第8話 仲間たちとの「再会」
※この作品は、忠実を元にオリジナルの要素を取り入れたフィクションです。実在の人物、事件、団体名などは一切関係ありません。
※この作品は一般的な小説スタイルとは異なった、独自の新しい小説スタイルを採用しております。ご覧になる読者の方によっては読みにくい等の支障が出る場合がありますので予めご了承下さい。
織田信長が率いる織田軍は、斉藤軍の総大将である斉藤龍興が居城する“稲葉山城”の天守閣に辿り着いた。ここに至るまでにも多くの犠牲を伴った。だが、それも終わりに近い。
織田軍に所属する武将の明智光秀と前田利家は、先陣として天守閣に一番に足を踏み入れた。
天守閣は四隅しか柱と壁がなく、また戸が全て開いており、そこから外の景色が見える。それ以外に何もない地味な部屋だが、意外と広く感じる。
その部屋の奥、光秀達に背を向けて、天守閣の高台から城下を眺めるオレンジ色の鎧兜を身に纏った小太りな男性の姿があった。
【????】「とうとう、ここまで来たか…。」
そう言って、その小太りな男はクルリと体を光秀達に向け、その顔を見せた。
【斉藤龍興】「ようこそ、我が城へ。貴様らが、ココまで来るとは思ってもいなかったよ、光秀。」
【明智光秀】「ここで決着を付けます!」
と、光秀は今にも抜刀する体勢をとった。利家も続けて刀を構えた。
【斉藤龍興】「そうだな。この長きに渡った戦い、そろそろ終止符を打たんとな。」
今にも攻撃をしようとする光秀だが、龍興は一向に自分の鞘に手を差し出そうとしない。何故だ? もう、覚悟を決めたのだろうか。
【斉藤龍興】「しかし…、この俺様もすっかり舐められたものだな。オマエ達2人しか差し向けんとは…。」
【前田利家】「オマエを倒すなど俺達だけで十分だ。龍興、覚悟!」
そう言って、利家はバッと龍興に飛び掛った。そのまま利家が龍興に向かって刀を振り下ろそうとしたその瞬間、龍興はニヤリと笑みを見せたかと思うと、一瞬のうちに利家を拳で殴り飛ばした。
【明智光秀&前田利家】「!?」
2人には何が起こったのか分からなかった。気がついた時には、もう既に利家は壁際に倒れており、顔面から血を流していた。おそらく、拳が顔面に直撃したのだろう。もの凄い腕力だ。
【斉藤龍興】「貴様らの相手など、この拳だけで十分じゃッ!!」
龍興は、2人にポキリポキリと片手で指を鳴らして見せた。
【前田利家】「気をつけろ、光秀。奴は見た目以上に素早い。それも、確実に急所を狙ってくる。」
と、ヨロケながら立ち上がり、口から出る血を腕で吹き取りながら言った。光秀はそれを聞くとコクリと無言で頷き、再び抜刀の体勢を取った。
【斉藤龍興】「来るか、光秀。ボッコボコにしてやるわッ!!」
龍興が正面から向かってきた。そして、右手で殴り倒そうとしてきた。それを光秀は、攻撃が当たるギリギリの所で避けた。次の瞬間には、今度は龍興が右足で回し蹴りをしてきて、光秀はその場にしゃがみ込み避け、その時に自分の刀を抜き龍興の足を斬ろうとしたが、素早い後ろ飛びで避けられてしまった。本当に、小太りのくせに動きが予想以上に速い。この体のどこにそんな働きが出来るのだろうか。
【斉藤龍興】「フッ! 伊達に、美濃の国主を務めているワケではないわーッ!!」
つまり、一国を治め、なおかつ民達を守る主だからこそ、自ら身につけた力なのだ。それを感じた光秀もフッと小さく笑った。
【明智光秀】「私も一国を治める主を守る者。私と主の野望の為、この戦い、負けるわけにはいきません!!」
【前田利家】「ああ、俺も同じさ!」
2人は、龍興に向かって、力強く刀を構えた。
【斉藤龍興】「貴様らのその心意気、気に入ったぜ。貴様らのその力、確かめようじゃないか!!」
龍興が2人に向かって突進してきた。2人はサッと横に避けて刀を浴びせようとするが、龍興もサッとそれを避ける。龍興は拳と足を繰り出し、何度も殴り蹴り攻撃を休まず続けた。2人もそれらを避けながら、攻撃を続けた。
【斉藤龍興】「オラオラ、どうした? 貴様らの力は、こんな者か!? 俺様に、傷1つも付ける事が出来ぬか?」
【明智光秀】「クッ!」
2人は歯を食いしばって、龍興に攻撃を続けた。しかし、ほとんどの攻撃が避けられて、龍興の言うとおり、なかなか傷を与えることもできない。それどころか相手は息切れもほとんど見せていないが、2人には若干の疲れが見えてきていた。
龍興はそれを見るとニッと笑い、天守閣の外の高台に出た。2人もそれを追いかけた。そして、龍興を高台に追い詰めた。それでも、龍興は一向に攻撃のスピードを緩めなかった。
そして、2人の攻撃の一瞬の隙を突いて、龍興が2人が手にしていた刀を素手で奪い取り、それを両手に持つと2人に向かって構えた。
【斉藤龍興】「形勢逆転…、だな?」
2人は、再び歯を食いしばった。
一方、どこかの深い森の中を、4人の男女が歩いていた。
この4人のうち3人は高校の制服を身に纏っていた。森下藍、足立裕輔、楠山太陽が高校生だ。そして、彼らの先頭を歩いている若き女性が、彼らのクラス担任教師である広沢美咲だ。
彼らは、同じくクラスメイトである中村若菜や指宿健斗と共に、行方不明になったクラスメイトの神宮寺紗耶を捜していた。紗耶の自宅の蔵を捜索している時、彼らは奇妙な巻物から輝く原因不明の光に飲み込まれ、気がついたら森の中におり、中村若菜や指宿健斗とも離れ離れになってしまったのだ。4人は、彼らの行方を捜すべく、森の中を歩いていたのだが…。
【足立裕輔】「ねえ~、先生~。いったい、何処へ向かっているの?」
【広沢美咲】「どこって…、決まっているでしょ! この森から出るのよ。」
【楠山太陽】「そうは言っても、さっきからずっと森の中ですよ。」
【森下藍】「この道、さっきも通ったような気がするし…。」
【足立裕輔】「もしかして、先生…。」
【森下藍&足立裕輔&楠山太陽】「(道に)迷った?」
【広沢美咲】「ギクッ!!」
【森下藍】「あ、まさかの、図星?」
【広沢美咲】「ち、違うわよ。ま、迷ってなんかないわよ、全然!」
【楠山太陽】(分かりやす…。)
【広沢美咲】「こっちの方角が正しいわよ。…たぶん。」
