もう一つの結末
「あなたが最後のドローフェイズで引くのは、ミュージックカード〈アクセサリーチェンジ〉」
ここで、フェズが今になって次のターンに俺の引き当てるカードを予言した。
「私は最後にカードを伏せる。そしてスタンバイを宣言する」
蓮丈院遊月 AP200 VS フェズ・ホビルク AP2850
今度こそ、終わりを告げるか。
いや、終わらせられない理由がない。
限界ギリギリまでAPを上げ、無敵の防御陣を敷き、ついでに罠まで伏せられては、もう相手に有無を言わせない。
だが、冷静に考えれば、そこまで上げたということは、逆に相手に機会を与える諸刃の剣状態になっている状況でもあった。
このゲームがチキンレースに例えられる理由は、やはりAPを3000も越えたら自動的に敗北してしまうバーストが存在すること。
それができる唯一のカードが、さっきデッキの中に戻した〈エヴォルナイトゲールワンピ〉。
こいつを破壊した〈イクソディアシューズ〉の効果でランドリーに送れば、ここまでずっと手札の中で温存させていたカードで復活させることができる。
そうすれば後は、【飾血】して200ポイントを相手にぶつければ逆転できる。
しかも、奴はあらかじめ次に引くカードを〈アクセサリーチェンジ〉だと言った。
あのカードは手札のアクセサリーカードをランドリーに捨てることで、デッキから任意のアクセサリーを手札に加えることができる。
こいつがあれば余った通常コーデを使って、あらかじめ破壊から免れる効果を持ったアクセサリーをコーデさえておけば。
「ターンを迎える前に俺は、アクシデントを発生させる! 〈衣装破砕〉!」
狙い通り、この万能退場カードを用いて自らシューズを脱ぐ。
「そしてステージからランドリーに送られた〈イクソディアシューズ〉の効果で、俺はデッキから【飾血】できるコスチュームをランドリーに送り、カードを一枚ドローする!」
次の計画でデッキに眠っている唯一の砲撃手である〈エヴォルナイトゲールワンピ〉をランドリーに送らせる。
その後で、カードを一枚引く。
やってきたのはアクセサリーカード〈血液瓶〉。
しかし、ドローフェイズのカードではないため、予言から外れるのは仕方がない。
相手のターンでできることを全てやり終え、今度こそ最後のターンがやってくる。
「俺のターン!」
訪れるラストターンの開幕に、ドローフェイズとしてカードを一枚引く。
やはり予言されたとおり〈アクセサリーチェンジ〉を引いたが、れっきとした勝利への方程式を築く一ピース。
「手札から〈シンデレラリトライ〉を発動! ランドリーからコスチューム一着をステージ上に追加コーデさせる!」
呼び出すのはあらかじめ控えさせた〈エヴォルナイトゲールワンピ〉。
フェズの〈ファンタジアレインボーワンピ〉の影響で強制的に200ポイント下がってしまうが、もはや関係ない。
これで奴を葬れる砲台を出せたのだから。
「さらに手札から〈アクセサリーチェンジ〉を発動!」
効果はもう言うまでもない。
そして捨てるカードも、呼び出すカードも決まっている。
「手札の〈ドレッドボイルドバンド〉を捨て、デッキから〈ショックアブソーブカチューシャ〉を手札に加え、そのままコーデ!」
もしもの保険として選んだのは、このアクセサリー。
このカチューシャには、相手がこちらのコスチュームを脱がせる効果を発動したとき、そのランドリーに送られる代わりに自分が着ているコスチュームの中から最もAPが高いコスチュームが持つ元々のAP分だけ自身の総APをアップさせるという、タイミング次第では優秀な吸収効果を秘めている。
ただでさえ【飾血】の影響で自身の総APも下がっている中でのAPアップ効果ありのアクセサリーは最適だが、それ以上にこいつをつけている限り要の砲台である〈エヴォルナイトゲールワンピ〉を確実に相手から守れるだけでも御の字。
「これで準備は整った! 【飾血】!」
襟の把手を倒して血を送り、〈エヴォルナイトゲールワンピ〉に能力を与える。
これでAPが下がって1000になったが、全て予定通り。
元の色を取り戻したことで、誰彼かまわずアピールポイントをお裾分けできる魔球を練り、じっとフェズの出方を窺う。
ここまで、伏せていたアクシデントを使う素振りもない。
このまま呆然と、バーストへ誘う元が精製されつつあるのにノーリアクションということは、あれが破壊という妨害のみに対応するカードである率が高まっているわけだ。
「〈エヴォルナイトゲールワンピ〉の効果! チャージカウンターを取り除き、貴様の総APに200ポイントを加える!」
魔球を込めた両手を思いっきり引き絞り、フェズに向かって押し出すように打ち放った。
この攻撃が通れば、フェズの総APは3050。
バーストによる敗北は避けられない。
「アクシデント発生――〈一閃極彩色の鏡〉」
ここでフェズが最後の伏せを開けた。
「相手がAPを増加させる効果を発動させた時、発動させたコスチュームを破壊する」
立ち上げたアクシデントカードの一面から光線のように重たい波動が俺に襲いかかる。
両腕で顔を覆ってしまうほど鈍重な反撃だが、この衝撃は俺のカチューシャが全て魅力として吸収してくれる。
「やはり破壊する効果を伏せていたか。だが無駄だ! この一撃で全てが――」
「その後、このカードを発動させたデメリットとして、私がアップする数値はゼロになり、逆に相手がその数値分のアップに加え。アンダーを含む私の着ているコスチュームの色の数だけその数値が乗算される」
「なっ……なんだと⁉」
浴びせられる波動の後で、更に色と威力を増した大波動が重ねて放射された。
まるで、一枚のカードに七つの魂が力を貸すように。
全てを破壊する痛覚の波の後に続くように、全てに恵みを与える高熱の波が押し寄せる。
「そ、そんな、バカな!」
俺が元々持っていた総APは1000。
そこからカチューシャが発動させた効果によって〈エヴォルナイトゲールワンピ〉が元々持っていたAP1300が加算。さらに俺が与えるはずだったAP200が、フェズの発動させたアクシデント効果によって合計1400ポイントとなって返され、俺の最終総APは――
蓮丈院遊月 AP3700→BURST
「ぬぅうあああああああああああああ!」
白い波動をかき分けて突き進む七色の閃光が、視界の全てを満たしたかと思った時には、俺はその波に飲み込まれた。
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