水飴は「うまく」てもジョークは「うまく」なかった衝撃
蓮丈院 AP1600 VS セイラ AP2550
「わたしのターン!」
結局、前のターン同様に最強の板チョコを3枚も侍らせながら、セイラのターンが巡る。
「〈ソリッドレートワンピ〉のコスチューム効果! 板チョコを使うことで相手のコスチューム1着をランドリーに送る! 狙いは、〈オスシワンピ〉!」
もはや板チョコを剣の如く握りしめては、狙いを定めた寿司臭い衣装というか俺を仇の魔物みたいに殺しにかかる。
「させるか! リバースカードオープン! 〈洗い立て投入〉!」
今こそ伏せていたカードの出番だ。
セイラがくる前にスキャナーのスイッチを押して、伏せていたカードを起き上がらせる。
「このカードは、自分のランドリーにあるコスチューム1着をステージ上に復活させる!」
「通常の復活カードで、どうやって迎え撃つんだ?」
怪訝そうな顔でプレイングに疑問を抱くマーサが疑問を抱く。
それでも俺は構わずに、ランドリーから1枚のカードを手札に戻す。
「俺が呼び戻すのは、こいつだ! 〈ベリベリシューズ〉!」
瞬時にローファーから変化させた姿は、名前の通り血よりも濃い赤色のベリーが、ビーズ細工の用に敷き詰められたフルーティーな靴。
「そうか、そのカードさえあれば!」
「いつの間にあのシューズを……」
「タイミングはあった。あの〈オスシワンピ〉の効果を発動させたときだ」
マーサや母親にも、このシューズの性能について察しはついたようで。
一度でもランドリーという捨て場に送りさえすれば、下手な条件を持って手札を腐らせるカードよりも簡単に呼び出せるし、手札にくることを願う必要もない。
なによりも、こんなカード一枚で相手のターン中にでも呼び出せる奇襲だって可能だ。
いくらこのゲームでは初心者だからって、他のカードゲームで培った知識や経験が生かされないわけがない。
「そして〈ベリベリシューズ〉がステージにでている限り、相手はこの靴だけに効果の狙いを定めなければならない」
ステージへの帰還を果たしたのと同時に、真っ赤でツブツブのシューズが、よりいっそう赤いオーラをまとって効果を発動させる。
靴から沸き上がるオーラは、念動でも送っているのか、迫り来るセイラにも同じ色の念を与えて動きを封じる。
「それだけじゃない。その効果の発動元がコスチュームからの場合、手札の一枚をコストに、効果を無効にして逆に相手のコスチュームを破壊する!」
これで相手の板チョコによる物理攻撃は完封できた。
いくら板チョコの枚数があろうが、切れてしまえばただの耐性のないふつうのコスチュームとなる。
「季節はずれのバレンタインチョコの貰い過ぎで鼻血まで出たんだ。これ以上は遠慮させてもらうぞ」
「遊月さんは――そんなおもしろくない冗談はいいません!」
何かに切れたのか開眼するセイラの一言に、俺はかなりショックを受けた。
一方で金縛りにでもあったかのように、板チョコから手を離したセイラが、ぎこちない動きのままスキャナーに指を伸ばした。
「返しのアクシデント〈フェスティーコーティング〉!」
支えを失って倒れる板チョコと入れ替わるように、寝かせていたカードが起きあがる。
「自分コスチュームが効果の対象になった場合、デッキの一番上をめくる。それが〈スイーツリパブリック〉ブランドのコスチュームだった場合、それをランドリーに送ることでそのコスチューム効果を無効にします」
「なんだと!」
デッキの上から一枚を引き抜いて、こちらにもチラリと該当ブランドのコスチュームカードを一瞬だけ見せつけると、セイラはそれを即座にランドリーへ流し込む。
それを材料に、アクシデントカードの表面から、透明だが粘度の高い液体の固まりが宙に浮きながら練り上げられる。
スライム、いやどちらかというと水飴だ。
お菓子のブランドを糧にした糖分の固まりは、十分に練りあがったのか、きれいな直線を描いて触手を俺の靴へ向けて伸ばしてゆく。
瑞々しい果実の詰まった靴の上に、透明の液体が何度もかけられ、でたらめな網目状になるまで靴そのものを水飴でコーティングされたシューズからは、放っていた生々しい色のオーラが消え失せてゆく。
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