【飾血】
蓮丈院 AP0 VS マイリー AP1200
「俺のターン!」
同様にデッキから一枚引いて、新たに手札として迎える。
前よりはバランスの取れた手札の内容だ。
防御と強化、どちらもいける。
その中で、遊月にとって一番のエースまでもが手の中にあった。
いきなりくるとは幸先がいい。
「よし、俺は〈ブラッデルセン エヴォルスワンワンピ〉をコーデ!」
人の目の前で派手に着替えたマイリーに次いで、俺もスキャナーのシステムに従ってカードに描かれた衣装に着替えさせられる。
これで俺もカードの絵とワンピースを着ることになった。
ただし、カラーリングを除けば。
「蓮丈院遊月が纏うエースカードがいきなりお出ましか。でも、使い方まではしっかり覚えているのかな?」
どんなに色合いが酷くても流石は養成校エースの衣装。
知れ渡った名前故に、相手も安易に侮ったりしない。
「バカになったからって、舐めるなよ」
使い方は十分に学んだ。
後は実践で使いこなすだけ。
俺は童話の子家鴨よりも醜い色をした衣装の襟に備えられた突起を押し倒す。
「俺はこの衣装に、俺自身の血を与える!」
突起を倒しから一拍置いて、首筋にチクリと呻くほどでもない小さな刺激が走る。
飛び出した針が微細な血を噴射させたのだ。
乾いた唇の皮を剥いた時よりも小さい傷跡から、蛇口から垂れる滴よりも小さい一粒の返り血が、襟首へと跳ね返る。
衣装が着主につけたキスマークから飛び出した、ほんの僅か一滴。
それが衣装に染み着いた途端、白鳥の名を冠する衣装が覚醒する。
開眼する瞼に変わって、徐々に元の焔色へと染めあがってゆく布面。
変色した箇所から陽炎まで羽衣のように帯び始める。
【飾血】
着主の血というアピールポイントを捧げることで、この衣装は色のない普通の衣装から、強力な魔力という効果を持ったマジカルコスチュームへと進化することができる起動スイッチ。
「………………!」
さっきまで小馬鹿にしていたマイリーが、色づいたエースカードの登場を前に身構える。
いきなり閉口してしまうほど、警戒しているのだろう。
「さらに俺はミュージックカード〈二十歳の紫鏡〉を発動!」
衣装に次いで場に出したのは、音符のフレームに囲まれたミュージックカード。
二十歳までに覚え続けていると云々という怪談話をモチーフにしたのだろう、禍々しい紫鏡のイラストが描かれたカードだ。
「このカードは、持つことでアピールポイントを150下げてしまうアクセサリー〈呪いの紫鏡トークン〉を追加コーデでさせる!」
「あたしに鏡を持たせて、ポイントを下げようって戦略か?」
「という戦略もある。だが、このカードが鏡を持たせるのは、何も相手に限られてはいない!」
壁の如く宙に佇むカードが改めて光を発しながら消滅すると、強制的に俺の手に紫色の手鏡を持たせる。
この時点で、俺のAPは150ポイントも下がってしまう。
数値的にみれば、せっかく相手よりも優勢に高めていたのに、自ら下げるなど端から見れば嘲笑もののプレイング。
「蓮丈院にアクセサリーがッ!」
煽るどころか、焦りを見せるマイリー。
随分と蓮丈院遊月のことを観察していたのか、優勢の台座を譲られたのに顔を険しくさせる。
「中途半端にAPを下げるよりも、こうする方が効率いいんでね。おまけに実質無償でアクセサリーが追加でコーデされるこの効果なら尚更だ。どうせ、ポイントを下げる呪いの鏡も、直ぐに御役御免になるんだからな」
「コンボ……。蓮丈院の奴、ここまで記憶が復帰していたのかッ」
コンボ。
カードゲームではおなじみのカード同士のコンビネーションの布石だ。
「そして俺は〈エヴォルスワンワンピ〉の効果を発動」
宣言と同時に、俺は紫鏡を柄から鏡本体へと持ち替えてから容赦なく握りつぶす。
細かく砕けた破片を握る拳から、真っ赤な炎が燃え上がる。
「このカードは、自分のアクセサリーを一枚ランドリーに送ることで、相手ステージ上のカード一枚をランドリーに送らせる! 標的はもちろん、その〈ヴェルデバスワンピ〉だ!」
狙いを定めるなり踏み込んだ俺は、一飛びでマイリーまで肉薄する。
引き絞った焔の鉄拳が、草を模した柄の衣装を焼きに迫る。
「させるか! リバースカード展開!」
寸前のところで、マイリーが準備していたカードを起きあがらせる。
目の前で立ち上がったそのカードは、一瞬でボロボロの歩兵装備をかけられた無様な案山子へと姿を変え、そいつを俺に殴らせた。
「身代わりか!」
「アクシデントカード〈デコイスケアクロウ〉。こいつは〈カラミリタリティー〉ブランドのコスチュームが破壊される効果が発動した時、狙われたコスチュームと同じ数値のAPを持つコスチュームを手札からランドリーに送ることで、その効果を無効にする!」
焼け焦げながら崩れ落ちる案山子と共に俺の手に滾っていた炎も燃え尽きる。
不発に終わったものの、仕方なく俺は元の位置へと引き下がる。
「俺はカードを一枚準備してチェンジだ!」
蓮丈院 AP1250 藤丸マイリー AP1200
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