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藤丸(従姉)と藤丸(従妹)

「妙にガン飛ばしてくる女だ。誰だ?」


「……藤丸エルドさんです。この養成校で生徒会長を務める最強のアイドルです」



 負け時と俺が睨み返している一方で、セイラはそいつの放つ圧に屈しているのか少し怯えたようなたような声で説明する。



「最強? トップは俺だろう?」


「確かに、学園内では遊月さんがトップです」


「どういう意味だ?」


「エルドさんは、この学園を超えて芸能界でもトップに君臨するほどの人気と実力を持った現役アイドルなんです。中学一年生の時にデビューしてからずっと、その年の最強エンプリスアイドル――【女帝】を決める〈アルカナカップ〉シリーズにて二年連続で優勝した、【ユーバメンシュ】から生まれた世界最強のアイドル」



 全国に名を連ねる本物のプロアイドルも参加しているであろう〈アルカナカップ〉シリーズという年一に開催される大会に参戦し、見事最強アイドルとして君臨した本物の【女帝】。


 それも在学中に二年連続で獲得できるほどの実力があるなら別格扱いになるのも頷ける。


 いわゆる殿堂入りとも言うべきか。


 同じ養成校に通っているとはいえ、芽が若い奴が集う学園内でのトップと、プロがはびこる全国でのトップとではそもそも次元が違いすぎる。



「まさに誰もが憧れる理想の【女帝】様というわけか。在学中に、しかも中学生の身でありながらプロを顔どころか実力で負かせるなんてな。【ユーバメンシュ】もさぞ鼻が高いだろうな」


「鼻が高いどころじゃない」



 今度はマーサが話に割り込んでくる。



「この【ユーバメンシュ】養成校そのものは、エルドの親族つまり藤丸一族が経営しているんだ。じいさんが理事長、父親が校長、ついでに叔父が副校長。特に理事長の息子達は、現役時代に男子アイドルでトップ争いをしていたくらい人気と実力があった。さらにエルドの父親である校長は、同い年の【女帝】と結婚。それで生まれたエルドは、まさにサラブレットだ」


「トップアイドル同士が生んだ天才アイドルか。しかし、実力はともかく在学中のトップ現役アイドルをしながら生徒会長まで務めるとは、随分と献身的というか親思いなところがあるな」



