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なによりも血液が足りない

蓮丈院遊月 AP400 VS 藤丸エルド AP2650


 勝てない。


 強すぎる。


 吹き飛ばされた拍子に神殿の陰に隠れた俺は、とりあえず息だけを整えようと自分を落ち着かせる。


 今までモブキャラや画面の外のファン達が持て囃した故に作中で最強という称号が付いていたキャラクターだが、それが一人の人間として実際に対決するとなると、ゲームでレベルの違う相手と間違って対戦する時以上の、緊張と気迫で心身がやられる。


 最強無敗、公式チート、マジもんのプロフェッショナル。


 そんな化け物とリアルという場で真剣に対決するのが、こんなに辛いとは思わなかった。



「随分な無茶」



 鈴の音が鳴ったような声をかけられ、思わず身構えると、そこには神出鬼没のフェズが立っていた。


 見つかったのがエルドではなくフェズだったことに、俺は腰が抜けかけた。



「お前らがお話の流れを変えろって言ったんだろ!」


「関心、関心」



 驚かされたことに俺が怒鳴りながら文句を叫ぶも、フェズは無表情ながらどこか満足しているような口振りで軽くいなす。



「くそッ! 記憶を奪って従わせてまで協力を仰いだ割には、肝心の俺にはジェネともみたいなレアカードとかくれないのかよ!」



 だが、こいつはフェズの言うとおり確かに随分な無謀だったか。


 目測を誤ったというべきか、それともラスボスのフェズを倒せて調子に乗ったせいなのか。


 物語の分岐点を帰るために、藤丸エルドに喧嘩を売ったのは、明らかにミスだったのだろうか。


 そもそも戦う相手を間違えたか、そんな弱気な後悔をするくらい奴は強すぎる。



「それがなくてもあなた達は強い」



 フェズは勝ち気を失った俺の思考を読みとったかのか、後悔の末に自分で負けを確信しかける俺を、レアカードが無くとも強いと言い切った。



「なんだと?」


「あなたが武器として使うそのデッキは、そもそも蓮丈院遊月のもの」


「あたりまえだ!」



 対藤丸エルド様に一部のカードを変えたとはいえ、根本的な部分は変えていない。


 ぶっちゃけると使い方や回し方を者にするだけでも時間かかったのに、れっきとした藤丸エルド対策用のカードや戦略用に調整できるほどのカード知識までもが培われたわけでもない。



「この世界で生きる人間は、あなたにとっては漫画のキャラクターでしかないかもしれない。でも、実際はあなたが生きていた現実の世界と同じ、個性を持つ生きた人間。制作会社が物語の展開のために作った操り人形じゃない。つまりデッキは蓮丈院遊月という一人の人間が魂を込めて作ったもの。それに込められた彼女の真意を読み取れれば、デッキは応えてくれる」


「人間として真意を読み取れって……」



 エルドで運命を変えようとした俺の行動を無茶だと簡単に言った割には、こいつもこいつで無茶を簡単に言ってくれる。



「そんな余裕あるか! こっちは自分自身ですら何一つわかっていないのに! だいたい、今さらデッキコンセプトを理解したところで、あんな化け物にかてるか!」


「プリズムストリームは、心の煌めきを持ったアイドル達の伝えたい思いや願いが強ければ強いほど、それに答えて形にしてくれる」



 言い争っているうちに、今になって藤丸エルドの発する驚異的な気迫が肩にのし掛かった。


 いつのまにこんな近くに。


 反射的に気配のする方向へと頭を向けると、そこには純白のパンツを恥じることなく見せるほど垂直に踵を上げた藤丸エルドの姿が見えた。


 古代の巨人を葬るために武器として投げられた島による一撃。


 その名の通り〈エラケンドゥスへの一島〉の効果を得た〈ミネルキルシェシューズ〉の一掃。


 それによって俺は体にまとっていた寿司ネタ達が鱗の如く剥がされ、再び一糸纏わぬままこの雲島から次なる雲の島へと追いやられた。


 次なる雲の島は神殿ではなく石畳の広がる噴水の広場。


 そこまで蹴飛ばされた上に地表でボールの如く転がる俺を、噴水が受け止めた。


 その噴水はちゃんと質量があるのか、ぶつかった拍子に激痛が走る。


 そんな悶絶する持ち主の気も知らないで、ただカードが動いたことで発動できる効果があるとスキャナーが単調に音だけならして告げる。


 これが自分の生死に関わることじゃあなければ即降参していたのに。


 勝てる妙案があるわけではないし、次なる勝ち筋がデッキに眠っているとも思えないが、俺は乾きかけた鼻血を拭って、ただこのまま負けるわけにはいかない意地だけで強引に立ち上がった。



「〈エヴォルビーンピンズ〉が、破壊されたことで俺はカードを……」



 デッキトップに指をかけようとしたとき、急に俺の視界に黒い反転がぽつぽつとわきだし、それと同時にくらりと意識が遠のきかけた。



「うぅ、ぐっ……マズイ……やり過ぎた……」



 フェズの時以上にコスチューム達に血をやりすぎた反動なのか、重くなった頭に手を押さえている間に膝から力が抜け、情けないことに俺はそのまま冷たい石床の上に倒れた。


 そうしているうちにエルドもこの雲島へと飛び移り、倒れる俺のそばまで歩み寄ってくる。


 奴が来ている。


 立ち上がらなければならないのに、今は寝返りすらまともに打てないほど体が言うことを聞いてくれない。



「過剰な【飾血】で貧血か。己の管理を怠るとは無様だな」



 その言葉を皮切りに、この舞台を広げた張本人の心を表すかのように、お互いの戦場として放り込まれた「天空の聖」が崩壊した。


 正確には魔法が溶けたともいうべきか、幻想というハリボテが剥がれて、この戦場は本来の場所である【ユーバメンシュ】養成学園の敷地へと戻った。


 いつの間にか俺たちは生徒会室から本当に噴水が備えられた中庭へと移っていたようだ。


 エルドに喧嘩を売る前から雲行きが怪しいとおもっていたが、見下ろす空まで何か言いたげにほの暗い曇天へと悪化していた。


 プリズムストリームで作られた舞台でもかなり暴れたわけだから本来の現実にもバカ騒ぎというレベルで影響を及ぼしていたらしく、俺達の――というか一方的なエルド劇場を見に来た野次馬たちに囲まれていた。


 その雑踏の中には、当然追いかけてきたマーサやセイラ。


 ついでに主人公のティーナ・遊館・ジェイデンに、その親友にしてエルドの親類であるマイリー。ちゃっかりギャラリー側についていたフェズ=ホビルクの姿もあった。


 舞台が消えたが、盤上から剥がされて消えたわけではない。


 ただ演出が切れただけで、ゲームそのものは終わっていない。


 だが、エルドがその演出を解いたということは、こちらに諦念を促す勧告のつもりらしい。

ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。


「面白かった!」

「続きが気になる!」

「いいから早く決闘しろよ」


と思った方は、下にあります☆☆☆☆☆から、作品の応援をよろしくお願いいたします。

また、誤字脱字、設定の矛盾点の報告など何でもかまいませんので、

思ったことがあれば遠慮無く言っていただけると幸いです。


あとブックマークもいただけるとうれしいです。


細々と続きを重ねて行きますので、今後ともよろしくお願いします!

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