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日課

 その後、攻守を交互に入れ換えて組手をし、最後に試合をして三十分程で徒手格闘の修行は終わる。

 しかしすぐに次の修行が始まる。

 次は刀術の修行だ。


 師匠は引き続き空だ。

 最初は徒手格闘の時と同じように、攻守を交互に入れ換えて斬りあい、最後に試合をして終わる。

 時間もだいたい徒手格闘と同じくらい。


 修行はまだまだ続く。

 ただし次は、武術の類いではない。

 修行の場は台所。つまりは料理の修行だ。

 そして師匠は…


 〈それじゃあ、今日もはりきってやっていきましょうか。〉


 とてもほんわかとした雰囲気のお姉さん。“月”だ。

 月とは俺が5歳の時に出会った。

 朝起きたら枕元に、笑顔で正座していたのを覚えている。

 ちなみに俺の中にいる理由は、〈なんとなく私がついてないとダメなような気がして〉という、ダメ彼氏が好きそうな人が言いそうな理由だった。


 そんな月が俺に料理を教えるようになったのは、やっぱり女装が原因だった。

 〈女の子はやっぱり料理ができないとねぇ〉と言いながら、半強制的に俺に料理を手伝わせたんだ。

 初めはかなり嫌々やっていたが、今ではけっこう楽しくやってる。


 おかげで今ではかなりの腕前で、調理実習では『シェフ』と呼ばれ、家庭科の先生からは逆に教えてほしいとまで言われる程。

 月からも、〈ミシュランで星取れる腕前よ~〉と太鼓判を押された。


 まあそんな感じで、人並み以上にはできるようになったが、料理の修行は今日まで続いている。

 まあそれもそうだ。俺の腕ではまだまだ、月に敵わない。


 チラッと横を見る。

 まな板の上には、数種類の野菜が乗っており、その前には庖丁を構えた月が。

 そして、月の手が動くと、野菜はそれぞれ綺麗に切り揃えられ、それと同時に鍋に流れるように飛び込んでいった。

 ほんの一瞬の出来事だった。

 何より驚きなのは、一切の音がしなかったこと。

 野菜を切る音も、その野菜が鍋に飛び込む音も、全く。


 俺はまだまだ、この域まで達せそうにない。


 料理が終われば、次はもちろん食事だ。月と俺、そして“光”で料理を運んでいく。

 そこは広い、畳のしいてある和室だった。そこには座布団に数十人程が座っており、俺達はそれぞれの前に盆に乗った料理を置いていく。

 全員に配り終わると、みんな手を合わせて食べ始める。

 ちなみにうちには、朝食はみんな一緒に食べるという暗黙の了解がある。いつからかは忘れたが、なぜか自然とそうなってた。まあ些細なことだが。


()()()和室か。」

 {巫女服ですので。}


 俺の呟きに、光が答える。

 そう、実は毎日食べる場所が変わる。それも基本的には、その日の俺の服装に合わせた場所だ。

 今日は改造とはいえ、一応巫女服だ。確かに巫女なら和室で食べるだろうというイメージがある。


 ちなみに、いつも食べる場所を決めているのは光だ。

 たまに空や夜が気まぐれに口を出すことはあるが、基本的には光だ。

 実はそれにはわけがある。


 {蒼、リズムが乱れていますよ。}


 光がそう言うと同時に、俺の太腿を叩いてくる。

 痛い。

 実は食事も、修行の一環だ。

 師匠は光。

 光は、ある朝月との料理中にやってきた。

 確か、小2ぐらいだったか?

 {至高の淑女の原石、磨かなくては。}

 と言い、出会った当初から俺を至高の淑女とやらにしようとしている。


 そんな光は、メイド服を着た美少女の姿をとっている。

 顔は基本的に無表情で、少しキツめな顔をしている。そしてその教え方もかなり厳しいが、俺が淑女らしくなるごとに{ふんす}とすごく自慢気な顔をする。可愛い。


 以前、そのときの顔を可愛いと褒めたら、{ふん}と顔をそむけられた。

 後で空に聞くと、俺に可愛いと言われた後、一人でにやにやしていたらしい。見たかった。


 {何を考えているんです?}

「いや、何も?」

 {…}


 光が疑い深い目で見てくるが、気にせず食べる。

 朝食が終わると、月と一緒に皿洗い。

 そして、家事の修行だ。月は料理だけじゃなく、家事全般の師匠だ。洗濯、掃除、買い物、裁縫。

 どれもまだまだ月には敵わない。


 それが終われば師匠はまた光だ。至高の淑女としての所作を叩き込まれる。


 それが終われば…と、様々な師匠による様々な修行が待っている。

 得意な物もあれば、苦手な物もある。

 まあ全員の教え方が上手いのか、嫌いな修行が無いのは救いだな。

 俺はどちらかというと、体を動かす方が好きなのだが、頭を使う物もある。

 そういうのが苦手な物に入る。


 例えば、空に習っている物の中に、“氣”と“妖術”という二つの物がある。

 これらはどちらも、科学では説明のつかない技術なのだが、その性質は全く違う。

 氣は、ざっくり言うと生命力の固まりのような物で、肉体を補強したり治癒力を高めたりできる。

 対して妖術は、法則に干渉する術だ。

 結界を張ったり、火や水を出したりと様々なことができる。


 そして俺は、複雑怪奇な術式を構築する必要のある妖術より、感覚だよりな氣の方が得意だ。

 それから、体に動きを覚え込ます淑女の所作修行なんかは実は得意な部類だったりする。


 まあそんなこんなで、今日も日課である修行をしていたら昼食の時間になった。

 昼はたいてい月が料理を作ってくれ、光もあまり煩く言わないので楽だ。


 俺の日常はだいたいこんな感じ。

 たいへんと言えばたいへんだが、それ以上に楽しいこの日課が、俺は好きだ。




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