発動しない魔法
蓮丈院遊月 AP0 VS 百恵セイラ AP0
「俺の先攻! まずはデッキからカードを一枚ドローする!」
マイクの先端に差し込んだデッキの上から一枚を手札に加えたことで、いよいよこの世界の摂理となるゲーム〈エンプリス〉が始まる。
ゲーム開始前に引いていた4枚の手札と、新たに加えた一枚をじっと見つめる。
このゲームには、主力となるコスチュームカードを出すのにコストとか制限とかはない。
つまり、何でも好きな衣装を場に出せるということだ。
それは、いきなり高得点の衣装を出しても許されるということだ。
ただ、最初に引いたカードを除いて、初期手札の五枚中全部がコスチュームなのは、いささか引きが悪いとはいえないのだろうか。
とはいえ、使えないカードがないわけではない。
「俺はまずこのコスチュームカードを出す! 〈エヴォルビンズトップス〉だ!」
その中から一枚を抜き取って、マイクから放出された極彩色に輝くプレートに乗せる。
その瞬間にカードを中心に、蜘蛛の巣状に別の虹色の線が駆け巡り、マイクの内部に備わった中枢に情報が瞬時に取り込まれる。
少女の手に収まるくらい小さな装置から、映写機の如く眩しい閃光が俺の躯に向かって放出される。
劈くほど痛く輝く映写の光は礼服の如く派手な制服を白に染め上げるほど必要に照射し続け、まるで存在を書き換えるが如くカードに描かれた衣装のイラストへと変貌させた。
「すごい! 本当に実体化した!」
前もって聞かされていたから想像は容易かったが、やはり実際の体感に勝る物はない。
映写させた仮装の映像で、本物の着物ではないのだが、瞬時に着替えさせられた自身の全貌を見渡す拍子に仮装衣装まで動く様は、本当に躯と密着させるほど着ている布製の服そのものだった。
天を貫く豆の大木をモチーフにしたのか、植物の蔓を連想させる捩れた表面と自然を強調しまくる葉緑の網状脈に似た乱れた模様がナチュラルさを出している。
「〈エヴォルビンズトップス〉は、確か自分の番なら一回だけ発動できる効果があるんだったな! 遠慮なく発動させる!」
一部のコスチュームには、魔法や能力のような強力なサポートとなる効果を持っている。
それがプレイヤーの助けとして機能したり、逆に仇になってしまうなど、内容は千差万別。
それはどのカードゲームにも言える常識のようなもの。
初手で出した〈エヴォルビンズトップス〉にも、APを加算させるだけじゃなく、十分にプレイヤーを有利にしてくれる効果も備わっている。
「〈エヴォルビンズトップス〉のコスチューム効果! 一ターンに一度、このコスチュームのAPを300ポイントアップさせる!」
これで俺のAPは合計950となる。
そのはずだが……。
「あれ?」
素っ頓狂な声を上げて、俺のAP数値をカウントするスキャナーに目を移す。
デジタル表記の液晶画面に刻まれたAPの数値は、なんと効果を使う前の650ポイントのままだった。
意気揚々と宣言したものの、しばらく場が白けた時のような空しい空気が流れた。
発動を命じたのに効果音どころか、変化が起きたことを目で教えてくれるようなことが、何も起こらなかったのだ。
「効果が発動してないだと?」
「あたりまえだ……」
スキャナーの故障を疑う俺に、キャットウォークから眺めていたマーサが顔を押さえてあきれ果てていた。
「そのコスチュームはある条件を満たさないと、効果を発動できないんだ」
「そ、そうなのか?」
言われてみれば、カードに描かれた衣装の色と、今きている俺の衣装とはデザインこそ同じだが、色合いが全然違う。
カードに描かれている衣装の方は随分と青々しい色だが、実体化した俺の体に纏われているは、生気がまるで感じられない灰色みたいな色になっている。
条件が必要だとはいったが、まさか覚醒を経ないとダメな衣装なんて。
ずいぶんとピーキーな性能だな。
確かにテキストをちゃんと確認してなかった俺にも落ち度はあるが、残る三人の目が「本当に自分が何も覚えていない」という事実を突きつけられて落胆している冷めた視線で見つめてくる。
そんな無言でがっかりされても、そもそも俺は遊月じゃない。
「俺はこれでターンエンド……いや、チェンジだ」
コーデは1ターンに一度しか出来ない。
おまけに手札にはコスチュームカードと、さっきのドローで引いたはいいものの、使いどころがわからないカードしかない。
完全に出来ることがなくなった俺は、もはやセイラに手番を明け渡すしかなかった。
蓮丈院遊月 AP650 VS 百恵セイラ AP0
「わたしのターンです」
さっきまでの優しくてふわふわした表情から一転して、真剣な眼差しで対峙するセイラがずいぶんと絵になるほど見事な手さばきでデッキからカードを引く。
「わたしは〈スイーツリパブリック ホワイトップシュガーシューズ〉をコーデします」
続くメインフェイズ時にセイラがカードの一枚をスキャナーに置いた途端、今度はセイラの両足が虹色の光に包まれる。
一瞬の内に虹色の光がはれた途端、黒艶のローファーから、角砂糖を模した装飾が靴ひもにつけられた白くて丸っこい靴へと履き替えられていた。
(俺のコスチュームよりAPが低いだと?)
肝心のAPを見ると450ポイント。
自分のより200ポイント少ない衣装をセイラはわざわざ出してきた。
「わたしもこれでターンをチェンジします」
それどころかセイラは迎撃用の罠どころか、特殊効果も発動させずにターンを明け渡した。
蓮丈院遊月 AP650 VS 百恵セイラ AP450
「俺のターン!」
考えても仕方がない。
手番が回ってきた以上はやってきたフェイズに従うしかない。
新しく追加されたことで手札は4枚。
しかし、次に来たカードはコスチュームとは別のカードだった。
「まずはカードを一枚伏せる」
表向きに出したコスチュームと違って、俺は相手に見えない用に裏向きのままその一枚をスキャナーにおいた。
それに併せて、俺の足下に畳ほどの面積を持つ巨大化したカードが実体化された。
場には出したが、コスチュームのようにすぐ影響がでるカードではない。
だが、今は使い時ではない。いわばそのときの為の準備だ。
「続けて〈セクシャルナーススカート〉をコーデ!」
上半身もといトップスの隣に並べて出したのはスカート。
仮想映像で着替えられた上着の下で、今度は灰色のスカートが、いろんな意味でぎりぎりのナーススカートに変化した。
こんな短いのアダルトビデオでしか見たことがない。
「今度は条件ばっちりだ! 〈セクシャルナーススカート〉の特殊効果! このコスチュームが場に出たとき、俺のAPを300ポイントアップさせる!」
宣告にあわせてスカートが輝かしいオーラをまとうと、スキャナーに表記されたAPの数値がさらに上昇していくのが見えた。
よかった。今度は間違いなく発動したみたいだ。
「このまま着実にアピールポイントを上げさせてもらうぞ。ターンチェンジだ」
蓮丈院AP1450 VS セイラAP450
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