互いに全てを駆けさせられた実戦経験
「やる場所を選ばないってのは節操がないなぁ」
「出会って五秒で口説いてくるあんたには言われたくないんだけど」
生涯で二度目にして、訓練ではない実戦の場に選ばれたのは、ダンス練習用のフロア。
やや狭めの体育館だと思えば想像はしやすいだろう。
艶やかながら傷だらけの木床に、どうやって取り替えているのだろうかといつも疑問に思うくらい高い位置につり下げられた水銀灯。
運動靴の靴裏からなのか擦れたゴムの臭いまでしてくるところまで、ますます学生時代に世話になった運動場が思い出される。
「暢気に見慣れた施設を見回してていいの? この勝負であんたが必死で守ってきたトップの座が没収されるかもしれないってのに」
ぼんやりと本当に施設見学に感心している間に、準備まで終わらせてから煽る藤丸マイリーの手には個人専用のマイク型スキャナーなのか、レリーフから投影板に至るまでマイリーの色に合わせた黄色いタイプが握られていた。
なんでトップと持て囃された俺の方は、他の生徒と同じ汎用タイプなんだろう。
結局、今回もいつも備品のマイク型スキャナーを借りてデッキの準備を整えた。
「価値の重さすら記憶と共に忘れた俺に、そんな肩書きなど猫に小判。そんなことより、貴様が負けたら俺とデートしてもらうぞ!」
「い、いいけど……うん、こっちは全てを出し切る覚悟で来たんだ。負けたら何でもあげちゃうから!」
「何でもだと? フフフ、俄然やる気が出てきた」
合意とも聞き取れたその言葉を聞いた瞬間、俺の心臓に熱湯かと思うほど熱された血液が激しく流れ、心筋を焼き始めた。
互いに同年代で思春期、そして合意の上なら全て合法。
品の無い天性の異能力や特性よりも遙かに強い武器と味方を手に入れている俺は、この生涯で初めて真面目に闘気を燃やした。
「す、すごい熱気! あんなに闘志を燃やしている遊月さん初めてみました!」
「燃やしてるのは闘志じゃないな、煩悩だよ」
立ち会いさせたマーサとセイラに見守られながら、デッキを差し込むことでスキャナーが起動し、互いに対戦者を察知してモードを切り替えさせる。
対戦モードが起動したスキャナーの内部でプリズムストリームが駆け巡り、繋ぎ目から虹色の光が走る。
思った以上に賢いマイク型スキャナーは、スリットの中で高速シャッフルをするなど着実に準備を整えてゆく。
二人のアイドルが起動させたスキャナーに反応して、気中に漂うプリズムストリームが練習用フロアの中へ虹色の風となって吹き込む。
「かけ声はちゃんといえる?」
「バカにするな」
シャッフルが止まったデッキの上から四枚のカードを引き、互いに勝負に臨む。
「「オン――ステージ」」
蓮丈院 AP0 VS 藤丸マイリー AP0
「先攻はあたし! ドロー!」
開幕の号令が終わった言下、最初のドローフェイズが回ってきたマイリーが、デッキからカードを一枚手札に加える。
「あたしは〈カラミリタリティー ヴェルデバスワンピ・コルト〉をコーデする!」
手札から選ばれた一枚が黄色いプレートに乗せられると、突然マイリーの上半身が虹色に光に包まれ始めた。
一瞬の膨張の後、溶けた光の中でマイリーの服が控えめなブレザー姿とチェックのプリーツスカートに変わっていた。
コーデ。
初手からマイリーに着せられたのは、いきなりトップスとボトムスを兼ねるワンピース。
そのAPは1200とやや限界の半分に近い。
ただ、おおよそワンピースにしてはメッシュで染めるには似合わない深緑と緑かかった白というミリタリー迷彩を彷彿とさせるカラーリングだった。
「あたしは最後にカードを1枚準備して、ターンをチェンジする!」
まだ効果を発動させる条件が整っていないのか、マイリーは何か能力を秘めているだろうワンピースを出すだけに止め、ついでに対策となるカードを裏向きのまま追加で出して手番を俺に明け渡した。
妨害させる罠か、それとも一張羅を守る防御か。
警戒しつつも、俺は訪れた自分の番に従う。
蓮丈院 AP0 VS マイリー AP1200
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