【森下藍&足立裕輔&楠山太陽】(大丈夫か、この人が先頭で…。)
しばらく歩いた後、藍が突然、地面に座り込んでしまった。
【楠山太陽】「どうした、藍?」
【森下藍】「ご、ごめん。ちょっと休ませて…。」
見ると、藍が疲れた表情をしている。
【楠山太陽】「先生!」
【広沢美咲】「分かったわ、少し休憩しましょう。」
4人は、木を背凭れにするなどして座り込んだ。
【楠山太陽】「大丈夫か、藍?」
【森下藍】「う、うん…、大丈夫。」
さすが、クラス委員長の楠山だ。クラスメイトの面倒もしっかりしている。
【森下藍】「…おなか、空いたなぁ~。」
広沢美咲は自分の腕時計を見た。時計の針は昼間の11時頃なのだが、辺りは夕方のように薄暗くなってきている。時計が壊れているワケでもないのに、時間が変だ。やはり、あの光に飲み込まれてから何もかも変だ。それに、あの時から何も口にしていない。空腹になるのは当然だ。
【足立裕輔】「藍、これでも食べるか?」
と、制服の上着のポケットから何かを取り出して、笑顔で藍に差し出した。その笑顔に、藍はドキッとした。
【森下藍】「あ、ありがとう…。」
【足立裕輔】「なんの、なんの♪」
【森下藍】(…足立君って、いつも変な人だと思っていたけれど、意外と可愛らしい笑顔を見せるのね。)
藍は心の中で少しドキドキしながら、裕輔からの何かを受け取った。透明のビニール袋で包まれているが、何かのお菓子だろうか。
【森下藍】「良いの? こんなの、貰っちゃって…。」
【足立裕輔】「良いって良いって! もう俺は、いらないから。」
【森下藍】「そ、そう…。」
【広沢美咲】「足立君、それって何のお菓子?」
【足立裕輔】「ん? アレは、腐った煎餅。」
それを聞いた瞬間、
【森下藍】「…って、いらないわよ、こんなモノッ!!」
と怒って、藍が手にしていたモノを裕輔の顔面に向かって投げ捨てた。それは、見事に裕輔の顔面に命中し、その腐った煎餅は粉々に割れて地面に落ちた。
【足立裕輔】「あれ、食べないの? お腹、空いているんでしょ?」
【森下藍】「食べれるか~ッ!!(怒)」
と、すかさずツッコミを入れた。
【森下藍】(まったく…。少しでもドキッとした私がバカだったわ…。)
【広沢美咲】「た、確かに、足立君にとっては“いらないモノ”ね…。」
【楠山太陽】「そんなモノ、早く捨てろよ。」
確かに…。
すると、藍がケホッケホッと咳払いをした。
【森下藍】「さ、叫んだもんだから、ノドも渇いちゃったじゃないのよ!!」
【足立裕輔】「そ、それも俺のせいッスか!?」
【森下藍】「お腹も空くし、ノドも渇くし、ココが何処だか分からないし…。もう本当に最悪よ…。」
【足立裕輔】「お腹が空いたのなら、食べる?」
と、裕輔はまたポケットから同じ腐った煎餅を数枚サッと素早く取り出した。
【森下藍】「いらない、って言っているでしょうが~ッ!!(怒)」
藍は問答無用で、裕輔が持っていたそれらを叩き捨てた。裕輔が「あ~!」と残念そうな顔をした。
【広沢美咲】「な、何枚持っているのよ…。」
【楠山太陽】「だから捨てろよ、さっさと。」
確かに…。
【楠山太陽】「でも、本当にノドも渇き、お腹も空きましたね。辺りも薄暗くなってきましたし…。どうしましょうか、先生?」
【広沢美咲】「う~ん…。」
【足立裕輔】「お腹空いたのなら…。」
【楠山太陽&広沢美咲&森下藍】「(話しが先に進まないから)アンタは黙ってて!!(怒)」
3人がギロッと怒った鬼のような顔をして裕輔を睨みつけたものだから、裕輔は恐くなってシュンと大人しくなった。
【広沢美咲】「仕方ないけれど、今日はココで野宿するしか…。」
【森下藍】「え~!? 先生、そんなの嫌です! 絶対に、イヤ!!」
【楠山太陽】「しょうがないだろ、こんな状況じゃ。こんな何処だか分からない場所で、暗闇の中を歩くのは自殺行為だ。ここは大人しく明日の朝まで待ったほうが良い。そうでしょ、先生?」
【広沢美咲】「えッ!? え、ええ、そうね…。(私が言うべきセリフを全部持っていかれた…)」
【森下藍】「で、でも…。私、本当にイヤ!」
【広沢美咲】「森下さん、気持ちは分かるけれど、ここは我慢するべきよ。分かってちょうだい。」
【森下藍】「…はい。」
藍は、渋々(しぶしぶ)、了解した。
【楠山太陽】「けれど、食料や水はどうにかしないと…。」
【足立裕輔】「な、なあ…。」
【楠山太陽&広沢美咲&森下藍】「なに?(怒)」
と、3人は再びギロッと裕輔を睨みつけた。裕輔はビクッと怯んだ。
【森下藍】「また、“腐った煎餅でも食べる?”って言うの?」
【足立裕輔】「ち、違ぇ~よ。何か聞こえないか?」
裕輔に言われて、3人は耳を澄ました。
【森下藍】「?」
【広沢美咲】「…何も聞こえないわよ。」
【足立裕輔】「そんなワケないじゃん! 絶対、聞こえるって!!」
【楠山太陽】「…聞こえる。」
藍と美咲の2人はビックリして楠山を見た。裕輔は「な!」と誇らしげに言った。
【広沢美咲】「何が聞こえるの?」
【楠山太陽】「シッ!」
楠山は自分の耳に神経を集中させた。
【楠山太陽】「これは…、水の音!?」
すると楠山は、その音がする方向へ走って行った。3人もその後を慌てて追いかけて行った。
しばらくすると、4人は深い森の間を流れる小川に出た。
【楠山太陽】「やった!」
【森下藍】「小川だぁ~!」
藍と美咲と楠山は、すぐに小川のほとりにやって来た。小川の水はとても綺麗だ。たぶん飲んでも害は無いハズだ。そう思った3人は、自分の両手で水をすくい、それをガブガブと勢い良く何度も飲んだ。
【森下藍】「ぷはぁ~っ。生き返ったぁ~。」
【楠山太陽】「ふぅ~、水があれば何とかなるだろう。」
【広沢美咲】「…あれ? 足立君は?」
3人は辺りを見回した。裕輔の姿が先程から見えない。しばらくして、3人がいる場所から少し離れた場所にいた裕輔を楠山が発見した。楠山は立ったまま、森の方をジッと見ていて動かない。
【楠山太陽】「何をしているんだ、アイツは?」
3人は裕輔の様子を詳しく見てみると、その光景に思わず目を疑った。
なんと、裕輔は川に向かって用(※トイレの小さい方)をしていたのだ。
【森下藍&広沢美咲&楠山太陽】「ッ!?」
