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残された寿命は、あと10話

「承諾する前に、一つだけ教えて欲しいことがある」



 送り込まれた後に託された使命は渋々理解するしかなかったが、全てが結果になってしまった以上は逆らうことはしない。


 だが、俺には俺だけの、世界の命運よりも重大な情報を訊かなければならない。


 俺はフェズの胸ぐらをつかみ、ぐっと鼻先まで顔を寄せて尋ねた。



「俺は誰だ。この世界に連れてこられるまでの間に、俺に何があった」


「言えない」



 遊月の柳眉を逆なでさせ、気圧すつもりで尋問されても、フェズには通じてないほど涼しい顔で即答する。



「いえないだと? なぜだ?」


「――今のあなたには、不要な情報だから」


「俺自身の情報が、なぜ不要なんだ?」



 今までつらつらと小難しい注釈を挟んでいたくせに、この話題に関してフェズは頑なに話そうとしなかった。



「もう一度聞く。俺は一体誰なんだ。お前らにとっては任務を遂行するためにはいらぬことかもしれん。だが、俺にとっては命と同じくらい大事な自分自身なんだ。利害は一致しているし、この際生き残るためにはそっちの使命とやらに全力を尽くす。だがら返してくれ、俺自身を!」



 自分自身を認識できる記憶を奪われたことを怒り任せに訴えるはずが、フェズに向かって懇願する俺の声はもはや慟哭に近かった。



「言うことはできない。上層部からは禁止事項になっていないけど、私達の口からあなたに伝えることはできない」


「非常な話で申し訳ないが、儂らの独断で貴公を従わせるために、貴公のアイデンティティを人質にさせてもらう」



 力みすぎてわなわなと震えている俺の手を払うように、マスコットが小さく身体をぶつけて、皺になってしまったフェズの襟を解放させた。


 あれほど協力しなければ死ぬと脅かしておきながら、今更人質として俺を利用するための担保を用意するとは。


 無理矢理話を切るために堂々と矛盾を言い放って突っぱねるマスコットだが、自身も非常に徹せないのか、今思いついたような脅迫からわざとらしさが鼻につく。



「俺の記憶を返して欲しければ、言うとおりにしろと言うことか」



 腹の中で毒づいている言葉を顔に出しながら、俺は露骨に舌打ちをして踵を返した。



「この事件の一部は、あなた自身の手で解決しないといけない宿命にあるのよ」


「どういうことだ?」


 やけに感情が入った口調でフェズがかけた言葉に、尋ね返した俺が振り返ると、奴らはとっくに姿を消していた。


 それを皮切りにフェズによって別の空間へ隔離させる術も溶けたのか、気がついた時にはいつも通り歩み続ける人混みの中に俺は取り残されていた。


 シーンとしていた静寂は足音や車の走る音によって破られ続け、街頭は普通に点灯し、夕日は徐々に沈んでゆく。


 あれほど、お芝居のために用意された粗悪な舞台だと蔑まれた作り物の世界なのに、当たり前の生活が俺を取り囲っていた。



「こういう場合、サポートしてカードの一枚でも支給してくれるはずなんだがな」



 皮肉を漏らしながら空を見上げても、誰も何も答えてくれない。



 まるで覚めない夢の中に閉じこめられたような感覚だ。


 あのマスコットやフェズの話が本当なら、今すれ違った奴も、目があった奴も、本当に役目を終えたら煙の様に消えてしまうのだろうか。


 真偽を確かめたいところだが、そんな余裕は与えられていない。


 どのみち俺が元の世界に帰るためには、奴らのいう任務を全うしなければならない。


 舞台から退場してしまう蓮丈院遊月の必要性と存在感を保ち続けること。


 そして蓮丈院遊月に課せられた余命は――あと数日もとい残り10話。


 何も実感はないのに、死は目の前まで迫っているらしい。

ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。


「面白かった!」

「続きが気になる!」

「いいから早く決闘しろよ」


と思った方は、下にあります☆☆☆☆☆から、作品の応援をよろしくお願いいたします。

また、誤字脱字、設定の矛盾点の報告など何でもかまいませんので、

思ったことがあれば遠慮無く言っていただけると幸いです。


あとブックマークもいただけるとうれしいです。


細々と続きを重ねて行きますので、今後ともよろしくお願いします!

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