 だが、本当の理由は別にあったような気がした。


 それがどういう事情なのかは思い出せない。



「そんな奴が何用で俺をわざわざ見下ろしている? あの目は何の念が?」


「き、きっと、先日大ケガをしたって聞かされて様子を見たのかも……」


「どこの世界に吽形像みたいな嶮しい顔でけが人を見舞う奴がいるんだ。それにやっぱりあの顔、お前たちよりも見覚えがある」



 睨み返せば睨み返すほど、こちらが目を背けたくなる重圧に負けてしまいそうだが、そうさせないのはやはり脳裏にしがみつく既視感によるものだった。


 やはりこいつの存在も俺の失われた記憶の鍵なのだろう。



「――あんたはまず、上を見るよりも自分が胡座かいてる椅子を守る方が重要じゃないの?」



 無礼にも割り込んでくる新しい声が耳朶に触れた瞬間、少し頭痛が走った。


 やはり、この学園には俺の記憶を思い出させる手がかりがごろごろと転がっている。


 この痛みは、前に青い髪の女が介入したのと同時に、脳にかけられた錠前が破壊された時の、その軽傷程度。



「遊月さん!」


「大丈夫か、遊月!?」


「その分だと、まだ完全に治ったって口じゃあなさそうね」



 声の主に反応を返せることもできず、頭を押さえる俺に心配したセイラやマーサが駆け寄る中で、割り込んだ少女はこの有様をあざ笑う。


 下がってゆく波の様に痛みが引いた俺が改めてそいつの顔を見る。


 もう何人目なのか、藤丸エルドよりも強く記憶に引っかかる顔。


 現実世界ではありえない瞳の鮮やかさとは対照的に敵意がこもった丸目。


 小型の愛玩犬のようにフワフワとした癖毛が目立つ黄緑色の髪。


 同じ制服を羽織っているが、内側にはブラウスではなく迷彩柄の何かを着込んでいる乙女趣味とはほど遠い小娘。


 軽めの頭痛から、一部だけ封印から漏れたのか、やってきた少女の情報が一部分だけ思い出せた。


 ついでに、こいつの趣味も。



「誰だ? というのは少し無粋だな。貴様、たしか藤丸エルドの親類だな」



 煽り返す俺の一声にセイラとマーサは驚愕して丸くなった目で俺をみる。


 その一方で藤丸との血縁者と言い当てられた小娘は、ずかずかと荒い足取りで迫ってくる。



「余計な記憶だけ、思い出すな!」



 どうも図星だったらしい。


 舌打ちしてテーブルを殴るほど、コンプレックスの源のようだ。



「あたしは藤丸マイリー。もう一度、そのお粗末になった頭に入れておきな!」


「いいだろう、こんなに可愛い顔をした君を、次は絶対に忘れないよう脳に刻みつけておこう」


「――なっ!」



 皮肉を込めた煽り返しなのに、本気で誉められたと思ったのかマイリーは退いてしまうほど顔を赤らめた。


 おかしいな。


 俺の記憶が確かなら、普通に褒められても気持ち悪がられると思ったんだが。


 ふと、まだ紅茶が残っているカップを見下ろすと、赤い水面に写った自分の顔を見て俺は改めて気づいた。


 そうだ、俺は蓮丈院遊月という生まれ持った美貌を持った少女の肉体になっているんだ。


 なんだか新しい自信がついた。もう帰りたいと思いたくないくらい、俺の手というか体に永遠のモテ期が手には入ったのだ。



「それで、奴の血縁者が何のようだ。この俺をデートにでも誘おってのか?」



 異性を引きつけたい本能と今思い出せる限りで最高のポーズを決めながら、俺は改めてマイリーと向き合う。



「誘うってのは正解よ、ただしデートじゃなくてトップの座をかけた正式な試合で!」


「トップの座なんかより、トップの俺とデートしたという功績の方が価値あるんじゃあないか? 養成校の生徒として拍がつくだろう」


 Shall we dance? と誘わんばかりに迫った俺は、マイリーの背中と顎に手を添えた。


 幼気な少女に、こんなことをしても通報されないなんて、なんて素晴らしい肉体なんだ。


 ところが、マイリーは半ば呆れた顔をして一度ため息をついた直後に、返事の代わりとして懇親の頭突きを俺の鼻に食らわせた。


 容赦のない一突きに、俺の鼻から鮮血がドロリと流れる。



「噂の通りね。今のあんたは、この前頭打ったせいでバカになったってね!」


「お、お前っ! 確かにその通りだけど……」



 親友が小馬鹿にされて怒鳴り返そうにも、何も言い返せなくなったマーサは、身を乗り出すのを諦めた。



「否定はせん」



 当の俺は、気にせず仁王立ちでふんぞり返る。



「敵は倒せる時に倒す。今のあんたなら、余裕で勝てそうだしね」


「そんなんだから、従姉と比べられるんだろう」


「う、うるさいやい! それで、勝負を受けるの? 受けないの?」



 己に緊張感を持てとマーサが警告してきたのは、どうもこのためのようだ。


 ただ、威厳を保ったとしても噂や情報が出回っている以上は避けられぬ定めには変わりない。


 親指で鼻血を払うように拭い、俺は改めて腕を組んで応える。



「いいだろう、その勝負乗った」


「遊月さん!?」


「何考えてんだよ、遊月! こいつはただの練習試合じゃないんだぜ!?」


「どのみち挑まれるのは時間の問題だ。だったら尚更、今の俺には実践経験が必要だろ」


「だからって安易に自分の誇りと実績をかけるなよ! 負けたら、遊月は……」


「お前達が直そうとしているのは遊月に飾られた名誉か? それとも遊月そのものか?」



 維持でも賭け試合くい止めるマーサとセイラに向かって、俺は乗せられた天秤を差し出すように問い返した。


 望んでないとはいえ、蓮丈院遊月の体を乗っ取っているのは他人である俺だ。


 俺自身の選択で、遊月本人の名誉が左右されるのは分かっている。


 しかし、冷めた言い方になるが、俺は体を遊月に返すとは誓ったが、遊月に成り続ける義務までは背負った覚えはない。


 こちらとしては、名誉の維持よりも記憶を治すほうが先決だ。


 そして、記憶を蘇らせる鍵になるであろう藤丸マイリーとは、どのみち接触しなければならない。


 事実、マーサとセイラの中で知っている蓮丈院遊月がいない以上、まずは記憶の完治が優先だと悟った二人は、これ以上なにも言わなかった。



「さて、お嬢さん。会場までエスコート頼めるかな?」

ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。


「面白かった!」

「続きが気になる!」

「いいから早く決闘しろよ」


と思った方は、下にあります☆☆☆☆☆から、作品の応援をよろしくお願いいたします。

また、誤字脱字、設定の矛盾点の報告など何でもかまいませんので、

思ったことがあれば遠慮無く言っていただけると幸いです。


あとブックマークもいただけるとうれしいです。


細々と続きを重ねて行きますので、今後ともよろしくお願いします!

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