3人は一斉に口の中のモノを吐いた。そうとも知らず、用を終えてスッキリとした裕輔が3人の前にやって来た。
【足立裕輔】「ふぅ~、スッキリした! …って、アレ? どうしたの、みんなして…。」
【楠山太陽】「お、オマエなぁ~…(怒)」
【森下藍】「もう、最低ッ!!(涙&激怒)」
【広沢美咲】「飲んじゃったわよ…(怒)」
【足立裕輔】「…へ?」
何があったのか、裕輔にはサッパリ分からなかった。この後、裕輔は怒った鬼以上に恐ろしい顔をした3人に、完全にボコボコにされた事は言うまでもない。
【森下藍】「でも、発見できたのは川だけね…。」
【広沢美咲】「水が確保できただけでも良い成果よ。何も無いよりかはマシだと思わない?」
【森下藍】「それは、そうですけれど…。」
【楠山太陽】「…もしかしたら、まだ望みがあるかもしれない。」
【森下藍】「え?」
楠山はキリッとした真剣な顔で、美咲を見た。
【楠山太陽】「先生、この川に沿って下って行きましょう!」
【広沢美咲】「川を下る?」
【楠山太陽】「川の傍には文明が栄えると聞きます。もしかしたら、この小川を下流に向かって沿って歩いていけば、人がいる場所に辿り着けるかもしれない。」
【森下藍】「助かるかもしれない、ってこと!?」
【楠山太陽】「ああ!」
自身誇らしげな楠山の姿に、美咲と藍は希望が見えてきた。やっぱり、楠山は頼もしい。
【広沢美咲】「じゃあ、楠山君を信じて、完全に暗くなる前に行きましょう! 良いわね、森下さん?」
【森下藍】「はい!」
3人は「オーッ!」と力強く意気込み、川に沿って歩き始めた。何かを忘れているような気もするが、3人は全く気がつかなかった。
【足立裕輔】「おーい、謝るから俺を置いて行かないでくれぇ~ッ!!」
フラフラになりながらも、裕輔はゆっくりと3人の後を追いかけた。
同じ頃、稲葉山城。
こちらも夕刻で、空は綺麗な夕焼けに染まり、遠くにカラスが3匹並んで鳴きながら飛んでいるのが見える。
稲葉山城の天守閣の高台には、両手に刀を構えた斉藤龍興と、素手の明智光秀と前田利家の姿があった。お互いをジリジリと睨み合っている。
光秀達は龍興の2刀流による攻撃を何とか避けるのが精一杯で、龍興に攻撃を与えるのは非常に難しかった。圧倒的に武器を持たない光秀達が不利だ。
龍興が素早い剣捌きを再び始めた。光秀達は必死で避けていった。
しばらくそれが続いた後、光秀は片足を龍興に斬られてしまった。何とか光秀はギリギリに避けたので傷は浅いが、思わず片膝を床につけて倒れてしまった。そして、光秀の首に刀の矛先を龍興に突きつけられてしまった。
【前田利家】「光秀!」
【斉藤龍興】「おっと、動くなよ!!」
利家が光秀を助けようとしたが、龍興が持っていた残りの刀の矛先が利家の行動を防いだ。
【斉藤龍興】「貴様は、ここで仲間が死ぬのを見ていろ。…それとも、まず貴様が先に死ぬか?」
【前田利家】「…クッ!」
龍興は、悔しがっている利家を後ろ目に、光秀を見た。
【斉藤龍興】「やはり、ここは…。光秀、貴様からだ!」
【明智光秀】「!」
龍興は、光秀に突きつけていた刀を片手で力強く構えた。
【斉藤龍興】「死ね、光秀ーッ!!」
ドンッ!!
その時、1発の銃声が鳴り響いた。
【明智光秀&前田利家】「!?」
【斉藤龍興】「グッ!!」
銃の弾丸は龍興の手をかすめ、龍興は思わず光秀に突きつけられていた刀を床に落としてしまった。それを見た光秀は、すかさず落下するその刀をキャッチした。刀は、光秀のモノだった。
龍興は怒りをこみ上げ、利家に突きつけていた刀で光秀を何回も斬ろうとした。光秀は、それを刀で受け止め、一瞬の隙を突いて、龍興が手にしていた残りの刀を弾き飛ばした。そして、それを利家がキャッチした。
【前田利家】「刀、確かに返してもらったぜ!」
すべてが一瞬の出来事で、次の瞬間には、もう光秀と利家が、手にした刀の矛先を龍興に突きつけて包囲していた。
【明智光秀】「形勢逆転だな、龍興?」
と、ニヤッと笑みを見せて言った。
【斉藤龍興】「クソッ! …誰だッ!?」
すると、3人がいる天守閣に、片手持ちの火縄銃を手にした、もう1人の新しい人物が姿を現した。その人物を見て、龍興は目を疑い、光秀と利家は喜ばしい気持ちになった。
【斉藤龍興】「信長…。貴様かッ!?」
【織田信長】「…いかにも。この信長ぞ。」
織田信長の背後から、織田軍の兵士や武将達が大勢姿を現した。
【明智光秀】「…終わり、ですね。」
【織田信長】「この戦い、この織田の勝利ぞ!」
龍興は、額から汗を流しながら、ゾロゾロと集まってくる織田軍を流し見た。
【斉藤龍興】「ヘッ…。織田の全軍が俺様の死を見届けに来た、か…。」
観念したかと思った龍興だったが、龍興はニヤリと笑った。
【斉藤龍興】「…これで“勝った”と思ったか? 甘いぜ。」
【明智光秀】「なに!?」
【斉藤龍興】「貴様らの行為は、すべて俺様の“策”の内よッ!!」
それを聞いて、天守閣にいた織田軍全員に、どよめきが走った。
【前田利家】「どういう事だ?」
【織田信長】「・・・・。」
【斉藤龍興】「貴様らは俺様を倒す為、ほぼ全軍をここへ送り込んだ。そして、俺様の軍と戦をする。しかし、その間、貴様らの城は誰がいて、誰が守っている?」
その瞬間、光秀は龍興の“真の目的”に気がついた。
【明智光秀】「信長様、至急、城へお戻りに! これは、龍興の罠です!!」
【森蘭丸】「罠?」
その時、龍興が小さく笑ったかと思うと、少しずつ笑い声を大きくしていった。
【斉藤龍興】「フフフ…。フハハハハハハッ…!! や~っと、気がついたか!!」
織田軍全員が一斉に龍興を見た。
【斉藤龍興】「そうさ! 俺様の狙いは貴様らではない!! 真の狙いは…、貴様の城に残っている帰蝶、そして市の命よッ!!」
【織田軍全員】「!!」
織田軍全員に緊張が走った。戦いはまだ終わっていない事を突きつけられた瞬間だった。
その頃、稲葉山城から少し遠く離れた“墨俣城”。
織田の全軍が斉藤龍興の討伐で出払っており、城に残っているのは僅かな人数の武将と兵士らと、織田信長の妻である“帰蝶”、そして織田信長の妹である“お市”を含めた女性達だけだった。
