〈ヴェルデバスワンピ〉の狙撃戦術
蓮丈院遊月 AP1250 藤丸マイリー AP2500
なんというダブルスコア。1ターンでもう倍まで上げられてしまった。
「まだだ! あたしは〈ヴェルデバスワンピ・コルト〉の効果を発動!」
効果の発動と聞いた途端、完全に忘れていた俺に鞭を打つような悪寒が走る。
マイリーが豪快に腕を背に延ばし、衣装の中に仕込んでいたのか人間の片腕分の長さと太さを持つ、鉄の棒、いや砲身を取り出す。
「狙いは〈エヴォルスワンワンピ〉だ!」
なんでアイドルの衣装にご立派なウェポンが?
と無粋なツッコミが噛み殺されるほど、そのコンパクトな砲口がこちらに狙いを定められている生涯経験しえないだろう驚異に圧された。
「コスチュームのAPを200下げて……ファイアァ!」
一拍のチャージを経て、放たれる一発。弾丸ではなくビームっぽい光線。
しかし、何であれカードから放たれる一発であるなら、それは紛れもなくカードによる効果でしかない。
「応戦だ! アクシデント発生! 〈ダメージハンデ〉!」
コスチュームを破壊してランドリーに送らせる効果であるならカードで防げる。
〈ダメージハンデ〉は、自分自身のAP――総APがコスチュームの合計APと異なる場合、一度だけランドリー行きを免れる効果を持つ。
今の俺のステージ上にはAP1300の〈エヴォルスワンワンピ〉があるが、【飾血】を使用したことで50ポイント下がっている。
発動する条件は十分に整っている――はずだった。
「ど、どうした!?」
伏せたカードが半分だけ起き上がりかけた時、エラーを告げる不穏な電撃をまといながら再び眠りについてしまった。
「発動しないだと!?」
困惑と硬直。何がどうなって発動しないんだ。
様々な要因を遡って究明しようとする間に、敵の光弾が心臓に命中した。
「――残念だね。〈コルト〉が発動する効果は、ランドリーに送る効果じゃないのよ」
着者ごと光の弾道に貫かれた衣装には、風穴らしい傷跡はない。
だが、貫通した後遺症なのか、徐々に〈エヴォルスワンワンピ〉が透明になってゆく。
「こ、これは?」
「〈コルト〉が放った弾丸の能力。それは、狙いを定めた相手コスチュームを手札に戻すこと!」
現実からワンピの虚映が消え、プレートに乗せていたカード本体が飛び跳ねる。
「手札帰還――バウンスか!」
カードゲームにおいて、相手の盤面を荒らす妨害手段。
一つは単純にカード同士を戦わせて捨て場に追いやること、もう一つはカードの効果を使って捨て場に送ること。
そして、場から手札に強制送還させること。
場から捨て場――ステージからランドリーに送る効果は、その気になれば蘇生させるカードを使えばコストとは無縁に復帰できる場合がある。
大概のゲームは、その方が効率良く自ら捨て場に送って早急に場に出す手段を用いる。
故に捨て場こそ、第二のデッキと呼ばれていた。
しかし、手札になるとそうはいかない。
コストを支払うゲームなら、再度支払わなければいけない手間が生じるし、最悪場に再度出せないお荷物と化してしまう。
単純に捨て場に送られるよりもたちの悪い除去なのは、恐らくどのカードゲーム共通だろう。
幸い、このカードには厳しいコーデ条件があるわけでもない。
だが、何にしても丸裸は尚一層分が悪い。
普通に脱がされれば0だが、生憎俺は【飾血】をしたことでAPが-50まで下がっている。
「さぁ、出番だよ! バヨネ!」
砲身から硝煙を立ち上らせるマイリーが、背後のマスコットに声をかける。
すると、マスコットは飼い主の背中から、あのどうにも耳障りな鳴き声に変わって、内部のモーターらしき何かを高速回転し始める。
稼働する動力によるものか、何かが駆けめぐっているマイリーのコスチュームが徐々にピクセルのごとく分解し、一枚一枚がクルリと裏帰り始めた。
ある種の早着替えが終わると、マイリーの上半身に着せられたのは、あの時アンダーとして重ねられた色違いのワンピだった。
「バヨネのもう一つの力! それは、チェンジフェイズに発動させる効果を、即時に発動させることができる」
「地味だけど便利な効果だなッ」
「ターンの最後に発動する〈コルト〉の効果。それは、自分が〈ヴェルデバス〉シリーズをアンダーとして重ねている場合、そのカードとアンダーを入れ替えることができる!」
なるほど、若干のデザイン替えと色違いなのはそのためか。
しかし、衣装が変更になったということは、効果を発動させていない衣装が続けざまに登場したことになる。
その証拠に、デザインが若干違うものの、未だに小脇に抱えられている砲身がこちらをまだ狙らっている。
「今度は〈ヴェルデバスワンピ・スナイプ〉の出番だ!」
「発動する前に、効果の内容を説明してくれよ!」
「〈ヴェルデバスワンピ・スナイプ〉の効果! 同じくコスチュームのAPを200ポイント下げることで、相手の手札一枚をランドリーに送る!」
「今度は手札破壊か!?」
「よ~く狙って……シュートッ!」
念入りに標準をとらえる間も瞬時に、マイリーの一声とともに狙撃の一発を放つ。実弾を思わせる橙色の閃光が俺の頬を横切ったとき、手札のカード1枚が手中から落とされた。
狙撃されたのは、手札に戻された〈エヴォルスワンワンピ〉。
「完全破壊ッ!」
なるほど、徹底的に場を荒らすのがマイリーの戦略らしい。
一度手札に戻してから、改めてランドリーに送るという行程は、一見手間が多くかんじるだろうが、実は普通に送りつけるよりも効率よく取り除ける有効手段でもある。
その証拠が、発動しそびれた防御札の不発。
あのまま普通にランドリーへ送る効果ならば防げるはずだった。
だが、ステージから剥がす条件が異なるため防御は機能せず、そのままバウンスという形で引き剥がし、後は手札をねらい打ちさせれば何も妨害されることなく除去できる。
あれほどの行程をなすには、カード同士の強い連携が必要となる。
弱点と言えば、パーツが揃うまでの労力が多いこと。
しかし、それを易々と揃えられつつ、余計な効果まで付与させたのは、いうまでもなくあのマスコットのおかげだろう。
「セイラ、俺もあんなカードもってないか?」
「いえ、あんな超レアカードを持っているのは、今のところ彼女ぐらいです……」
超レアカードか。
子供っぽい表現をしたその台詞を、この耳で真剣に聞くとは思わなかった。
だが、この世界でそう評価されたならば、価値が変わってしまう。
有効なら金で買ってしまおうという大人らしい解決ができないという意味でもあった。
「あたしは最後にカードを一枚伏せ、チェンジフェイズに入る。でも……その前に〈スナイプ〉の最後の効果も発動させる」
色や一部の形が似ている時点で想像はついていた。
あのアンダー元と着ている側のカードが入れ替わる交代効果は、本来ならターンの終わりに発動させるべき効果だった。
「〈スナイプ〉は効果を発動させたターンのチェンジフェイズ時に、アンダーのコスチュームと交代することができる」
おまけに、どっちもAPを代償に発動する効果のはずだが、アンダーになった際に元の数値に戻るため、結局唯一の欠点ですらまともに機能していない始末。
「貴様、デートの時覚えてろよ。一生忘れられない素敵な夜にしてやる」
蓮丈院 AP-50 VS マイリー AP2500
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