 ここは慎重にならねばならない。そこで、魔王はまた少し考え…


「できれば殲滅か、捕虜にしたいが、無理は言わん。しかし最低でも撃退はしたい。」


 ここも正直になることにした。しかしそれで断られても嫌なので、最低限撃退はしてほしいと伝える。

 それを聞いた黒髪の主は再び考える仕草をし、口を開く。


「それなら、受けてみてもいいでありんすね。」


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