絶世の美女と言われたお市は、城の中庭が見渡せる廊下から、夕焼けの空を見上げていた。
【????】「何を見ておる、市?」
お市の横から、帰蝶が姿を現した。
【お市】「義姉上様…。」
帰蝶の顔を見たお市は、再び夕焼けの空を見た。
【お市】「あの方角の空の下で、兄上達は戦っているのですよね?」
【帰蝶】「ああ…。」
【お市】「大丈夫でしょうか? 今回の戦には、あの紗耶と言う子も戦に出ています。まだ若いか弱き女の子だと言うのに…。」
お市は誰よりも心配性だ。特に今回は今までの戦とは違う。それは帰蝶にも分かっていた。
【帰蝶】「大丈夫! そう、心配する必要は無い。信長や勝家達が彼女も守ってくれている事だろう。」
【お市】「でも…、嫌な予感がするんです。」
【帰蝶】「嫌な予感?」
【お市】「何だか、とてつもない危機が迫っているような気がして…。」
【帰蝶】「・・・・。」
【お市】「私の気のせいだと良いのですが…。」
それを聞いて少し口を閉ざした帰蝶だが、しばらくしてフッと軽く笑みを見せた。
【帰蝶】「気のせいよ!」
2人に冷たい静かな風が流れ、2人の長い黒髪が風にあおられて揺れた。と、その風と共に、黒服を身に纏った忍び風の男たちが数人、城の至る所から突如として現れ、一瞬の内に2人を取り囲んだ。
【帰蝶&お市】「!」
その者達は全員が小刀を所持しており、2人を鋭い目で狙い定めていた。
【斉藤龍興】「どうだ、信長。俺様の考えた策の出来前は…。」
龍興は、勝ち誇ったような顔をして信長を睨みつけた。信長も龍興を黙って睨みつけている。
【明智光秀】「すぐに城へ兵を! 救出へ向かいます!!」
光秀は自分の兵士たちを引き連れて飛び出していった。
【斉藤龍興】「もう遅い…。今頃、俺様が送った忍びの者共が皆殺しにしているだろうさ。」
【前田利家】「貴様ーッ!!」
利家は、自分の刀の矛先を龍興の首に突きつけた。だが、龍興は動じなかった。
【斉藤龍興】「フッ…。この俺様を甘く見た貴様達が悪いんだよ!!」
と、龍興は再び高笑いをした。光秀はそれを横目に信長を見た。まだ信長は黙ったままだ。
【明智光秀】「信長様…。」
【斉藤龍興】「どうした、信長…。俺様の策の出来に言葉も出ぬのか?」
龍興は信長を睨み続けた。しばらくして、やっと信長が口を開いた。かと思ったら、龍興のように突然高笑いを始めた。それを龍興を含め、その場にいた全員が唖然としたような顔で信長を見ていた。少ししてから、高笑いを止めた信長はギロッとした目で龍興に向かって言った。
【織田信長】「言ったハズだ、龍興…。“この戦い、織田の勝利だ”、と…。」
それを聞いて、龍興の顔が変わった。
【斉藤龍興】「フザけるな! 貴様は、大切な妻と妹を失った!! この戦、間違いなく俺様の勝ちだ!!」
【森蘭丸】「殿! 何を言っておられるのですか!! すぐに兵を城へ!」
【織田信長】「その必要は無い…。なぜなら、2人は、まだ生きている。」
全員に衝撃が走った。
【斉藤龍興】「なぜ言い切れる!?」
【織田信長】「うぬが送った忍び兵なら、既に全員が倒されておる事だろう。」
【斉藤龍興】「なんだとッ!?」
【森蘭丸】「どういう事ですか?」
【織田信長】「“あの者たち”を城へ送り返した。」
【森蘭丸】「“あの者たち”?」
信長は、フッと微笑した。
その頃、墨俣城の中庭では、大勢の忍びが至る所に倒れていた。その中央には健在する帰蝶とお市、そして、その2人を守るように刀などの武器を手にした神宮寺紗耶、指宿健斗、中村若菜の姿があった。この高校生の3人が、2人に襲い掛かる忍び達を全員倒したのだ。
【神宮寺紗耶】「ふぅ~、間一髪!」
【指宿健斗】「(出番が遅くて)一時はどうなる事かと思ったぜ。」
【中村若菜】「私だって、武器を持てば戦えるんだからね!」
【帰蝶】「お主は…。」
【お市】「生きておられたのですね!」
お市は、喜びに満ちた顔で紗耶に抱きついた。紗耶はビックリして顔を赤くした。
【神宮寺紗耶】「ちょ、ちょっと、お市さん!?」
【お市】「…良かった。貴女がご無事で…。」
と、涙を流して言った。
【神宮寺紗耶】「お市さん…。」
【帰蝶】「紗耶とか言ったな…。お主達、どうしてココへ? それに、この2人は?」
【神宮寺紗耶】「この2人は私の友人です。ココへは殿様の命令(※詳しくは、本作の第7話の最後を参照)でやって来ました。」
【お市】「お兄様の…?」
【神宮寺紗耶】「ええ。殿様は、この城が襲われる事も含めて、全て承知だったようですよ。」
と、笑顔で言った。
【斉藤龍興】「…なんだと!?」
全てを知った斉藤龍興は、言葉を失った。
【織田信長】「うぬが策を考えていた事は知っていた。だから、うぬの策に掛かった振りをして、実は最初から我が信長の手のひらで転がさせていたのだ。」
【斉藤龍興】「…クッ!」
【織田信長】「…龍興。」
悔しがる龍興に、信長がギロッとした鋭い目で睨みつけて言った。
【織田信長】「貴様の負け、だ。」
【斉藤龍興】「!」
織田軍の全員が龍興を睨みつけている。
【斉藤龍興】「…お、俺は、負けてなどおらぬ!!」
その途端、龍興が周りの織田軍兵士らを次々と猛攻した。拳で片っ端に殴り飛ばしている。まるで、暴れた猛獣のようだ。武将達が龍興の猛攻を止めようとしたが、まるで歯が立たなかった。龍興は、そのまま信長に向かっていく。
【森蘭丸】「信長様ッ!」
蘭丸が信長を守ろうとするが、もう間に合わない。
【斉藤龍興】「どけぇ~ッ、信長~ッ!!」
突進してくる龍興と、一歩も動かぬ信長。このままでは、信長が倒されてしまう。
と思った次の瞬間、一瞬の隙を突いて、信長が身を屈みこみながら、龍興の突進を避け、同時に龍興の腹に一発拳で勢い良く殴った。
【斉藤龍興】「グハッ!!」
たった一発の攻撃だったのに、龍興の急所に見事に命中したようだ。龍興は腹を抱えこみ、片膝をついた。
【森蘭丸】「ご無事ですか、信長様!」
【織田信長】「心配いらぬ、蘭。」
【斉藤龍興】「…う。お、おのれ…。」
龍興は、ヨロめきながらも立ち上がって、織田軍たちを睨みつけながら天守閣の手摺まで自力で移動した。手摺の向こうは外だ。
