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魑魅魍魎

 神、悪魔、天使、妖怪、精霊。

 これら超常の存在は、実は現実にいる。

 ただし、人智の及ばぬ高次元世界に住んでいるため、めったに出会うことはない。


 そんな彼らは、数千年周期でこっち側の世界にやって来て、力を高めるために信仰や恐怖を集めたりしているらしい。


 けれど、それをしない例外もいる。

 信仰や恐怖など必要無いとし、自らの力のみで好き勝手生きる超常存在。

 それが魑魅魍魎達だ。


 普通の超常存在では難しい、次元を越えるという行為すら簡単にこなせる。

 そのため、その気になれば全人類から信仰されることも、恐怖されることも簡単なのに、だ。


 そんなヤバイ奴らがなんで俺の中にいるのか?

 正直に言えば、よくわからない。

 それぞれ一応理由を言ってくれているのだが、どれもフワッとしている。


 例えば、俺を毎朝日ノ出前に起こす“空”。

 こいつは、俺が物心つく前から俺の中にいる、こいつらのなかでも最古参組の一人だ。ではなぜ俺の中にいるのかと聞くと、返ってきた答えは『なんとなく居心地が良さそうだったから。』だった。


 それから、俺が女装することになった元凶である“夜”。

 こいつも空と同じくらい前からいる、最古参組の一人だ。俺が小学校に上がる前ぐらいに、どこかで聞いたのか女装という概念を知って、俺を女装させるようになった。

 そんな闇が俺の中にいる理由は、【面白い匂いがしたから。】だった。


 そして、闇が俺を女装させるようになってすぐ。どこで調べたのか男の娘という概念を学んで、空と一緒に俺を男の娘にした奴がいる。

 それが、最古参組の一人でもある“星”だ。

 アメリカかぶれな話し方をするこいつの理由は、 《ミーのセンスにビビッと来まして!》だっだ。


 他にも数十人程いるが、こんな感じのよくわからない理由の奴ばかりだった。

 全くもって意味が分からん。


『おーい。そろそろ時間じゃぞ。』

(あ、悪い。)


 おっと。長々と思考にふけってしまった。早く準備しないと。

 とある“部屋”に移動する。

 いや、そこは部屋とは言わないかもしれない。

 屋根や壁はなく、体育館のような床のみが延々と広がっている。空は淡い虹色で、摩訶不思議な雰囲気を放っている。


 ここは空が作り出した空間で、なんでも亜空間の一種らしい。

 詳しく説明すると長くなるので要約すると、とんでもなく広くて防音にも優れた何しても他人に迷惑がかからない部屋、のような物だ。


『準備はいいかの?』


 唐突に、妖艶な女の声がかかる。

 目の前には、いつのまにやら女性が立っていた。

 顔は恐ろしく整っており、美の女神すら裸足で逃げ出すのではないかとすら思わせる。

 豊満な胸や細い肢体などが構成する肉体は黄金比を体現し、触れることを躊躇わせる。

 その身を包む衣は、白と赤を主軸とした改造巫女服で…


「て、おそろかよ。」


 そう。その女性が着ていたのは俺とおそろいの改造巫女服。

 ただ俺と違うのは、胸の谷間を見せるように着崩していることか。


『たまにはこういうのもいいかと思うての。』

「まあ、似合ってるよ。」

『くくく、ありがとの。そういうお主も似合っておるぞ。』

「そりゃどうも。」


 さて、この女性の正体は、話し方から察する通り空だ。

 この人間の美女の姿は、空本来の姿とは多少違うが、今からすることのためにはこの方が都合が良いため、毎朝この時間はこの姿をとっている。


 では、こんなところで人形をとって俺と二人でやることとは何か?それは…


『では、始めるぞ。』


 空のその声とともに、あっという間に空気がはりつめる。

 それに俺は、無言で構えをとることで答える。

 そして…


「ッ!」


 一拍。呼吸を整え、床を滑るような足さばきで一瞬で間合いを詰め、拳をつき出す。が、空には軽く払われる。

 それはわかっていた。()()()()()()()()()

 その勢いのまま、俺は足払いをかける。だがそれは軽く避けられる。

 しかし俺は攻めるのをやめない。そこから肘打ち、掌打、蹴りへと繋げる。

 さらに攻めようとしたが、空に足を絡ませられて、撫でるように投げ飛ばされて、強制的に中断させられた。


 これで分かったと思う。

 ここで行われるのは、徒手格闘の修行だ。

 かれこれ10年以上続けている、毎朝の日課の一つだ。


 十年以上続けていればそれなりの腕前にはなるようで、少なくとも街のチンピラ三人ぐらいは軽くひねれた。

 空曰く、『単純な格闘技術のみでも世界一』だそうだ。

 まあ、本気の空には勝てたことが無いんだけどな?




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