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プリズムストリームが起こした奇跡

「な、なんだ……?」


「――ッ!」



 その時、よろけかけた俺の背中を押して支えるように、虹色を帯びた一陣の風が吹き抜けた。


 エルドの意志ではないということはカードによって形成したステージの演出から出た風ではない。その強すぎる突風は、これからカードを発動させようとしたエルドの動きを思わず止めてしまうほど吹き抜ける。


 今度は俺に、虹色の追い風が吹いている。



「プリズムストリームが……遊月さんに吹いている?」


「これは、何が起きてんの?」



 今まで見たことのない風の吹き方に、ティーナとマイリー達主人公一派が目を丸くする。


 突然吹き荒れる風の中で、俺のスキャナーにも変化が起こる。


 俺は何も操作をしていない。


 それなのにランドリーに当たる挿入口から一枚のカードが勝手に飛び出し、今なお吹いている風に運ばれたというか、見えない何者かの手によって動かされたかのように、読込盤の上にそのカードをおいた。


 勝手に飛び出した一枚のカードは、スキャナーによって正確に読み込まれ、丸腰の俺に一着の衣装を着せた。



「破壊された〈オスシワンピ〉の効果が発動したのか?」


「でも、あの衣装は一体……」



 遊月のデッキを一番近くで見ていたマーサやセイラにも、予想のできないことが起きている。


 ランドリーから出てきたということは、あの時〈オスシワンピ〉の効果でランドリーに送った三枚のうち一枚に混じっていたとしか考えられない。


 この無謀な決闘の前に、藤丸エルド対策としていくらか別のカードと入れ替えていた。


 だが、このコスチュームカードを入れた覚えはない。


 それどころか、一枚のカードが持ち主の意志とは無関係に動き、着主に強引に着せるなんてありえるのか。


 脱がされた〈オスシワンピ〉が発動させた効果で、蘇らせたのは効果のないノーマルコスチューム――正確には色が無く効果を失った〈ブラッデルセンブラッド〉のコスチューム。


 この流れに既視感がある。


 そうだ、あれは俺が初めて、遊月のデッキを持ってエンプリスに触った時にも同じことが起きていた。


 セイラはあの時、効果を受けた弾みで咄嗟に選んだと言っていたが、実のところを言うと意識が飛んでいた俺が選んで来たという記憶はなかったのだから。



「デッキが応えてくれるって、こういう応え方もしてくれるのか」



 俺はそっとデッキが納められたスキャナーを撫でる。


 さっき、俺には心の底から信頼できる仲間はいないと言った。


 でも、どうも違うらしい。


 そうだったな。


 初めてお前達を使ったときに約束したな。


 お前達を本当の蓮丈院遊月のところに必ず返すと。


 そして、デッキの中には遊月だけじゃない。


 本物の遊月の帰りを待っているセイラやマーサが、希望をカードとして貸してくれていた。


 こいつらは玩具でも単なる武器じゃない。


 持ち主の魂が違っても、それでも力を貸してくれる仲間たちだ。


 アニメで散々言っていた、謎の根性論も案外バカにできないもんだ。



「忘却した過去を取り戻すよりも、未来を欲する切望にプリズムストリームが応えたというのか? いや違う。肌に触れるこのプリズムストリームの雄々しい熱さと、気高き刺激は……。二つの異なる感情が混ざり合っているだと……」



 そして、デッキ達が強引な形ながら応えてくれるということで、一つ確信した。


 本物の蓮丈院遊月の魂は、俺の中にいる。


 俺に上書きされたわけでも、抜かれたわけでもない。


 俺の記憶がフェズに封じられているように、こいつの魂も体の底で眠っている。


 それが今、少しずつだがデッキを通して、俺に力を貸してくれている。


 この意図せずデッキに入っていた一枚こそが、本物の蓮丈院遊月から藤丸エルドへ――いや己への運命に示す答えの代わりだ。



「貴公の勇気にプリズムストリームが答えたようだな。だが勇気と無謀は紙一重!」



 突如、出現した未知のコスチュームに何かを感じたのか、ゲーム続行に乗ったエルドは先に二枚のアクシデントを伏せてから、改めて手札から一枚を引き抜いた。



「ミュージック発動〈メテオル〉! 〈アイギスバレッタ〉が存在する場合、手札を一枚捨てることで相手コスチュームを全て破壊する!」



 曲の発動と同時に、コストとして捨てるはずの手札がエルドの手の中で雷の槍となって形を変えてゆく。



「今その血の抜けた体を楽にしてやる! 病床でその二つの違いを今一度学び直すがいい、蓮丈院遊月!」



 天から裁きを表現した一筋の雷を握りしめ、エルドはそれを投槍の如く投げつけた。


 紫電を弾かせながら空を貫く雷撃が、俺の顔面へと突き進む。



「いいや、遊月は床にも地にも墜とさせない!」



 見るもの全てが息を呑んでいる最中、紙一重の所で俺の鼻先に触れかる寸前に、その一撃は霞となって消滅した。



「――なにッ!」


「この俺が天より高いところへ連れて行く!」



 雷撃を無にしたタネを明かすように、俺の前で壁として立ち上がっていた一枚のカードが、迷彩を溶かすように徐々にその正体を表した。



「アクシデント発生。〈ブラッドセキュレーション〉」



 発動条件に消費する手札を捨てる代わりに握りつぶすと、手の中でつぶれるはずの紙がドロリとした赤黒い液体となって指の隙間から溢れ出した。


 その生暖かい体液を掌に塗りたくった絵の具の如く、色紙代わりに色のない衣装にべったりと真っ赤な手跡をつけると、まるで渇望のさなかにようやく水を得られた生き物のように嬉々としてそれを吸収してゆく。


 もうこれ以上、血を失えない代わりに捻出した疑似血液を吸ったコスチュームが、徐々に生気を取り戻してゆく。



「【飾血】覚醒! 〈ブラッデルセン エヴォルフェネクスワンピ〉!」



 不屈の先に麗しさを得た白鳥の衣装よりも、さらに凛々しく、厳かな気高さの中に野蛮な熱さを込めた新しい衣装が、さらなる高見を目指すために翼を広げてゆく。



「すごい! これが遊月さんの力!」


「あいつ、あんな隠し玉を持ってたなんて!」



 遊月の背から羽ばたく炎の翼を見たことで、ティーナやマイリーどころか、集っていた生徒全員の心にも、絶望から一転して希望が灯る。



蓮丈院遊月 AP550 VS 藤丸エルド AP2650


ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。


「面白かった!」

「続きが気になる!」

「いいから早く決闘しろよ」


と思った方は、下にあります☆☆☆☆☆から、作品の応援をよろしくお願いいたします。

また、誤字脱字、設定の矛盾点の報告など何でもかまいませんので、

思ったことがあれば遠慮無く言っていただけると幸いです。


あとブックマークもいただけるとうれしいです。


細々と続きを重ねて行きますので、今後ともよろしくお願いします!

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