【斉藤龍興】「ゆ、許さぬ…。このままでは許さぬぞ、信長ッ! 絶対に、俺は貴様を倒すまでは死なんッ!!」
次の瞬間、龍興は背中から手摺から身を乗り出し、そのまま天守閣から下に落下した。
【織田軍全員】「!?」
一同はビックリして、すぐに天守閣から身を乗り出して下を見た。龍興は上手く転がり落ちながら、稲葉山城から逃げていった。
【森蘭丸】「信長様、ご命令を! 直ちに、龍興を追って…。」
【織田信長】「いらぬ! 捨て置け!!」
【森蘭丸】「し、しかし!」
それ以降、信長は口を開かなかった。何かを考えているかのように、天守閣から夕焼けに染まる外の景色を眺めていた。
【前田利家】「…か、勝った。俺達は勝ったぞ~ッ!!」
利家の叫び声と同時に、周りにいた兵士や武将達からも歓声の声が上がった。
こうして、織田軍は斉藤軍に勝利した、…ように見えた。
【斉藤龍興】「…ハァハァ!」
龍興は、負傷を負いながらも稲葉山城を単独で脱出、深い息切れをしながら城の裏の林の中を駆け巡っていた。城からは織田の勝利の歓声が聞こえてくる。あの声が聞こえぬ場所まで、龍興はひたすら逃げ続けていた。
しばらく走った後、龍興は大木の下で足を止めた。息切れが激しい。それに、信長に殴られた腹の痛みが、呼吸する度にズキズキと痛む。
【斉藤龍興】「おい! いるんだろ、出て来いッ!!」
【稲葉一鉄】「こちらに…。」
美濃三人衆の1人である稲葉一鉄が、林の影の中から姿を現した。
【斉藤龍興】「向こうの準備は整っておるか?」
【稲葉一鉄】「はい。斉藤利三の報告によれば、百地、音羽も準備が整いまして御座います。いつでも出陣できる、と…。」
【斉藤龍興】「そうか、そうか…。」
そう言って、龍興は大木の根本に腰を下ろした。その時、腹がズキッと痛んだ。それを、一鉄が横から介抱した。
【斉藤龍興】「しかし、安藤守就や氏家卜全は使えぬ男だった。“美濃三人衆”の1人と聞いて呆れるわ。信長にかすり傷1つしか付けられぬとは…。のう、一鉄?」
【稲葉一鉄】「…はい。」
【斉藤龍興】「一鉄…、貴様は違うよな?」
【稲葉一鉄】「…はい。決して。」
【斉藤龍興】「そうか、そうか…。」
龍興はニヤッと笑みを見せた。
【稲葉一鉄】「・・・・。」
その時、再び龍興の腹に痛みが走った。
【斉藤龍興】「…信長、この腹の痛み、今度会う時までの“貸し”にしておくぜ。」
龍興は、拳をギュッと固く握り締めた。
その日の夜、織田信長が居城する城では、斉藤軍との戦いの勝利を祝って、終始、宴会ムードになっていた。織田家の家臣達が豪勢な食事や酒を飲んでは、お互いの活躍を披露していた。その中に、私(神宮寺紗耶)や指宿健斗、中村若菜の姿もあった。
【前田利家】「おい、藤吉郎! オマエの腹踊りを見せてくれ~!」
【木下藤吉郎】「おう! ワシの腹踊り、精一杯、披露してくれよう!!」
そう言って、藤吉郎さんは皆の前で豪快に腹踊りを始めた。それを見て、家臣達は大笑いしていた。だが、私たちはその笑いについていけなかった。
【滝川一益】「おう、兄ちゃん! オマエも、酒、飲むか?」
と、健斗の肩に手をやって言った。この家臣の人、すっかり酒に酔っている。
【指宿健斗】「い、いえ…。ボ、ボクは、まだ未成年なので…。」
【滝川一益】「ミセイネン? 何、ワケ分からない事を言っているんだよ! さ、飲め、飲め!!」
【指宿健斗】「だから、飲みませんってば!!」
【蜂須賀小六】「おお、姉ちゃん、…ヒックッ! き、綺麗だなぁ~。ど、どうだい、ワシに一杯、晩酌してくれんかの?」
【中村若菜】「い、いえ、私は…。」
【木下藤吉郎】「コラァ~、小六! オマエ、ワシの腹踊りを見ないで、何を小娘に媚びているんだ、このボケぇ~ッ!! ワシの腹踊りを、見んかいッ!!(怒)」
【蜂須賀小六】「わぁ~、ゴメンよぉ~、藤吉郎~!!」
【滝川一益】「えっ!? お、俺もかよ~ッ!!」
そう言って、蜂須賀と滝川は強引に藤吉郎に連行されていった。
【中村若菜&指宿健斗】(た、助かった…)
【指宿健斗】「おい、紗耶。そろそろ行こうぜ。」
【神宮寺紗耶】「行くって、どこに?」
【指宿健斗】「決まっているじゃないか。家に帰るんだよ。」
【神宮寺紗耶】「まだ分からないの? ここは、現代の日本じゃないのよ! どうやって帰るって言うのよ。それに、帰る方法が分かっていたら、とっくに帰っているわ!」
【指宿健斗】「そ、そりゃそうだけれど…。」
【中村若菜】「少しは現実を受け入れなさいよ。」
【指宿健斗】「受け入れられるかよ。こんな非現実的な事を…。」
【神宮寺紗耶】「帰る方法が分からない以上、ここに留まるしかないわ。」
【指宿健斗】「ずっとココにいろ、って言うのかよ!!」
【神宮寺紗耶】「仕方ないじゃないのよ!!」
私は、なぜか怒り口調になっていた。そして、「もう、いい!」と言い残し、1人、部屋の外へ出て行った。
【指宿健斗】「何を怒っているんだよ、アイツ…。」
外に出ると、晴れた夜空が私を出迎えてくれた。
私は、そのまま縁側に腰を下ろして、空を見上げた。夜空に浮かぶ綺麗な星空の数々…。私が住んでいる時代と場所では、こんなに沢山の星空は見る事が出来ないだろう。
【明智光秀】「どうしました?」
廊下の奥から、明智光秀さんが姿を現した。
【明智光秀】「どうしたんですか? 泣いていますよ?」
【神宮寺紗耶】「えっ?」
いつの間にか、私は涙を流していたようだ。私は、すぐに涙を手で拭いた。
【神宮寺紗耶】「ちょっと友達とケンカしちゃって…。」
【明智光秀】「大丈夫ですか?」
【神宮寺紗耶】「大丈夫。少し時間を置けば、またいつものように戻りますから。」
と、私はニコッと笑顔を光秀さんに見せた。それを見て、光秀さんはホッとしたようだ。
【神宮寺紗耶】「光秀さんは、宴会に出ないんですか?」
【明智光秀】「私は、皆さんの酔いに少しついていけなくてね…。」
そう言って光秀さんも軽く笑った。つられるように、私もフッと笑った。
【神宮寺紗耶】「柴田勝家さんの容態はどうですか?」
【明智光秀】「とりあえず、体に入った毒を抜き取る為に解毒剤を飲ませて、傷口は塞いであります。今はぐっすり休んでいますが、回復には少し時間が掛かるようです…。」
