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紅蓮の翼〈エヴォルフェネクスワンピ〉

蓮丈院遊月 AP550 VS 藤丸エルド AP2650



「俺のターン!」



 見えてきた。


 運命の分岐点が。


 手繰り寄せれば掴める勝利の流れが。



「〈エヴォルフェネクスワンピ〉の効果!」


 発動を命じられた新たな切り札〈エヴォルフェネクスワンピ〉が、着主の命令に従うことを喜ぶように、背後に燃える炎の翼を広げさせる。



「一ターンに一度、ランドリーから〈ブラッデルセン〉コスチュームを追加コーデさせる! この効果で復活したコスチュームは、既に元々の色がついた状態として扱う!」



 翼から零れる火の粉が両足に降り注ぎ、一瞬だけ炎の靴になるほど紅蓮の炎で包むと、あっという間に一組の白いブーツへと変化した。



「蘇れ! 〈ブラッデルセン エヴォルストークブーツ〉!」



〈ヤマトカミカゼ オスシワンピ〉の発動コストでデッキからランドリーに送っていた三枚目。


 コウノトリの名前を冠した靴が、不死鳥の一声に誘われ冷たい洗濯籠から蘇えった。



「そして〈テトリクスジュエル クラックハートヘアアクセ〉を通常コーデ!」



 ワンピ、シューズ、そしてヘアアクセとして三着目に出したのは、蓮丈院遊月がもっとも得意とするコンボの要となる既に罅の入ったハートの髪飾りだ。



「そうはさせん! アクシデント発生! 〈パラディオン メデューサの盾〉! 相手コスチューム一着の効果を無効にし、APを0にする! さらにこのカードの対象になったコスチュームは、自分のターンから数えて三ターンの間、互いの効果でランドリーに送られない!」



 遊月の定番コンボへと繋ぐ一枚の登場に何かを予見したのか、エルドがここで一枚のアクシデントカードを起こす。


 目を合わせた物を石に変える呪いの目を持ったメデューサ。


 その首を盾に仕込んだ戦女神の盾に倣ったカード効果らしく、文字通りこちらのコスチュームを石に変えるつもりらしい。



「この瞬間! 〈エヴォルフェネクスワンピ〉のさらなる効果を発動!」


「――なんだと!」


「相手が効果を発動させたとき、自分の場のアクセサリーまたはアンダーを退場させることで、その効果を無効にしランドリーに送る!」



 相手の衣装を石にする効果を発動させるつもりが、皮肉にも無効にされたことで、逆に石にされたメデューサの盾があっけなく崩れる。



「そして! ランドリーに送られた〈クラックハートヘアアクセ〉は、二つの〈ハートピーストークン〉として追加コーデされる!」



 一枚を破壊しても二つになって戻る。


〈エヴォルスワンワンピ〉の効果を連続使用させるための糧が、さらに進化した不死鳥の羽として生き続けていた。


 やっと手に入った完全なる防御効果。


 これによって〈女帝〉藤丸エルドの完璧な戦略に、強力な牽制をかけることが叶った。



「何がどうなったのかわかんないが、いけるぞ遊月ィ!」


「勝ってくださいッ! 遊月さんッ!」



 顔が涙でクシャクシャになるほど叫ぶマーサとセイラの応援を筆頭に、それまで静観していた野次馬立ちからも遊月の名で声援を送る。


 見えてるか! 聞こえているか、蓮丈院遊月。

 

 これはお前が自分で広げた翼!


 お前が広げた希望だ!


 お前が文字通り心血注いだカード達が弱いんじゃない。


 そして、そんなピーキーな性能を持ったカードを巧みに扱うお前の技術も、劣っていたわけがない。


 ただ、お前の心が弱かっただけだ。


 学園トップなんて、あんな小さい玉座を守るために、プライドを安くしてまで、さらに上へと踏み出す勇気がなかった。


 強大すぎる上がいたからこそ立ち向かうことを諦め、勝手に自分で限界を作って満足して、自分の評価を顧みず下ばかり構って保身に走った。


 それが役割でもない、本物のお前自身だ。


 だが、これでお互いに実感したはずだ。


 蓮丈院遊月に限界なんてない。


 あとは目の前の最強を倒して、脚本が強いた破滅へのレールから逸らすだけだ。



 見ておけよ遊月、これが俺の――いや、お前の魂が籠もったデッキの意地だ!



「〈エヴォルストークブーツ〉の効果発動!」



 相手が歌ったミュージックカードの数だけ、仕返しに相手の場のカードをランドリーに送る効果を右足に込め、淡く透明な白い羽根が混じるオーラを滾らせて俺はぐっと足を引き絞る。



「うぉおおおりやあああああッ!」


 今まで食らわされた恨みを込めて。


 この一蹴で全ての鬱憤を晴らすつもりで、俺は空を切るほどの勢いで右足を蹴り回した。


 豪快に右足を振ってから一泊遅れて、雪のように白い靴からでるとは思えないくらい真っ赤な波動がエルドをめがけて飛んだ。


 一の字に描いた渾身の一蹴は、とっさに顔を両腕で防いだエルドの体をすり抜けて、背後に聳える校舎を真っ二つになるほど壊した。



「フフフ……」



 直撃したはずのエルドがほくそ笑む。


 効果は直撃したはずなのに、一着も脱がされていないところを見ると、やはりそう簡単に効果を通してはくれない。


 それを暗示させるように、顔を覆っていた腕から一枚のカードが粒子となって散りながら墜ちていくのが見えた。


 恐らくあれは、手札から捨てることで相手から及ぶ全体効果を相殺させるカードなのだろう。



「私にこの手を使わせるとは……。だが、やっと面白くなってきた」



 エルドの顔から俺への軽蔑が消えた。


 スキャナーを構え直しながら勝ち気に微笑むその顔には、この俺を本気で戦うに値する相手を見つけたことへの期待で輝いて見えた。



「カードを一枚伏せて、ターンチェンジ!」


 これでやっと同じ土俵に立つことができた。


 本当の勝負はこれからだ。



蓮丈院遊月 AP1200 VS 藤丸エルド AP2650


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