汚染されたプリズムストリーム―Dストリームの脅威
「さて、本題はここからじゃ」
なにげに進行に慣れた感じで、孔雀は理解や納得の有無に関わらず話を進ませる。
「もう理解したことを前提で話すが、【煌天界】を中心にプリズムストリームで繋がれた世界は、貴公がさらったアニメに加えて未履修分のシリーズの数以上に存在する。本当なら、この世界もまた《煌めき》を広め終えた世界の一つである――はずだった」
「はずだった?」
堂々と説明していた孔雀が、ここに来て目を伏せた。
「率直に言わせてもらおう。ここは貴公が【メガミ・リンカネーション】と呼ぶ世界を模したコピー、いわゆるレプリカたる世界だ」
俺は少し眩暈を覚えた。ただでさえ、知らなかった世界の本来の常識を一気に叩き込まれ、頭がまだ理解を受け入れずに混乱しているというのに。それに加えて異常事態の話をされては、余計にこんがらがってしまう。
「レプリカだと? この世界そのものがコピーされた偽物の世界だというのか」
「そうじゃ。住民、歴史、文化、未来、システム、特徴、そしてカード。まるで焼き増しされた記憶媒体の様に、一つの世界に詰め込まれた全てが、何から何まで一致しておる」
「一体、何のために」
「わからない」
フェズが答えた。
該当するキーワードから検索結果が出なかった検索機の様に淡々と。
「わからないって……」
「わからないが、一つだけ判明したことがある」
「ある一つの世界と、この模倣世界がプリズムストリームで不正接続された」
じらしも間髪も入れずに、フェズが率直に判明した答えを先に答えた。
「おそらく、この世界を作った奴が、このレプリカ世界でもオリジナル世界と同様に〈エンプリス〉ができるように、かつ【煌天界】に存在を悟られないように、他の世界からプリズムストリームを盗み取ったようじゃ」
「隣家の電源にコードを無断で差し込んで、節約と称して厚かましく盗電している自称倹約家みたいにか。だが何のために?」
「動機がわかれば、我々はこうして動いてはおらん。じゃが、ことは重大じゃ」
ぬいぐるみというふざけた姿をしながら、別世界の魂である俺へ説明をする責任を背負わされているのか、孔雀が改まって向き合う。
「【煌天界】の上層部は、煌めかせるアイドル達の純粋さと反比例するように冷酷だ。その世界に《煌めき》を与える価値がないと判断すれば、すぐさまにプリズムストリームを遮断して投棄してしまうほどに。故に、単なるレプリカたる世界で不正な供給が発覚した際は、ためらいなくかつ迅速に遮断に乗り出した。じゃが、外郭上の出来事が全て生き写しのレプリカとはいえ、その内部の構造が全く異なったことで手を焼く羽目になった。いくらプリズムストリームで接続されているとはいえ、安易に介入することができなかったのじゃ」
「全く同じタイトルのオンラインゲームがあっても、プラットフォームが違ったから常用しているアカウントデータではログインすらできなかったってわけか」
孔雀が顔中にしわを浮かべるほど苦く語る中で、俺は相槌の代わりに自分の言葉として納得を口にした。
「だが、不正なアクセス自体は確かに悪い事だが、具体的にはどんな被害が出たんだ? まさか世界のネットワーク全体に特製ランサムウェアを無料配布したわけじゃあないよな?」
「配布というか、流し込まれたのは正解じゃ。ただし、質の悪いウィルスではなく、不正接続されたプリズムストリームのパイプを通して、搾取したプリズムストリームを汚染させて循環させておる。このレプリカ世界は、いうなら汚染されたプリズムストリーム――Dストリームと呼称を変えるべきか、そんな危険廃液を生産する工場なのじゃ」
一方的に喋り続ける大学教授の講義のような説明の雪崩を一度鎮静化させるように、俺は大きく息を吸って頭を整理させた。
「ちなみに聞くが、プリズムストリームが汚染されると、どんな目にあう?」
「汚れたプリズムストリームが生むのは、煌めきと対を成す絶対利己の感情。負の感情は闘争心から競争心へと生まれ変わり、己だけを愛し、己だけが愛されるために、余計な愛を一蹴する。出る杭と呼ばれた卓越者が出るたびに焦燥に駆られ、早計な結果を求めはじめた者は努力を無碍にし、天部の才能ばかりを求め始める。コミュニティはやがて派閥と名をかえ、顔と本心を隠し、偽りの自分同士で傷をなめ合いながら裏切りの時を待つ。露骨な上下関係の末、階級が生じ、純粋な《煌めき》を得られる者が身勝手に選び取られてしまう。最後に待つのは《煌めき》そのものの消滅」
同じくフェズが個々の項目として列挙させた事例を並べるが、その項目を聞くたびに俺の中で封じられていた記憶の一部に変な触れ方をしたのか思わず嘲笑が出た。
「ハッ! そんなのDストリームのせいにできるか? それが人間の本質だろ?」
「笑い事ではないわ! このバカポンタン!」
マスコットが金切り声にも似た甲高い怒声を合図に、嘲笑ながら高く笑う俺の頭上をめがけて、どこからともなくタライが落とされる。
止血がまだ甘かったのか、今の一撃で止まっていた鼻血が再噴出してしまった。
ギャグみたいな表現で叱責されたが、虚空から金盥という一連の流れで、こいつも単に喋るだけの置物じゃないと証明された。
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