【神宮寺紗耶】「そうですか…。」
少し沈黙が流れた。
【神宮寺紗耶】「…私が、いけないんだ。」
【明智光秀】「え?」
【神宮寺紗耶】「あの時、私がもっと早く駆けつけていれば、勝家さんは負傷せずに済んだんだ。私がヘマをしなければ、誰一人負傷することなかったのに…。」
【明智光秀】「そんなワケないですよ。藤吉郎から聞いたんですが、紗耶さんはあの時、一矢で安藤守就を射とうとしたじゃないですか! それが、守就に隙を与えて倒す事が出来たんです。アナタの一矢が無かったら、勝家は本当の意味で危険だったかもしれないんですよ。」
【神宮寺紗耶】「・・・・。」
【明智光秀】「勝家も言っていたじゃないですか。アナタは、大きな功績を残したんですよ!」
けれど、私は顔を俯いたままだった。
【明智光秀】「・・・・!」
すると、突然、光秀さんが私の体をギュッと抱きしめた。
【神宮寺紗耶】「えっ!? ちょ、ちょっと…!?」
【明智光秀】「アナタが、自分を責める必要はどこにも無いんです…。アナタは、とても良く頑張った! それは、私や皆が保証しています。だから…、だから、もう自分を責めないで下さい。私は、そんなアナタの姿を見たくはありません!!」
【神宮寺紗耶】「…光秀さん。」
私の目から、また気づかぬ内に涙が出てきた。
【明智光秀】「あ、す、スイマセン! 泣かせてしまいましたか…。」
【神宮寺紗耶】「…いいえ、違うの。…嬉しいの、とっても。」
そして、私は、泣きながらもニコッと笑顔を見せて、
【神宮寺紗耶】「光秀さん…。ありがとう!」
と言った。
【織田家来】「明智殿!」
その時、家来の1人が私たちの前にやって来た。何か報告があるようだ。
【明智光秀】「どうしました?」
【織田家来】「そ、それが、怪しい4人組がやって来ておりまして…。」
【神宮寺紗耶】「怪しい4人組?」
【明智光秀】「もしや、その者たちは龍興の手下か?」
【織田家来】「い、いえ、どうも違うようで…。4人のうち3人は若い男と女の子供で、その3人はそちらの娘と似たような姿をした者もいて…。」
と、家来が私をチラッと見て言った。
【神宮寺紗耶】「えっ!?」
【明智光秀】「紗耶さんと似たような姿?」
【織田家来】「はい…。名前を尋ねると、1人は広沢美咲…。」
【神宮寺紗耶】「まさか!?」
私はハッとして立ち上がった。そして、家来に向かって言った。
【神宮寺紗耶】「すいません! その人達に会わせてくれませんか!」
【織田家来&明智光秀】「え?」
私は、健斗や若菜を引き連れて、家来の後を追いかけた。光秀さんも念のために私の後に続いた。
【指宿健斗】「何なんだよ、急に!?」
【中村若菜】「こんな夜中に、走ってどこへ行くの?」
【神宮寺紗耶】「もしかしたら、その4人は…。」
私達は、城の城門までやって来た。すると、そこには何人か人だかりが出来ていた。
【????】「だから、俺達は怪しい者ではないんです!」
【????】「そうですよ。川を下って行ったら、このお城が見えたんです!!」
私たちは、その人だかりの中心にいる4人の人物を見て、改めてビックリした。予感が的中した。
【神宮寺紗耶】「広沢先生!」
【広沢美咲】「神宮寺…さん!?」
【中村若菜】「藍!?」
【森下藍】「若菜ちゃん!?」
【楠山太陽】「あっ、健斗!」
【指宿健斗】「あ、委員長!?」
【足立裕輔】「俺もいるよぉ~!!(涙)」
【神宮寺紗耶】「みんなぁ~!!」
私を含む7人は嬉しくなって、周囲の目を忘れて、お互いに抱き合った。
【広沢美咲】「心配したんだからね、神宮寺さん!」
【神宮寺紗耶】「先生~ッ!!」
【森下藍】「やっと会えた~!(涙)」
【中村若菜】「どうしたのよ。ボロボロじゃない!」
【楠山太陽】「やっと、これで全員集合だな。」
【指宿健斗】「ああ!」
【足立裕輔】「もう死ぬかと思ったぁ~!!」
【広沢美咲】「さあ、神宮寺さんも見つかった事だし、家に帰りましょう!」
【神宮寺紗耶&指宿健斗&中村若菜】「・・・・。」
【広沢美咲】「どうしたの?」
私と健斗と若菜は、お互いの顔を見合わせた。
【神宮寺紗耶】「もう1回、最初から説明するの?」
【中村若菜】「仕方ないんじゃない?」
【神宮寺紗耶】「勘弁してよ…。」
この時代の事などを含めた全部を話すのは大変なんだから…。
しばらくした後、私たち7人は、城の大広間へと連れられた。先程までこの場所では宴会が行われていた部屋だ。しかし、この城の城主である織田信長が私たちと話をしたいとの事で、宴会は急遽中止され、すべて片付けられ、元の殺風景な部屋に戻っていた。
大広間の奥の間に織田信長が座り、その手前側に私たち7人、その私たちの左右に織田の家臣が一列に並んで座った。
私たちはこれまでの経緯を改めて説明した。信長はそれを聞きながら、真剣そうな目つきで、目の前に置かれた巻物に目を通していた。その巻物は、私たち7人がこの時代に来る事になった不思議な巻物だ。それを太陽君が持っていたのだ。
【織田信長】「…なるほど。」
【滝川一益】「殿、何か分かりましたか?」
【織田信長】「この巻物、その小娘と光秀の絵が描かれておる。」
【明智光秀】「私が?」
信長は手にしていた巻物を広げて、描かれていた絵を皆に見せた。
【明智光秀】「た、確かに、これは私のようで…。それに、この娘は紗耶さんのようですね。」
【織田信長】「小娘、この絵の意味は何だ?」
と、私の顔を見て聞いた。
【神宮寺紗耶】「分かりません。私は、その絵を目にした途端に、この時代へやって来たのです。私と同じく、この6人も…。」
【織田信長】「・・・・。」
【滝川一益】「殿、この者達をどうなさいますか?」
【織田信長】「…小娘。」
【神宮寺紗耶】「はい!」
【織田信長】「うぬには、此度の戦の褒美がまだだったな? 申してみよ。」
【滝川一益】「殿! 今、そのような事を聞く時では…。」
【織田信長】「申せ!」
信長がいきなり怒り口調で言うものだから、私はビクッとした。ホントに、突然、この人は何を言い出すのだろう。
【織田信長】「何でも良い。申してみよ…。」
【指宿健斗】(俺達を帰らせてくれ!)
【神宮寺紗耶】「だったら…。私を含めたこの7人を、改めてアナタの仲間にして下さい!!」
【指宿健斗】「えっ!?」
【織田信長】「…フッ、良いだろう。」
【指宿健斗】「ええっ!?」
【織田信長】「光秀。」
【明智光秀】「ハッ!」
【織田信長】「この者達のお世話、うぬに任せる。」
【明智光秀】「承知!」
【織田信長】「うぬ達には、また改めて話を聞かせてもらおう。今日は、ゆっくり休め。」
そう言って、信長は部屋から出て行った。
【指宿健斗】「何でだよ、何であんな事を言ったんだよ!?」
あの後、私たちは2つの隣り合った10畳ほどの和室に案内された。この部屋は、私たちがいる間に信長が貸してくれた部屋であり、私たちの部屋でもある。その部屋で少し落ち着いていた時、健斗が私に詰め寄ってきて言ったのだ。
【神宮寺紗耶】「健斗は知りたくないの? あの巻物に書かれた絵の謎を。」
【指宿健斗】「そんな事はどうでも良い。俺達がココにいるのは危険だって! 今回の戦は、たまたま相手が弱かったから勝てたようなものだ。それを、このまま信長の下に付いているんだったら、また次の戦に出されてしまう。俺達は、ただの素人だ。ずっと無傷でいられるワケない!!」
【神宮寺紗耶】「じゃあ、健斗は1人で外れれば良いじゃない! 私は、誰に何と言われようと、このまま付いて行くわ。」
【指宿健斗】「…くっ!」
健斗は、そのまま横にいた太陽君を見て言った。
【指宿健斗】「おい、委員長からも何か言ってやってくれ。」
【楠山太陽】「俺は紗耶ちゃんの案に賛成だな。」
【森下藍】「私も。」
【指宿健斗】「へ?」
【森下藍】「だって、このまま城を出て行ってさ迷っていた方が、よっぽど危険だもん。だったら、信長の下に居た方が少しは安全だと思うし…。」
【楠山太陽】「同感!」
太陽君は、ウンウンと頷いた。
【指宿健斗】「じゃ、じゃあ、先生は? 先生は、どうなんだよ!?」
【広沢美咲】「…健斗君。残念だけれど、私も神宮寺さんの案に賛成だわ。森下さんと同じ理由でね。それに、ここに残っていれば、いつか現代へ帰られる方法が見つかるかもしれないわ。」
【指宿健斗】「先生まで…。」
【広沢美咲】「ただし、1つだけ条件があるわ。これだけは皆に必ず守って欲しいの。」
そう言って、広沢先生は皆を集めて、小さい声で言った。
【広沢美咲】「良い、みんな。よく聞いて。私達は今、大変な場所にいるの。戦国時代、つまり日本の過去にね。私たちが現代へ帰るのはもちろんだけれど、それ以上に、この時代に何らかの形で関渉するのはいけないの。」
【足立裕輔】「どうして?」
【中村若菜】「分からないの? 日本の歴史の教科書に私たちの事が書かれている?」
【足立裕輔】「いいや、全然。」
【広沢美咲】「そう、書かれていない事が正しい事なの。つまり、“この時代に私たちがいた”と言う痕跡を何一つ残さないこと。もし何か小さな欠片でも残っていたら、最悪の場合、それ日本の歴史を大きく覆すかもしれない大変な事なんだから。」
【楠山太陽】「でも、先生。もう既に痕跡は残っていますよね。例えば、例の巻物だとか。アレには、ありえない事が書かれているんだし…。」
【広沢美咲】「そう、だから、アレは私たちの手で処分するしかないの。でも、アレは私たちにとって“謎”でもあり、現代へと帰る唯一の“手がかり”でもある。だから、アレは最後の最後まで処分はしない。そして、私たち7人以外の誰にも絶対に渡したり盗られたりしてはいけないのよ。私たちの事も最小限に留めること。」
広沢先生の話を聞いて、私たちはゴクリと唾を飲んだ。
【広沢美咲】「良い、みんな。何があっても、絶対に歴史の教科書に書かれた通りにしなければならないの。もし少しでも違えれば、私達は生まれてこないかもしれない! それだけは絶対に忘れないで守ってね。」
私たちは、「はい!」と力強く頷いた。
【お市】「紗耶さん。入っても宜しいですか?」
【神宮寺紗耶】「お市さん? はい、どうぞ。」
着物姿のお市さんが、私たちの部屋に丁寧に入ってきた。
【楠山太陽&足立裕輔】「!」
お市さんの姿を見た途端、太陽君と裕輔君の動きが止まった。
【お市】「…あの、そちらのお二人、何か私に付いているでしょうか?」
【楠山太陽】「あっ! い、いえ…。」
そう言って、太陽君は慌ててお市さんから目をそらした。
【中村若菜】「あ、委員長。さては、お市さんに見とれていたわね?」
【楠山太陽】「べ、別に、そんなんじゃ…。」
【中村若菜】「じゃあ、何なの?」
【楠山太陽】「か、からかうじゃないよ!」
若菜や藍はクスクスと笑っていた。…そうか、太陽君と裕輔は本物のお市さんを見るのは初めてか。さすが、お市さんの美貌さだ。2人の目を一瞬にして奪うなんて…。う~ん…、羨ましい!
【足立裕輔】「あ、あの! ボク、足立裕輔と言います 家族を作ること前提に付き合って下さい!!」
【指宿健斗】「おいおい、いろんな過程を一気に飛ばしたぞ…。」
【森下藍】「やめてよ、裕輔! 恥ずかしい!!」
【中村若菜】「それに、お市さんはもう既に相手はいるわよ。」
【足立裕輔】「え?」
【森下藍】「そうなの?」
【お市】「はい…。」
と、お市さんは顔を赤らめて言った。
そう、お市さんの相手は既に決まっている。近江(※現在の滋賀県)の戦国武将である浅井長政と言う人だ。お市さんは織田と浅井で同盟を結ぶ、いわば“道具”として浅井家に嫁ぐのである。
裕輔は、それを知って、ズーンと急激に落ち込んでしまった。
【足立裕輔】「俺、今回、こんな役ばかり…(泣)」
【楠山太陽】「ご愁傷様。」
【神宮寺紗耶】「それより、お市さん。何か私たちに用事でもあったんじゃ…。」
【お市】「あ、そうでした。すっかり忘れてしまうところでした。」
と、ポンと手を叩いて言った。
【お市】「皆さん、今日は随分とお疲れの事でしょう。だから、お風呂などでも入って、体を休めてはいかがですか?」
“お風呂”と言う言葉を聞いて、裕輔の耳がピクッと若干動いたような気がした。
【森下藍】「えっ、お風呂あるんですか?」
【お市】「ええ、それはそれは、心も温まる心地よいお風呂が。」
【女性陣】「入ります、入ります! 是非!!」
【お市】「それは良かった! 男性の方もありますので、どうぞ。」
【足立裕輔】「も、もしかして、混浴ッスか!?」
【女性陣全員】「そんなワケないでしょ!(怒)」
【足立裕輔】「はい…(やっぱり、俺、こんな役…)」
こうして、私たちはお風呂を借りる事にした。
【女性陣全員】「うわぁ~、お風呂だぁ~!!」
多くても7、8人は入れるだろうか、大きなお風呂が私たちを出迎えてくれた。湯船からは温かそうな白い煙も出ている。それを見た若菜と藍が湯船に飛び込んだ。広沢先生も後に続いた。
【森下藍】「温っか~い!」
【中村若菜】「生き返るわ~。」
【広沢美咲】「どうしたの、神宮寺さん。アナタも入ったら?」
【神宮寺紗耶】「え、ええ…。」
私は、何だかお風呂に入るのがイヤだった。なぜなら、此度の戦などで体に傷が出来ているからだ。お風呂に入ると沁みそうで、沁みそうで…。
【中村若菜】「早く入りなさいよッ!」
若菜に強引に腕を引っぱられ、私は湯船の中に入った。その途端、ジーンと痛みが体中に走り回った。
【中村若菜】「あれ、どうしたの?」
【神宮寺紗耶】「じ、自分のタイミングで入るから、気にしないで…(泣)」
そして、私はガマンしながら、湯船に体を入れて落ち着かせた。やっぱり、気持ちいい~。
【広沢美咲】「こんな時代にも、こんなに広くて良いお風呂があったのね。」
【森下藍】「最高ですぅ~。」
【広沢美咲】「でも、良かったわ。神宮寺さんが無事で…。」
【中村若菜】「ホント、ホント。」
【神宮寺紗耶】「私も一時はどうなる事かと思ったんですが、城の方達が丁寧に接してくれたので…、今ではもうスッカリ馴染んじゃった!」
【森下藍】「それじゃあ、ずっとココに残る?」
【神宮寺紗耶】「う~ん…。それは、ちょっと困る。」
それを聞いて、私たち女子はフフフと笑った。
【指宿健斗】「賑やかそうだな、隣は…。」
女風呂のすぐ隣には男風呂があり、そこには健斗や太陽君に裕輔、そして光秀さんも湯船に浸っていた。
【楠山太陽】「コッチ(男湯)とは大違いだな。」
【足立裕輔】「ボクは人魚~♪」
と、裕輔がお尻を時々出し、魚のようにクネクネと泳ぎながら、太陽君たちの前を横切って行った。それを、すぐに太陽君が裕輔の頭を叩いて強引に止めさせた。
【足立裕輔】「だって、広いお風呂なんだもん。泳ぎたくなるでしょ?」
【楠山太陽】「やめんか! 現代の恥だ!!」
【明智光秀】「でも、確かに、紗耶さんが来てから、この城内は少し賑やかになりました。今まで戦続きだったので、兵や家臣達も疲れきっていたのですが、彼女が着てから希望の光が見えたかのように、皆の顔が明るくなりました。」
【指宿健斗】「・・・・。」
【明智光秀】「彼女には敵と戦う力だけではなく、別の大きな力も眠っているんでしょうね。まるで、“あの人”の生き写しのようです…。」
【楠山太陽】「“あの人”?」
【明智光秀】「あ、いえ…。コチラの事です…。」
【楠山太陽&指宿健斗&足立裕輔】「?」
一方、私たち女風呂では、お市さんもやって来て、一緒に入ることになった。お市さんがお風呂場に姿を現したとき、私たちはお市さんをジーッと見とれていた。
【お市】「あ、あの、皆さん…。どうかされたのですか?」
【お市以外の女性全員】「ま、負けた…。」
【お市】「えっ!?」
【広沢美咲】(顔だけじゃなく体まで美しいときた…。私の方が年上なのに…(泣))
【森下藍】「どうしたの、先生は? 泣いているよ。」
【中村若菜】「たぶん、自分と比較してショックを受けているんじゃない? そっとしておきましょう。」
【お市】「どうですか、お風呂の湯加減は?」
【森下藍】「もう、サイコーです!!」
私たちもウンと頷いた。
【お市】「それは良かったです。私も最後にアナタ達と一緒に湯船に浸かれて、本当に良かった。」
【広沢美咲】「最後?」
【お市】「私、数日後には、浅井家に嫁ぐことになりました。この城の、この湯船に浸かれるのも、今日が最後です。だから、最後にアナタ達と一緒に入りたかった。特に、紗耶さん。アナタと。」
【神宮寺紗耶】「私?」
【お市】「ええ。アナタがこの城に来た時、私は嬉しくなりました。自分の妹が出来たかのような感じで…。兄上の信長は、いつも戦の事や民の事で頭が一杯らしく、私にあまり構ってくれませんでしたから…。」
【神宮寺紗耶】「そうだったんですか…。」
【お市】「だから、アナタも戦に出ると聞いて、何かあってはダメだと思って、真剣にアナタの防具選びをしていましたよね?」
【神宮寺紗耶】「あ、そんな事もありましたね…。」
【お市】「私、短い間だったけれど、アナタや、アナタ達に出遭えて、本当に嬉しく思います。未来にアナタ達のような素晴らしい人がいるなんて…。どんな事があってもアナタ達を未来に帰さなければなりませんね。アナタ達に、ココは似合いません。きっと帰れる事でしょう。」
お市さんの言葉に、私たちは感動して涙が出そうになった。
【神宮寺紗耶】(私も、アナタは素晴らしい人だと思いますよ、お市さん。禁断と言えど、時を越えてアナタと出遭えたこと、誇りに思います。未来へ帰っても、絶対にアナタの事は忘れません!)
私は、そう心に思い、誓った。
【指宿健斗】「…裕輔、何をしているんだ?」
気が付くと、裕輔が1人、頑張ってお風呂場の壁を足場も無しに登ろうとしている。
【足立裕輔】「ムフフ…。コレ、コレ♪」
そう言って、裕輔は指差した。その先には、壁だったハズだが、そこに人が1人通れるくらいの若干の隙間が空いていて、隣の女湯と繋がっている。女湯の声が男湯に聞こえたのは、この隙間があったからだ。
【指宿健斗】「ま、まさか!?」
【楠山太陽】「オマエ、覗く気じゃないだろうな!?」
【足立裕輔】「その“まさか”だよ。」
そう言って、裕輔は頑張って壁を登っていく。しかし、滑っている為と足を掛ける場所が無い為、簡単には上がれない。
【明智光秀】「危険です。すぐに降りて来なさい!!」
【指宿健斗】「そうだ。危ねぇぞ!!」
だが、裕輔は聞かなかった。
【楠山太陽】「…なんか、いきなりオチが読めたような気がする。ほっとけ。」
【指宿健斗】「…それもそうだな。」
【足立裕輔】「俺はオチ担当なんかじゃないぞ、オチ担当じゃないぞ!!」
そう言いながらも、裕輔は何とか自力で這い上がって、ついに隙間に手を掛けた。
【足立裕輔】「やった~! これで覗けるぞ~!! じゃじゃ~んッ♪」
次の瞬間、幾つモノ風呂場の桶が女湯から一斉に飛んできて、裕輔の顔面にパコーンッと次々に直撃した。そして、そのまま裕輔は背中から男湯の湯船に激しく落下した。
【女性全員】「アンタの声、丸聞こえなのよ!!(激怒)」
【足立裕輔】「ご、ゴメンなしゃ~ぃ…。」
【指宿健斗&楠山太陽】「やっぱり…。」
【お市&明智光秀】「・・・・。(苦笑)」
やはり、裕輔はオチ担当なのだろう…。ものすごく哀れだ。
【お市】「た、たまには、こんなに賑やかなのも良いですね…。」
≪ 第9話に続く ≫
※この作品に関するご意見・ご感想などがありましたら、お気軽にお寄せ下さい。
※この続きの公開予定日は、現時点で未定(2010年1月1日現在)となっています。
最終話まで、あと 2 ~ 4 回?




